注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、フジテレビ系バラエティ番組『全力!脱力タイムズ』(毎週金曜23:00~)で総合演出を務める有田哲平(くりぃむしちゅー)だ。
多数のレギュラー番組を抱える超売れっ子ながら、MCを務める『脱力タイムズ』ではスタッフの会議に参加するなど、制作者としての一面も持つ有田。なぜ「総合演出」という肩書きが付き、どのような役割を果たしているのか。また、“作る側”の面白さ、金言を受けたレジェンドとの共通点、『脱力』の今後の展望、そしてテレビへの思いなど、たっぷりと話を聞いた――。
■「有田さんはこんな企画じゃやりませんよね?」
――この連載はテレビの作り手の方へのインタビュー企画なのですが…
はい、拝読しております。
――ありがとうございます。前回登場した『全力!脱力タイムズ』制作総指揮の名城ラリータさんから伺ったのですが、有田さんは『脱力タイムズ』では座長として番組を作られていますし、『有田P おもてなす』(18~22年、NHK)も有田さんがコミットして作られていたと。ラリータさんは「有田さんも間違いなく“テレビ屋”だと思います」とおっしゃっていまして、ぜひお話伺えればと思います。そもそも『脱力タイムズ』はどのような経緯で参加することになったのですか?
僕が緑山(スタジオ)でドラマを撮ってるところにスタッフの方が企画書を持ってきて、「有田さんと仕事がしたい」とオファーを頂いたんです。その企画書を見てみたら、「世界の衝撃映像を見る」っていう、正直なんてことないよくある内容だったんですよ。僕と一緒に仕事をしたいと言うわりに、VTRを見て感想を言うみたいなことなのかなと思って、「僕はただ見てればいいんですか?」と聞いたら、見ていた企画書を僕から取りまして、「これは企画を通すために作ったものなので、1回この企画書のことは忘れてください。有田さんはこんな企画じゃやりませんよね? だから1から作りましょう!」って言われて、「ええええ!?」って度肝抜かれましたね。どういう口説き方してるんだと思って(笑)
――初めてのアプローチの仕方でしたか(笑)
そうですよ! そこから、「どんなことしましょう」っていろんなことを話しながら、ニュースのセットで報道番組のパロディみたいなことができないかとか案が出てきて、まずは映像を見ながらコメントを言うんだけど、解説員の先生がどんどん脱線していってミニコントが入るみたいな形で1回落ち着いたんです。
ただ、いつも映像を見て先生たちが脱線していって、芸人の方々が「何の話してるんだよ!」という毎回なので、あるとき僕も腰を上げまして、「これって映像を見るのはやっぱりやらなければいけないんですか?」と聞いたら、またここのスタッフが「待ってました」と。「いいんです、映像なんて全くいらないんです。もっとむちゃくちゃやりましょう!」と言い出すんですよ。そこから、芸人さんが一番弾けられて、得意分野を引き出せるものを作っていこうという今の形にだんだんなっていった感じですね。
――どのタイミングで、有田さんも「総合演出」として会議に参加されるようになったのですか?
最初は、「こんなことやろうか、あんなことやろうか」って楽屋で収録が終わった後に1~2時間くらい話す感じだったんですけど、「このゲストが来ます。例えば有田さんはどんなことやりたいですか?」とか打ち合わせするようになってきて、「ちょっと時間がないんで、もし良かったら別の番組の楽屋にお邪魔していいですか?」という第2段階がありまして。それで、他局の楽屋で2時間くらい話すようになったんですけど、さすがにこれはマズいだろうとなって、「ちょっと場所取りますんで、こちらでいかがでしょうか?」って言われて行ってみたら、もう本当に制作スタッフが会議しているような会議室だったんですよ(笑)
――(笑)
そこに、(当時)総合演出のラリータとチーフADと編成企画の狩野(雄太)くんが集まってまして、このあたりからもうガチの会議になりましたね。収録の延長線上じゃなくなりましたから。
――別日で。
はい。
――その会議で、有田さんはどんなことをおっしゃって、どんな役割を果たされているのですか?
まず、ゲストに来る芸人さんが決まって、「この人のこんなものが見たいなあ」というのを漠然と考えて、「だったらこんな展開はどうかな」っていうのを、本当に大雑把に話すんです。とにかくその芸人さんが一番生きるのは何かと考えて。
例えばツッコミの手数が多い人だったら、こっち側でたくさんボケを作ってツッコミをたくさん入れられるようにする。逆にあんまりツッコむ人じゃなかったら、何か面白い表情を出せる方法がないかとか、そういうのをいろいろ考えながら、その回のアウトラインを話すんです。それをラリータたちが持ち帰って、スタッフの方と(構成)作家さんの会議があって、1週間後に仮台本ができてくる。それを見て、「この流れだと本気でやりづらくなると思うよ」とか「この芸人さんはこういうのは苦手なんじゃないかな」とか「この展開だと、以前にもこんなパターンをやってるから慣れちゃってて、たぶん、お仕事モードになっちゃうよ」といった感じで指摘します。
出る側の立場から、「本当にマジで無理」と「一生懸命やれば面白くなる」という境界線の塩梅を、芸人ならではの視点で言えるかなと思いまして。例えば、ダマシで1個何かやるにしたって、「いやいや、こんな展開になったら芸人は絶対気づくよ」と。僕もいろいろな番組に出演させていただいて、「これは…なんか怪しいな」って気づいたことが散々あるので、「この仕掛けは丁寧にやらなきゃいけない」といったことを話していきますね。
――ラリータさんは、「有田さんに『目先の笑いを作ろうとするな』と言われる」とおっしゃっていました。何事もないように入って、最終的に爆発させると。そういったところの意識はいかがでしょうか?
この番組は本当にわがままなことをやらせていただいていて、フリをちゃんとやらせてくれるんですよ。そこは「フリがあるからオチがある」ということをちゃんとやろうと長年闘ってきたので、視聴者の方が難しいテーマから入っても「絶対何かある!」と思って我慢して見てくれている信頼関係があるような気がするんですよね。
今のテレビの作り方だったら、最初にハイライトをちょっと見せたりとか、「こんなことが起こるよ」って事前にちょっと告知をしたりとか、チャンネルを変えさせないように展開を細かくしたり、速くしたりするんですけど、この番組は粛々と進む前振りをただ10分間お届けしたり(笑)。でも、視聴者の皆さんは、「いやいや、そんなわけない」と思いながら見てくれて、最後に「なるほど」とか「やられた」とか「面白かった」とか、場合によっては「今日は途中で分かったな」とか「今回はいまいちだったな」といった反応も含めて、視聴者と掛け合いをしているような気分ですね。
■アンタッチャブル復活は「6カ月前から動いたプロジェクト」
――そうした中で、有田さんの特に会心の回を挙げると、何になりますか?
山ほどあるんですよねえ…。もちろん、皆さんからよくおっしゃっていただくアンタッチャブル復活の回(※)も、思い入れは強いですよ。あの回は何度も小手(伸也)さんの楽屋に行って、「すいません、5分でいいんでスケジュールください」って何度もお願いしに行って、とうとう会議を飛び出してキャスティングプロデューサー業までやり始めちゃいましたから(笑)
(※)…長年コンビ活動をしていなかったアンタッチャブル・柴田英嗣のゲスト回(19年11月29日放送)。最後に漫才を披露する流れになり、山崎弘也に似ているということで小手伸也が現れたが、うまくいかず退場して有田が呼び戻すと本物の山崎が登場し、約10年ぶりにコンビで漫才を披露した。ギャラクシー賞2019年12月度月間賞。
――小手さんのオファーも、有田さん自らお願いしていたんですね。
そうなんですよ。柴田にはそれまでも、『脱力タイムズ』の中で、「今日復活したらどうですか?」と言って、(ハリウッド)ザコシショウとかバービー(フォーリンラブ)とかが出てくるっていうダマシを何回もやってきたので、同じ人が来たら怪しむんですよ。だから、「今度こそ本物です!」って言って「小手さんじゃねーか!」で1回終わらせてあげて、その後にサプライズを入れなければ意味がないということになったんです。
でもその当時、小手さんがドラマとか映画で本当にお忙しかったから、小手さんがドラマを抜けられるタイミングにこっちの収録の時間を合わせて、「5分だけください!」ってお願いしに行ったんですよ。僕が「今度出てください」って言って、向こうも「ぜひぜひ」って返すのはよくあるやり取りじゃないですか。そういう社交辞令と思われたらいけないんで、もう会うたびに楽屋まで行って「すいません、今度の『脱力タイムズ』の回なんですけど、実は…」みたいな。もう6カ月くらい前から動いたプロジェクトでしたね。