在宅勤務でリモートでしか会ったことがない人と信頼関係をつくるのはなかなか大変だと思ったことはありませんか。直接会ったことがない海外の人との英語のウェブ会議ではさらに難易度が上がります。

でも信頼関係の構築は、スムーズにビジネスを進めていく上では欠かせません。

信頼関係があることを「ラポール(rapport)」と言います。もともとは心理学の用語だったのがビジネスシーンにおいても使われるようになっています。心と心が通じ合い、互いに安心感を持ち警戒心のないリラックスした状態で意思疎通できる状態を指します。 このラポールの状態をつくるためのコツをご紹介していきましょう。

1.ローコンテクストを意識して自己紹介

初回では、必ず自己紹介をしましょう。自己紹介は信頼関係をつくる基本ですが、会議を始めるときに、内容ばかりに目がいってしまい、この基本ができていないケースが多いようです。まずは「自分は何者なのか」を伝えないと、なかなか相手からの信頼は得られません。ここでもローコンテクスト、つまり相手と自分は分かり合える部分が少ないという前提で話しましょう。日本語の自己紹介より一層明るく、元気に話すと効果的です。

■自己紹介で実践できるとよいポイント

1分程度で基本パターンを準備

自己紹介はまず1分程度で、自分を印象付けるツボを押さえた基本パターンをつくって言えるようにしておきましょう。自分は何が強みで、どのような仕事をしているのか、会議にはどんな目的や役割をもって参加しているのかなどの内容を入れましょう。

“決め”の一文を準備

特に、その中で相手に自分がもっともアピールしたいことを述べる一文を作って頭にいれておきましょう。これは対面のエレベーターピッチ(短時間で端的に考えや物事を伝えること)のような場面にも応用できます。

相手も巻き込む

多数が参加するカジュアルな雰囲気の集まりで自己紹介にも少し時間がとれるようなら、自分に関する問題を出し、クイズで答えてもらうようなやりとりをいれると盛り上がります。たとえば「私って今まで何カ国に出張したと思いますか?誰か、当ててみて?」といった感じです。

2回目以降の会議でも簡単なアイスブレークを忘れずに

初回のみだけでなく、2回目以降の会議でも、短刀直入にアジェンダに入る前に、簡単に自分の今日のコンディション等を話し、次に相手についても尋ねるという順番がよいと思います。ビジネス文化によってこれを手短にしたほうがよい場合と、ゆっくり話したほうがよい場合があります。信頼関係がない状態で、相手のことを理解しようとするあまり多くの質問をすると「なんでそんなことを聞くの?」と思われてしまいがちです。アイスブレークは「今日は朝からずっと研修で、さっきまで会議室に缶詰めだったんですよ」といった自己開示からスタートするとよいでしょう。

2.相手を理解しようとする姿勢

相手に興味をもつ姿勢を大事にしましょう。これは本当にそう思っていないと言葉に出てきません。ただし、話の展開方法にちょっとした工夫を加えてみたり、雰囲気や状況によって取り上げる話題も変えてみましょう。

・あらたまった雰囲気なら「この会議前のスケジュールが忙しかった」とか、在宅勤務の実施状況を聞いてみるなど、仕事に少し近いことを話してみるのが無難でしょう。

・カジュアルな場であれば、もっと個人的な話題を持ち出してもよいでしょう。

・重要な話し合いなら、ネット上の情報やSNSなどであらかじめ情報を集めて、相手が話したくなるような質問や、盛り上がりそうな共通点を考えておくことをおすすめします。 ・ネタに困ったときには、画面の背景に見えるものや、相手が使っているバーチャル背景について聞いてみるのが手っ取り早いです。バーチャル背景は、思い入れのあるものの写真を使っている人も多いので、話が弾むこともあります。

相手が個人的なことを話した時はポジティブに反応し、感想や深堀した質問をすると、自分のことに興味を持っていると伝わります。自分に興味を示す相手に対して、人は心を開きやすくなります。

3.共通点・共感ポイントを見つける

家族、教育、趣味、好きな食べ物などで共通点があったり、共通の知人などがいると、ぐっと親近感が湧きますよね。先ほど述べた自己紹介は「自分を知ってもらうということ」に加えて、聞く側に自分との共通点を見つけてもらう情報提供の場でもあるのです。海外でも知られている映画、漫画・アニメ、スポーツ選手、韓流スター、さらにはお気に入りのSNS動画などでも話は結構盛り上がります。

私の最近の経験では、アメリカ人なら「大谷選手」、アジアの国の人なら「BTS」、フランス人なら「日本の漫画」の話題がヒットしました。

人によって、おしゃべりな人、早口で話す人、ゆっくり話す人、寡黙な人もいますが、ペースが双方であっていると安心感が生まれやすくなります。相手の話すペースを理解した上で、聞き取れなかった部分やわからない部分は正直に確認しましょう。相手もペースを意識してくれるでしょう。

相手の発言と同じことを繰り返すのも効果的です。きちんと言い換えられなくても、相手が使う表現や文章の一部を聞き手も口にすること、受け止めていますよというメッセージになります。自分に寄り添ってくれていると感じると相手への信頼が高まります。

4.母国語同士で話すのはルール違反

英語のウェブ会議では、英語を共通語として進めるという前提で成り立っています。したがって、会議中に日本人同士が日本語で話すのは基本的にNGと考えてください。日本人同士であっても、英語でやりとりをするように心がけましょう。

私はあるとき、韓国、アメリカ、日本の3カ国で会議をしたことがありました。途中で、韓国の参加者同士がハングルで話す状況が数回あり、そんなに長い時間ではなかったのですが、ちょっと話の流れが止まってしまった感じになりました。と同時に、自分も同じことやったことがあるので大いに反省しました。

どうしても意味がわからず、同席している日本人に日本語で「いま英語でこんなこと言ってたんですよね?」などと確認したくなることもあるでしょう。しかし、それは日本語がわからないほかの参加者にどう映っているのでしょうか?

おそらく「わからないことがあれば、直接聞いてほしい」と感じるでしょう。何か自分たちには話したくないことがあるのではないか? 作戦会議をやっているのでは? などと疑心暗鬼になる人もいるでしょう。いずれにしても、共通語としての英語以外でのやりとりを待っている側には疎外感が生まれ、ちょっとトーンダウンしてしまいます。

どうしても母国語で確認しないとわからないのであれば、それを断ってから母国語で話し始めたほうがよいでしょう。終わったら「いまこれがどうしてもわからなかったから聞いた」と理由を説明し、待たせたことを詫びてから話に戻るのがマナーです。

「英語を共通語とするというルールを守ることがフェアである」という信頼感の醸成につながるのです。

以上、オンラインでのコミュニケーションでも、「ラポール」の状態を作るために様々なことができます。ぜひトライしてみてください。

コロナを機に日本でもオンラインで英語を使うことが定着してきました。とりわけ英語によるウェブ会議の場を有効に使うことがますます重要になっています。

私はこれまで、海外留学や駐在の経験がなくても見事に英語を使いこなすビジネスパーソンにたくさん出会ってきました。こうした方に共通するのは、自分なりに英語のスピーキング学習を習慣化しながら、会議でのコミュニケーションのコツを身に着けていることです。

この連載をお読みになった皆さんも、学習と工夫を続ければ、英語のウェブ会議の達人になれるでしょう。

これまで5回にわたり、すぐに実践できる英語のウェブ会議のコツをご紹介してきました。少しでも読者の皆様に役立てていただくことを願っております。