コロナ禍を機に海外出張の代わりに、ウェブ会議を頻繁に行うことが国際業務のスタンダードになりました。英語関連事業を行う当社(レアジョブグループ)の調査によると、英語で仕事をしている人の8割(N=578名)が、「オンラインのコミュニケーションが定着する」と言っています。

急に英語のウェブ会議に参加することになっても、コツさえ押さえておけば、怖くありません。前回は英語ウェブ会議での「やりとり」についてお話ししましたが、今回は、自分が話すときに特に気をつけたい異文化コミュニケーションに焦点を当てます。

1.ローコンテクストとは?

みなさんは、日本語で言いたい事をきちんとした英語にして話しても、相手があまり腑に落ちていなさそうだと感じたことはありませんか?私はそういうときが時々あります。そんなとき、ひとこと足りないんじゃないか? と自問自答するようにしています。

「あ・うん」の呼吸とか「以心伝心」「行間を読む」「察してくれる」という言葉があるように、日本の文化の中でのコミュニケーションは、口で言わなくても分かり合える共通の基盤が多くあるという前提に立っています。その前提で私たちは無意識のうちに、言葉にして伝える必要があるところだけ、話しているのです。このようなコミュニケーションの仕方をする文化を《ハイコンテクスト文化》と言います。日本、韓国、中国、インドネシアなどがハイコンテクスト文化と言われています。しかし、それが当たり前の環境では、なかなか自分たちがハイコンテクスト文化にいるということに気づきません。

これに対して、お互いに口に出して言わない限り伝わらない、分かり合える共通の基盤はないという前提でコミュニケーションをする文化を《ローコンテクスト文化》と言います。アメリカ、オーストラリア、カナダ、オランダ、ドイツなどがそうです。歴史的にも多様な人種・多様な文化的背景をもつ人とのやりとりが多い国では、おのずとそうなります。ローコンテクストで話すというのは、相手に自分の言いたいことを理解してもらうには、わかりやすく丁寧に順序だてて、すべて言葉にして伝えていくことを意味します。

ちなみに異なるハイコンテクスト文化の人同士は、ハイコンテクストなコミュニケーションが通じるかと言えば、そもそもの共通基盤が異なるので残念ながら通じません。お互いに、言い足りなさがあるんだなと察してあげつつも、結局ローコンテクスト」で話すことになります。

2.なぜローコンテクストが重要なのか

グローバルなビジネスでは、雇用制度や仕事の進め方、仕事に関する価値観の違いなど、コミュニケーション以外の要素も影響します。海外拠点のマネジメントを例にとると、現地スタッフは、ポジションごとの職務定義(ジョブディスクリプション)に沿って担当業務が決まっています。「このくらいのことならやってよ」という曖昧さではなく、相手の目線からも納得できるよう、説明の仕方を工夫する必要があります。

さらにウェブ会議の場合には、特有の事情が加わります。画面から参加者の表情を読み取ることは対面よりも難しく、こちらの表情も伝わりにくいです。またインターネット環境がどのくらい整っているか、在宅勤務の環境や、情報セキュリティに対する考え方の違いなどで「自分の常識」が通用しないこともあります。

以上の理由から、英語でウェブ会議をするときは、お互いの共通基盤がより少ないという前提にもとづき、ローコンテクストで話すのが鉄則ということになります。

3.ローコンテクスト文化でのコミュニケーションのコツ

英語によるウェブ会議のコツを、ローコンテクストという観点からまとめてみました。

・相手の存在や意見を(賛成反対は別として)認知していますよという一言を、できるだけ個人名での呼びかけも含めて添えること。結構、この点に気づかず、いきなり自論から始めてしまう人が多いのですが、相手に聞く耳をもってもらうには大事なポイントです。’ Penny, thank you for your valuable feedback. In my opinion, ...’ (訳:ペニー、貴重なフィードバックをありがとう。私の意見としては……)のような感じです。

・発言する際に、自分がディスカッションをこう持って行きたいという方向付けを明確にする。例えば、’ We need to decide the next action to take in this meeting. I would like to propose...‘(訳:この打ち合わせで次のアクションを決める必要があります。だからこんな提案をしたい…)のような発言をすると聞き手側がそのつもりで聞くようになります。

・一般的なやりとりでも、理由や背景、論拠は聞かれていなくても必ず述べること。重要な論点ならデータや数値で論拠をしめし、選択肢を取らない場合のリスクなどを丁寧に説明しましょう。

・ノンネイティブ同士では、専門用語でなく、一般的な単語で、使い方や意味が微妙にずれていると感じることがあります。そんなときは即座にそれってこういうこと?と言い直して確認しましょう。言い換えて確認しておくと、あとで大きな勘違いになることを回避できます。

・やることを決めるときは、5W1Hをカバーして話すことと、期限があるものは進捗チェックのタイミングを明示してください。担当する本人に、これからやることを復唱してもらったり、その場の議事メモに残したり、スケジュールに即座に入れるのもよいでしょう。

・相手の説明が「ややくどいな」「そこまで言われなくてもわかっている」と感じても、相手はローコンテクストで話していると想像して、さえぎらないで聞きましょう。

・ウェブ会議では微妙な表情やニュアンスがわかりにくいので、運営する立場なら、ひとりひとり指名して発言の場を提供してください。あなたが参加者の場合には、逆にあいまいな点や納得がいかないことは、後回しにせず、その場で確認するようにしましょう。

・気を遣いすぎて逆にぎすぎすしないよう、ほめ言葉を入れるなど明るい雰囲気づくりに心がけることも大事です。

4.よくある事例

【日本のウェブ会議のやりとりの例】

Aさん:「じゃあ、Bさん、2週間以内に提案書を仕上げてもらいたいのでよろしくお願いします。いつもの提案書のひな型を使って、この会社むけに、さっきの3点をカスタマイズしてね。何かわからないことがあれば、Cさんが良く知ってるから聞いてくださいね。Cさん頼むね」

Bさん:「あー、はい、わかりました」

Cさん:「……(画面が動かなかったが、うなずいたように見える)」

Aさん:「では会議終了しましょう。お疲れさまでした」

さて、このやりとりをグローバルチームに置き換えた場合は、こんなことが起こり得ます。

【グローバルチームに置き換えると】

2週間後……

クライアントとのアポの2日前になってもBさんから何も言ってこないので、Aさんは、心配になってドラフトはいつできるかチャットで尋ねました。その日の午後、思っていたものと全然違うものが送られてきましたが、Aさんは時間がないため、慌てて自分で作って、やっと間に合わせました。

こんなすれ違いがなぜおきたのでしょうか? それぞれの言い分を図解してみました。

この例ように、ハイコンテクスト文化の前提で話すと、ローコンテクストですれ違いが起こります。気を付けておかないと、このようなすれ違いは身近に起こります。

こんなことが起きないように、英語のウェブ会議では、ちょっとくどいくらいに説明したり、細かく確認するローコンテクストでのコミュニケーションに心がけましょう。

次回は多様性について考えていきましょう。