テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第42回は、20日に放送された『出没!アド街ック天国』(テレビ東京系、毎週土曜21:00~)をピックアップする。

1995年4月のスタートから放送23年半を超える『開運!なんでも鑑定団』と並ぶテレビ東京の看板番組。2015年3月に放送1,000回を超え、MCが井ノ原快彦になってからも、毎週ひたすら“街”を紹介し続けている。

その点、今回の「高円寺」は、番組の定点観測という意味で打ってつけの街。都内屈指のサブカルタウンだけに、番組が“街”をどうフィーチャーしているのか、明らかになるだろう。

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    高円寺などを走るJR中央線

逸話、逸品を含むトピックスの多さ

オープニングは街のイメージVTRから。「フォークソングブームの真っただ中だった1972年、吉田拓郎の大ヒットアルバム『元気です。』に収録されていた曲に高円寺の歌詞があったことからフォークの聖地となった」「独特のムードが人を呼び、役者、ミュージシャン、作家、画家、芸人などさまざまなアーティストが集結」と紹介された。

さらに、ナレーションで「現在もサブカルチャーの街として、あらゆる個性を受け入れる懐の深さとは何なのか?」「ダイバーシティな感じは、ある意味最先端」「フリーダムなカルチャージャングル、その底なし沼にハマってみます」と言い切って盛り上げた。23年半放送している以上、高円寺も含め「初出し」の街は少ない。だからこそ、どれだけ現在進行形の姿を見せてくれるのか。

「ベスト20」のトップバッターである20位は「夢追い人」。43歳の路上ミュージシャンや芸歴8年目の若手芸人に直撃しつつ、「『芸人が高円寺に住むと売れない』というジンクス。沼(のような街)」などの逸話を挙げた。

そこからカウントダウンしていくランキングは、19位「古本屋」、18位「店主がミュージシャン」、17位「コアな雑貨」、16位「ブルーオンベルベット(音楽バー)」、15位「高円寺フェス(イベント)」、14位「薔薇亭(洋食店)」、13位「元祖仲屋むげん堂(インド風雑貨店)」、12位「カレーの人気店」、11位「激安高円寺メシ」。

10位「天すけ(天ぷら専門店)」、9位「座・高円寺(劇場)」、8位「桃太郎すし本店」、7位「JIROKICHI(老舗ライブハウス)」、6位「大将(焼き鳥店)」、5位「抱瓶(沖縄料理店)」、4位「古着天国」、3位「宿鳳山高圓寺&氷川神社」、2位「東京高円寺阿波おどり」、1位「10の商店街」。

17位の「コアな雑貨」では、ポコちゃん人形50万円、ブリキの戦艦大和150万円などの逸品を発見。15位の「高円寺フェス」は翌週末に開催されるイベントであり、タイムリーである上にお得情報も。14位の「薔薇亭」では、全身ピンクのいでたちで客に説教する“高円寺の母”にフィーチャー。

その他、海ぶどうを最初に出したのは5位の「抱瓶」、古着店は100軒以上、高円寺で豚骨ラーメンの『なんでんかんでん』が復活など、当番組の生命線であるトピックスの多さは担保されていた。

番組のシンプル化とフィーチャリング

「ベスト20」の約半数がグルメ絡みだったほか、名所、老舗、イベント、人など、バランスのいいラインナップであることは間違いない。しかし、高円寺に住んでいる私が「知らない情報はなかった」という意味では物足りなさを覚えたのも事実だ。

そもそも当番組は、近隣住民向けの新情報ではなく、街を訪れる人向けの定番スポット中心の構成。その意味では、地域ごとに作られる、毎年微妙にアップデートする旅行情報ムックの『るるぶ』(JTBパブリッシング)や『まっぷる』(昭文社)に近いのかもしれない。

そう感じさせたもう1つの理由は、以前より構成がシンプルになっていること。街頭で人物撮影する「〇〇コレクション」こそ健在だが、かつては「ベスト30」だったが2013年以降は「ベスト20」に縮小されたほか、「薬丸印の新名物」「“あしたのジョー”ほう」などの名物コーナーが消えて久しい。

唯一新設されたのが、今春で『あさイチ』(NHK)を卒業し、時間にゆとりのできた井ノ原のロケ企画。ところが、今回は4位の「古着店」を訪ねて試着しただけで終わるなど、“街”より“井ノ原快彦”にスポットをあてるというスタンスはこの番組らしくない。

もちろん井ノ原がどう、ということではなく、そこに23年半の勤続疲労を感じてしまうのだ。このところの『アド街』から漂ってくるのは、「面白い街があるから行ってみたら」という純粋な思いではなく、仕事とお金の臭い。

たとえば、高円寺の街頭インタビューは、ヒッピー系やパンク系、芸人や劇団員ばかりだったし、「〇〇コレクション」は“夢追い人”というくくりだった。しかし、私が毎日街を歩いていても、そのような人はあまり見かけず、「かなり減った」という実感がある。番組を成立・存続させるために、ある程度のフィーチャリングは必要かもしれないが、現在はSNSなどで「ウソ」「やらせ」とみなされるリスクもあるだろう。

森本レオが「住みやすいんですよ。大きな台所に、大きな古本屋さんの本棚があって、喫茶店もいっぱいあって、お酒も飲めるし、『ほかに何がいるねん』という感じ」というコメントで番組を締めくくったように、当番組に求められているのは、やはりナチュラルな街の姿ではないか。

無理矢理ディープな姿を作ろうとする必要はなく、「勤続疲労なんてどこ吹く風」のマイペース、「ど真ん中のマンネリ」でいい気がするのだ。

消えつつあるアカデミックと人情

最後にふれておきたいのは、スタジオの出演者たち。今回はレギュラーの峰竜太、薬丸裕英、山田五郎に加えて、高円寺在住の森本レオ、柴田理恵、三四郎・小宮浩信が出演していた。

森本は「ここの5階に住んでいた」、柴田は「貧乏は知恵を生む。ハンバーグ定食は昔から500円だった」、小宮は「『大将』で出禁にされた」などの生々しいエピソードが次々に飛び出す一方、レギュラーの3人はほとんどコメントなし。

しかし、山田は「若い人が来るのはオシャレな街ではなく、安い街なんですよ。再開発で家賃が高くなったら逆効果。テナント料も安いから新しいお店がどんどん出せる」という俯瞰(ふかん)したコメントで番組を引き締めた。

その後、森本が「僕らのころはコーヒーショップとジャズだったけど、『大将』ができて焼き鳥文化になっていって…」としみじみ語っていた。愛川欽也さんが降板してからアカデミックや人情の要素が減り、往年の番組ファンとしては寂しさを覚える人もいるだろう。

現在は、先述した強めのフィーチャリングと、店の宣伝を全面に押し出したような構成で、まるでPR会社が手がけているかのような印象もある。今、世間の人々が最も求めているのはリアルなクチコミやレコメンドであり、テレビ番組も例外ではない。『アド街』がそんな存在であってほしいと願っている。

次の“贔屓”は…「警察スペシャル」で本領発揮か!『ジョブチューン』

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『ジョブチューン』MCのネプチューン

今週後半放送の番組からピックアップする"贔屓"は、27日(18:55~21:00)に放送される『ジョブチューン アノ職業のヒミツぶっちゃけます!』(TBS系)。

2013年2月のスタートから早5年9カ月。ほぼ『炎の体育会TV』と交互の隔週放送ではあるものの、すっかり土曜夜の定番となっている。

次回の放送は、「ホンモノの元警察官たちがぶっちゃけ! 警察への国民のギモンすべて解決スペシャル!」。交通違反、泥棒、オレオレ詐欺、公安などから、「刑事になるには?」「お給料はいくら?」まで盛りだくさんの内容で、盛り上がりが期待される。すでに9回目となる名物企画だけに、番組の肝が見えるはずだ。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。