• くりぃむしちゅー

――企画から参加するようになった最初の番組は、何だったのですか?

昔、東海テレビで『ゴッタ―ニ!』(95~97年)という深夜番組をやらせてもらったんですけど、ディレクターさんも若い人で「面白いことやりましょう!」みたいな感じだったので、ライブのVTR作りの延長線上でやらせてもらってました。名古屋収録で泊まりなので、上田(晋也)と僕とスタッフの方とみんなで飯食いながら、「今度こんなことやろう」という話をして、それが実現していくというのがありましたね。

でも、個人的には『アリケン』(08~10年、テレビ東京)ですかね。矢部宏光というディレクターがすごくお笑いが好きで、もちろん演出の矢部くんが作家さんといろいろ考えるんですけど、収録が終わってホリケン(堀内健)と僕と大橋(未歩)アナウンサーとスタッフ一同で必ず打ち上げをやっていて、そこでひらめく企画とか展開とかが、2週間後に必ず実現するというのが多かったんです。同期のホリケンと、やりたいことが実現するっていう夢のような番組で楽しかったですね。

――そこで、作る側の面白さを知ったという感じでしょうか。

そうですね。自分たちの考えた企画がテレビで放送されて視聴率が良かったってなると、今までの出演したときの発言とかやったことが「面白い」と言われるのとは違うカタルシスみたいなのがあります。たぶん、こういうのは昔から好きだったんだと思うんです。人のライブの幕間のVTRを作ったり、名前は出せませんが後輩のYouTubeで監督みたいなことをこっそりやってたりとかしてるんで。どうやら、自分が出るのが一番というわけでもなさそうですね。

考えてみると、『脱力タイムズ』でも、芸人としての自分と演出家としての自分がいて、変な二面性があるんです。だからこの番組に関しては、自分の発言ややったことが面白いとか言われることに、本当にこだわってないんです。

――『くりぃむナントカ』シリーズ(04年~、テレビ朝日)でも、企画を考えることはあるのですか?

そうですね。テレ朝の藤井(智久)さんが「一緒にやろう」と言ってくれて、その頃から「こんな企画いいな、あんな企画いいな」と雑談のように言ってて、それが実際に番組になっていくという感じでしたね。上田と僕が「こんなのやりたいね」となんとなく言ったことで良いのがあったら、そこからスタッフの皆さんが相当会議を重ねて企画にしていくんですよ。でも、それで本番を迎えて、何だったら途中で僕らが脱線して変な方向に行ってしまうというのもよくあるんですけど、スタッフの方は用意した企画を捨ててくれるんです。

――演者さんを信じてくれるんですね。

そう、信じてくれるんです。その後に第2ラウンド、第3ラウンドあったのに、こっちが弾けて脱線したらそのまま行こうみたいな。これはやはり学びましたね。作ることは時間をかけて本当に苦しい思いをしますが、現場で面白いことが起きてるんだったら、もうそれを捨てていくことも大事なんだという。

――でも、時間をかけて作った基礎があるからこそ、ということでしょうか。

そうですね。ガチガチに「この通りにやってください」とか、「ここで元に戻ってください」という番組も経験したことはありますが、『脱力タイムズ』でも、僕は現場で変わってこっちのほうが面白いって思ったら、事前の思い通りにいかなくてもそれでいいやと思うんです。なにせ芸人さんに内緒でやってることなんで、うまくいかないこともあるんですよ(笑)

■自然と実践していた“欽ちゃんイズム”

――『ソウドリ~SOUDORI~』(TBS)の特別編で、萩本欽一さんに舞台のリハーサルで「なんで君は真面目にやるの? レールに敷いたものを壊したい人でしょ?」とアドバイスされて、その通りに舞台で演じてからテレビのオファーが増えたという話をされていましたが、萩本さんも番組演出やプロデュースをされてきた方ですよね。何か有田さんと通じるところがあるのではないかと思ったのですが、いかがですか?

そうですねぇ。僕は『有田ジェネレーション』(Paravi)とか『有田P おもてなす』とか、これもスタッフと一緒に話し合って会議しながらやってきたんですけど、ありがたいことに芸人さんと絡む機会がすごく多くて、いつもすごく笑わせてもらってるんですね。何かポンって投げてみたらものすごく笑わせてくれるということが至るところでよくあって、例えば、『有ジェネ』の「Funkyジェネレーション」という企画のダイアンやコロチキ(コロコロチキチキペッパーズ)のナダルとかのラップ対決で、もう死ぬほど笑ったんですよ。そうすると、こんな面白いのまた見たいってなって、もちろん同じ映像は何回も見るんですけど、もう1回生で見て、これをもっと世に出したいってなるんです。そこで、『脱力タイムズ』であの面白さを出せるシチュエーションができないかっていうのを考えるんですよ。

萩本欽一

ナダルの回(21年10月22日放送)はまさにそうだったんですけど、本当に悪態をつくところを何回も見てきたので、何とかこれができないかと思って。「ちょっと楽屋で待っててください」と言って、待たせたら絶対にスタッフに文句言うし、そこにTKOの木下(隆行)を入れたらどうなるかってやってみると、やっぱり盛り上がるんですけど、芸人さんがみんなすごいのは、こっちが思ってた5倍くらいに面白くしてくれるんですよ。それが出たときは本当に喜びなんですよね。

一方でダイアンは漫才師なので、当然、自分たちがラップで言い合うことが売りだって彼ら自身が言うわけないじゃないですか。だけど、ダイアンのラップ対決が面白かったので、なんとかそれを『脱力タイムズ』で出せないかなって考えるわけです。それが、僕が萩本さんに「リハーサルでいい加減にやってる君のほうが味が出るんだから、そっちで行きなさい」と言われたのと同じことだというのは大変おこがましいんですけど。

――そういう芸人さんの新たな面白さを、いつも探してる感じなんですか?

というより、ただ単に自分が笑ったことを『脱力タイムズ』の会議で、「こないだあの番組であの人がこんなことやっててめっちゃ笑ったのよ」って言ってるだけなんですよ。「ヒコロヒーが芸人にダメ出しするやつ、面白かったんだよなあ。なんとか脱力タイムズで生かせないかなぁ」って。客観的に見て、その人の良いところをポンって押してあげるみたいな欽ちゃんイズムみたいなものが、もしかしたらあるのかもしれませんね。

  • 藤本敏史(FUJIWARA/左)とディーン・フジオカ=『全力!脱力タイムズ』6月17日の放送より (C)フジテレビ

でも、出演してくれた芸人さんはみんな「何なんですか!?」って帰っていく(笑)。その代わりスタッフ全員で約束しているのは、とにかく「OAを見たらめっちゃ面白かった」っていう反響を芸人さんに届けようと。視聴者がTwitterとかで言ってくれるかもしれないじゃないですか。だから、そうなるように編集しようと伝えています。どんなに現場で汗かいても、本人は何が面白いのか分かってないんで(笑)、それは心がけていますね。