• 『百花』全国映画館にて公開中 (C)2022「百花」製作委員会

――今月にはプロデュース作品の『百花』が公開されました。どのように企画が進んだ作品なのですか?

ヒットメーカーでいろんなことに挑戦している川村元気くんが小説を書いて、「これは自分の個人的な経験と思いを元に書いた。映画化するとしたら自分で監督に挑戦したい」と相談されたのが最初です。東宝の作品としては、側(ガワ)が小さい物語でもあって、それを初監督がやる。そうすると、プロデューサーとしては「これはいろいろ大変だな…」って一瞬思ったんですけど(笑)、やっぱり作り方から挑戦できるというところに燃えてしまって、一緒に試行錯誤しながら立ち上げていった感じですね。だから、今までやってきたことが全部生きたし、映画というアートフォームしか持ち得ない作品性を追求して、劇場でしか味わえない魅力を映像面でも音楽面でも表現できた作品だと思います。親子の記憶を巡る愛の物語として、観客の皆さんに自信を持ってお届けできる作品になっていますので、ぜひたくさんの方に劇場でご覧になっていただきたいです。

映画に来て改めて思ったのは、先ほどの話にもつながるんですけど、“物語の力”が本当にあれば、翻訳されても世界に届くということなんです。側(ガワ)から入るんじゃなくて、物語を深く突き詰めていった先に世界に開けるといいなと思って追求してきたので、世界の映画祭できちんと見てもらいたいというところから一緒に脚本作りから始めました。おかげさまで、サン・セバスティアン国際映画祭のコンペに選ばれるとこまではいけたので、自分の考え方は間違ってなかったのかなと少しホッとしました。『dele』もそういう作り方でカンヌ(MIPCOM BUYERS’ AWARD for Japanese Drama)でグランプリを頂いたので、自分の中で確信が深まる大切な経験となりました。

――『百花』の主演は、『dele』でご一緒されていた菅田将暉さんですが、当時からの成長というのは感じますか?

菅田くんは役者であり、音楽家であり、表現者としてビビットに世の中で感じたことに反応して、いい意味で変化し続けていると思うんです。それを「成長」と言うのはちょっと違うのかなと。なぜなら、昔は未熟だったのかと言われればそうではなくて、そのときにしかできない表現者としてのパワーを持ちながら、毎回その時代と年齢に合わせて変化し続けている感じだと思うからです。

ただ、表現者としてのすごみがどんどん増してきているので、向き合う人は大変になってくるんじゃないかと思いますけど(笑)、彼との仕事は刺激になりますし、楽しいですね。常に変化し続けて、こちらも、もっともっとクリエイティブの幅を増やさなきゃと思わされるので。

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■映画の立場から見るテレビの役割とは

――昨今YouTubeやサブスクの動画配信が盛り上がってきている中で、テレビの役割というのはどのように感じていますか?

やっぱりテレビにしかできない役割というのは絶対あって、日本人にとって今も一番、日常に根ざしている大きな映像インフラだと思うんですよね。だから、生活に根ざした情報やエンタテインメントを、一番距離感の近いところで今まで通り提供し続けてほしいと思います。それは、予算がないからできないとかじゃなくて、アイデアだと思うし、今生きている人たちと向き合ってさえいれば、おのずといろんなものが出てくるんだろうなと思います。才能のある方々は常にたくさんいらっしゃるし。

――映画の立場から見て、かつては各局にレギュラーの映画枠があったものの、映画の放送本数がだいぶ少なくなったのは、いかがでしょうか。

僕も『日曜洋画劇場』のプロデューサーを兼務していたことがあるんですけど、映画をテレビで見るって、レンタルビデオ屋さんに行かないと観られなかったものを、無料でテレビでやってくれるという強さがあったんですよね。そこには、映画というコンテンツがお茶の間に届くまでのタイムラグがあったんですが、今は配信で劇場公開が終わってある程度の期間で手軽に観られるし、下手したら劇場と同時公開というのも出てきてる時代なので、テレビが本来持つ即時性というところから、ちょっと距離が遠くなってしまったのかなと思います。

―― 一方で、シリーズ作品の最新作が劇場公開されるタイミングに合わせて、過去作を放送するというケースがありますが、この効果は大きいですか?

「明日劇場公開です」というタイミングで前のシリーズ作を地上波のプライムタイムで放送されるのは、今でもめちゃくちゃでかいと思います。宣伝的には、かなりのパワーですね。テレビは日本中にあまねくあるから、その影響力は大きいです。

――ご自身が影響を受けた番組は何しょうか?

最初はドキュメンタリー志望だったので、『NHKスペシャル』ですね。今の時代のテーマになっている事件や事象を、長期間にわたってしっかりグローバルで、独自の切り口で取材して、視聴率という次元じゃなくて提示するということで、優れた作品がめちゃくちゃありますし、定期的に見返したくなる作品もいっぱいある。最良の作品群じゃないかと思います。見せ方としても、調査報道もあれば、ちょっとドラマ仕立てになっているのもあって、最近だと、山田孝之くんがやってた『東京ブラックホール』のシリーズは良かったです。民放でやろうとすると「どうやって採算取るんだ」って話になっちゃうと思うし、こういう試みができるのは素晴らしいなと思います。僕も1回『NHKスペシャル』を作ってみたいです(笑)

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”を伺いたいのですが…

今、僕が一番見ている好きなテレビ番組って、『100分de名著』(NHK Eテレ)なんですよ。もうとんでもなく素晴らしい番組だと思っていて。テレビはフローのメディアですが、ストックのパワーもあって、教科書を超えた素晴らしさがあるなと思って。ここ数年だとカミュの『ペスト』の回は神回だな思いました。コロナ前にすべてを予言していたかのようで、古典の物語を今に噛み砕いて分かりやすく伝えるのがすごいと思います。ぜひ、リスペクトも含めてプロデューサーの方にお話を聞いてみたいですね。

  • 次回の“テレビ屋”は…
  • 『100分de名著』秋満吉彦プロデューサー