――地上波に目を向けると、「コア層」を重点ターゲットとしてお笑い番組が増えていますが、この状況はどのように捉えていますか?

僕らのジャンルの作り手としてはありがたい限りですね。お笑い番組と一言で言っても、やっぱりネタの番組とテレビコントの番組というのは似て非なるものなんですよ。ネタの番組というのは、その人の面白さをドキュメンタリー性で見せていくもので、『M-1』なんて本当にその通りですし、『有吉の壁』でも、新しい人気者が生まれると世の中を動かすということになるので、ダイナミックに受け止めやすいと思うんです。

一方で、コンセプチュアルなコント番組というのは、『キングオブコントの会』なんてまさにテレビコントを作っていて思ったんですけど、ステージコントのネタの世界は、僕らが『ごっつええ感じ』をやっていた頃よりとても進化していて、みんなすごいんですよ。東京03とかシソンヌとか、さまぁ~ずもバナナマンも、ずっとライブ活動を続けてきた中でコントがどんどん進化して、そのレベルアップに驚かされて。それがテレビに収まりきらない感じになってライブでしか見られないという状況もあると思うんですけど、その進化したものが今後テレビのパッケージにハマって、ちゃんとお客さんを取れるとしたら、大したものだなと思います。ただ、テレビコントのスペシャリストを自負している私からすると、なかなかテレビで実現するのは大変なことだろうなと思いますね。そこは、松本さんも同じような心配をお持ちだと思うんですけど。

――古巣のフジテレビでは、王道のテレビコントの『新しいカギ』がレギュラーで始まりました。今はご担当されている『チコちゃんに叱られる!』の裏ですが…。

視聴者層が棲み分けられてますし(笑)、ナイストライだと思うので、応援したい気持ちはありますね。コント番組ってしゃべりながら見られないから、積極視聴には不利なんですけど、こういう番組がテレビでそれなりに結果を出すという世の中になってほしいなと思うんです。本来だと、こういう番組はタレントさんの“登場感”と噛み合ってヒットするんですよね。ダウンタウンがガーッと来てるときに『ごっつええ感じ』でコントが見られて、ウッチャンナンチャンがガーッと来てるときに『やるやら』でコントが見られる。そういうことで今までつないで、志村(けん)さんがずっとやり続けてくれたので、何とか成立してほしいなと願いますね。

  • 『新しいカギ』

――やはりテレビは積極視聴より、受動視聴のスタイルが圧倒的に多い状況があると思います。

ただ、それもだんだんなくなってきている気がするんですよね。家に帰って見るでも見ないでも漠然とテレビをつけているということで満たされていた何かがあったと思うんですけど、みんなスマホで手元が忙しいから、それもいらなくなってきてしまったんじゃないかと。そうして受動視聴もなくなったときに、テレビは積極視聴を目指して何をやっていくのか。見たいものが見られる配信には負けるから、やっぱり“共時性”でどういう勝負ができるかということになってくるのか。報道、スポーツにはそれがすでにあるとして、じゃあエンタテイメントでそんなことがあり得るのかと考えるんですけど、昔の『笑っていいとも!』(フジテレビ)ってそういう状況だったと思うんです。新宿のスタジオアルタで今面白いことが起きているということを、毎日中継でお届けして社会現象になるような。あそこまで行くのが理想ですけど、これからテレビにできるのかというところですよね。

一方で、テレビ受像機というあのデカい画面の端末をどう使うのかということで言うと、これはテレビ局がやることじゃないかもしれないですけど、超消極視聴に向かって、美しい風景や自然のノイズとか音楽に切り替えられる、“1枚の額”として活用されるというのもあると思います。有機ELの壁掛けテレビなんてものが普及していくなら、谷川岳でもアラスカでも、配信で自分の好きな画を選んで映していいわけですから。「スローテレビ」という考え方だと思うんですけど、ノルウェーの焚き火の番組がものすごい高視聴率をとって話題になりましね。僕はずっと前から言ってるんですけど、そういうコンテンツを集めるプラットフォームをどういうふうに構築するのかということを、どなたかやってくれればなあと思ったりもします。

■「ボケとツッコミの感じも分かってないですから(笑)」

――ご自身が影響を受けた番組を挙げるとすると、何ですか?

なんだろうなあ…。普通に銀行とかに就職するんだろうなと思ってたんですけど、偶然芝居の世界に入って、なんとなくテレビの世界に入っちゃったんで、「これを見てテレビに」というのがないんですよね(笑)。でも、子供の頃に夢中になって見ていたのは、『すばらしい世界旅行』(日本テレビ)とか『驚異の世界』(同)っていうドキュメンタリーですね。実はあんまりお笑いを見ていなくて、お笑いのルーツがあるとしたら漫画かなあ。『がきデカ』とか『すすめ!!パイレーツ』とか『マカロニほうれん荘』とか。テレビで見てたコメディもモンティ・パイソンとかで、あんまり日本のトラディショナルな笑いを楽しむ家庭環境ではなかったんです。

――「テレビなんて見ちゃダメよ!」という家だったのですか?

そんなことはないんですけど、ドキュメンタリーとか野球とか、あとNHKの『ニュースセンター9時』は必ず見るという感じでしたね。だから、兵庫出身なんですけど、吉本新喜劇のことを全然分かってないんです。藤山寛美とかも見たことなかったし、ボケとツッコミの感じも分かってないですから(笑)。逆にそうだったから学生時代に訳の分からないシュールな演劇をやって、それが松本さんとかの感覚に合ってたのかなというふうに思いますけどね。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”をお伺いしたいのですが…

『キングオブコントの会』で演出をやったTBSの浜田諒介くんですね。見ていて優秀だなあと思いました。「テレビコントは全くやったことないんで教えてください」とか言ってくれて、「もちろん何でも聞いてください」って言ったんですけど、何も聞かれないまま僕は松本さんのだけ進めてて、そのまま本番の日になり、他のコントが心配で見に行ったら、ちゃんと撮れちゃってました。本もちゃんと作れてたし。結局俺がやってることって大したことねぇなと思いました(笑)

後輩の皆さんのほうが今を感じてテレビの未来は切実に考えてると思うので、僕らはこれからどうしていけばいいのか教えてほしいです。その尻馬に乗っかってあと3年食っていけたらと願います。

  • 次回の“テレビ屋”は…
  • TBS『キングオブコントの会』『ザ・ベストワン』『東大王』浜田諒介氏