テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第71回は、18日に放送されたテレビ朝日系バラエティ番組『松之丞カレンの反省だ!』をピックアップする。

今春にスタートしたばかりだが、「チケットが取れない講談師」こと神田松之丞の初冠番組である上に、滝沢カレンとの未知数な絡みがウケて、クチコミでジワジワとファンが増加中。今回は、「占い師 大泉の母に相談だ!」という“毒舌カオス”必至のロケテーマだけに、このタイミングで番組の魅力をチェックしておきたい。


■忖度ないジャーナリスト風の松之丞

滝沢カレン

当番組のコンセプトは、「100年ぶりに現れた講談界のスーパースター・神田松之丞がロケに行く! その模様をスタジオの滝沢カレンと見て、あーだこーだと反省する」というもの。

まだあまりキャラクターが知られていない松之丞をロケに連れ出すことで「鮮度とオリジナリティの高い映像を見せよう」という狙いがあり、引いては作り手自身が「どうなっちゃうんだろう…」とワクワクしている姿がイメージできる。

今回のロケは、2020年2月の真打昇進にともない、六代・神田伯山の襲名が決定する前日に決行。松之丞はノリに乗っている状態だけに、「役作りじゃなくて、本当に占いが嫌い」と断言するなど、御年85歳の占いレジェンド相手にも容赦はない。

もちろん大泉の母も負けておらず、松之丞が襲名について尋ねると「見たまんましか言わない」とクギを刺してから手相を見はじめる。まず母から「まだ結婚してない」と言われた松之丞は「してます」と即否定。しかし、母は「してるように見えないけどね」とかわしてから「クールな性格でロマンがないね」と毒気たっぷりの言葉で反撃し、松之丞は「風俗嬢にも言われます」と笑わせた。

さらに母から「子どもは2人?」と言われた松之丞は「違います」と再び即否定。母は「2人できる」と言い直しつつ、「長男?」と聞くも松之丞は「次男です」と、これも不正解。このシビアな結果を受けた母が「100%とは言わないけど、長男の役目をやるよ」と言葉をつけ足したところで、松之丞が動く。

松之丞から「失礼な言い方ですが、結構ハズレてるんですが」と追及された母は「あんまり面白い手相じゃないね」と毒舌で応戦。母は同番組の将来について聞かれても、「そんなもん言わない」、襲名は「『継がない』って言ったら気落ちしちゃうし」などと言葉を濁してはっきり答えようとしなかった。

ここでピリついたムードを見たスタッフが、「1回止めて外出ましょうか」とロケを中断。外に連れ出された松之丞は、「(大泉の母は)理論武装が甘いタイプ。占いに関してはカンですよね」とバッサリ。さらに、

スタッフ「(松之丞が)弟子をとるかという…」
松之丞「(母はハッキリ)答えないから!」
スタッフ「番組の今後については…」
松之丞「(母はハッキリ)答えない!!」
スタッフ「講談師としての未来は…」
松之丞「(母はハッキリ)答えないんだよ!!」
スタッフ「上手くかわされてる…」
松之丞「(母は)上手くないんだよ!」

と、全否定をかぶせて笑いを取った。

ここまでの放送内容は、「あまり当たらないが、かわすような言葉をつないで切り抜けてしまう」という占い師のドキュメンタリーそのものであり、松之丞が誰にも忖度(そんたく)しない骨太なジャーナリストにも見えてくる。

■大泉の母から占いの本質を引き出す策士

それでも松之丞は、「視聴者に“素敵なかわいいおばあちゃん”だと思ってもらいたい」「人生の大先輩に対して生意気を言っている」と番組タイトル通りに反省し、失礼を詫びて占いを再開。ところが、スタッフの血液型当てをはじめた母が連続で外してしまい、最後には逆ギレしてしまう。一方、血液型を間違えられたスタッフたちも、空気を読んでいるのか、それとも松之丞イズムなのか、母の言葉を受け入れるという忖度はせず、微妙なムードを作り出していた。

松之丞は母のことを「逆に魅力のある人。占い師として生きた人生が面白い。本当言うと、もう占いに飽きているんだと思う。占いしなければいい人だと思う」と評したが、スタジオでは「一番よくないこと言っちゃってる(笑)」と一転して反省。その他スタジオでは、松之丞が「VTRの態度がよくなかった」と自らダメ出ししたり、松之丞から「僕と母どっちが悪い?」と聞かれたカレンが「勝手に行ってるのはこっちなんで…」と常識人の姿を見せるシーンがあった。

そして見逃せないのは、母が発した「占いは大人の遊び」というフレーズ。母は「占いは大人がゆとりを持って楽しむものであり、深刻になりすぎたり、粗探ししたりするものではない」と言いたかったのではないか。

これまで多くの番組で芸能人を占ってきた大泉の母に、占いの本質を言わせて、ただの職業批判や個人攻撃に終わらせなかったこと。また、最後にカレンが松之丞のロケを「100点満点中1点」と酷評したことも含め、松之丞とスタッフは、なかなかの策士である。

当番組は、「“毒舌の松之丞”と“異次元のカレン”をかけ合わせた化学反応を楽しむ」のが醍醐味と思われていた。しかし、ここまでの放送を見る限り、2人は化学反応というより、「意外なほど息ピッタリ」という印象が強い。「松之丞は思っていたより優しそうで、カレンもイメージより常識がある」と思わせる演出も含め、意外性が魅力となっている。

■「自由奔放」「炎上しない毒舌」ニーズに合致

「松之丞をロケに連れ出す」という希少性ばかりに目が行くが、「自分のロケを振り返り、反省する」という構成こそが当番組の肝だろう。本来、出演者の毒舌を和らげるのはスタッフ側の仕事なのだが、当番組は松之丞自らが反省することで、中和させている。

事実、画面左右の上部に配置されたワイプは、毒舌を中和させるという意味で、どの番組よりも効果的。ワイプは「ムダ」「蛇足」と言われがちだが、当番組は「2人がどんな反応をするのかな?」と気になるものになっている。

ここまでの放送では、須田亜香里の握手会、花田優一の靴工房、紹介制の高級焼肉店、エイベックス、松之丞のホームタウン・浅草、大泉の母と、ロケ地選びのセンスは抜群。笑いとドキュメント性のアベレージも高いレベルをキープしているほか、視聴者の反応も上々であり、局内の期待も高いのではないか。

今春、長嶋一茂と石原良純がゴールデンタイムの2番組に起用されたように、テレビ業界が「自由奔放なキャラクター」「炎上しない程度の毒舌」を求めているのは明白だ。当番組は、そのニーズにピッタリ当てはまるが、もし1時間枠に拡大して昇格させるのなら、「毒舌が冗長にならないか」「毒舌で共鳴できる人材がもう1人ほしい」などの課題が見えてくる。

テレ朝のバラエティは「ゴールデンタイムより深夜帯のほうがメジャー」という特殊なラインナップであり、とりわけ『陸海空 こんなところでヤバイバル』『ロンドンハーツ』『マツコ&有吉 かりそめ天国』『アメトーーク!』が並ぶ23時20分からの“ネオバラエティ”枠の層は厚い。

ニュースター候補の松之丞と旬のカレンをどこで、どう使うのか? 編成と制作、両者のセンスが問われているのかもしれない。

■次の“贔屓”は…山里・岩井・小宮のジェラシーが爆発する『ひねくれ3』

(左から)山里亮太、岩井勇気、小宮浩信

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、25日に放送されるテレビ東京系バラエティ番組『ひねくれ3』(毎週土曜22:30~)。

さまざまな業界で活躍をしている若き挑戦者・成功者をスタジオに招いて、彼らが成し得たものや将来の野望を“ひねくれ目線”を持つ山里亮太(南海キャンディーズ)、岩井勇気(ハライチ)、小宮浩信(三四郎)が検証していく。

次回放送の若き挑戦者・成功者ゲストは、弁護士の福永活也。「フリーターから敏腕弁護士になり、さらにエベレスト登頂や漫才にも挑戦する」という派手なプロフィールの人物だけに、3人のジェラシーが爆発するのではないか。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。