テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第39回は、9月28日に放送された『チコちゃんに叱られる』(NHK、毎週金曜19:57~)をピックアップする。

ひと言で表現するなら雑学番組であり、民放ではあまたあるジャンルで珍しさはない。しかし、今年4月のスタートからわずか半年間で、金曜夜の本放送と土曜朝の再放送が、ともに2ケタ視聴率を超える人気番組となっている。

「5歳のチコちゃんが大人の芸能人たちに放つ、『ボーっと生きてんじゃねえよ!』が痛快」なんて声もあるが、本当にそれが勝因なのか? さまざまな角度から検証していきたい。

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    『チコちゃんに叱られる!』岡村隆史(左)とチコちゃん

ゴールデンタイムにCGのMCを起用

オープニングでは、岡村隆史とチコちゃんが手をつないで登場。「どうも~! チコです。永遠の5歳です」と最低限の自己紹介をする。確かにゴールデンタイムで“CGのMC”は斬新だし、2.5頭身のキャラはインパクトがある。

間髪入れずチコちゃんが、「今日は誰から聞こうかな~。ねえねえ岡村、この中で新幹線に乗って全国を駆け巡る人気者って誰?」と切り出した。この日は夏菜と天野ひろゆきがゲストなのだが、紹介のパートがなく、テロップすら出さず、いきなり本題に入る超速攻。いかにもせっかちな現代の視聴者向きであり、民放バラエティ以上のスピード感だ。

この日のネタは4つ。

●「何で東海道新幹線は青と白なの?」のお題に、「会議の席にあったタバコの箱が青と白だった」という答え。
●「何でマイクを持つと小指がピーンとなるの?」のお題に、「人間はそーっとモノをつまもうとすると小指がピーンとなる生き物だから」という答え。
●「何で大阪のおばちゃんはアメに“ちゃん”をつけるの?」のお題に、「豊臣秀吉が大坂に商人の町を造ったから」という答え。
●「何でビールは水よりもたくさん飲めるの?」のお題に、「ビールの中にある特定成分が消化管平滑筋に存在するムスカリンM3受容体を直接刺激することで消化管運動を促進するため」という答え。

出題されるたびに岡村、夏菜、天野はしどろもどろになり、チコちゃんは決めゼリフの「ボーっと生きてんじゃねーよ!」を4連発。ふだん偉そうにしている大人たちの困った表情が笑いを誘い、5歳の女の子にNHKらしくない言葉でやり込められる展開がウケているのだろう。

ただ、「大爆笑」というほどではないのも事実。その感覚は自分だけなのかを確かめるべく、知人のある民放テレビマンに聞いたところ、「まったく同感。何であそこまでウケるのか、わからない」と首をひねっていた。

「役に立つ」民放バラエティとは一線を画す

『チコちゃんに叱られる!』を「NHKにしては民放のような軽いタッチの番組」と感じている人は多いのではないか。しかし、『チコちゃんに叱られる!』と民放の雑学バラエティには、明確な違いが存在する。

たとえば、この日のネタは「知っていそうで知らないもの」ばかりであり、「役に立つもの」ではない。言わば普通の雑学であり、子どもから大人まで男女を問わず見られる平等なものだった。一方、民放の雑学バラエティは、その大半が実用性を重んじた生活情報が占めている。まるで女性週刊誌の生活情報ページを思わせるネタが多く、必然的に主婦層以外の関心は薄くなってしまう。

さらに、ネタや笑いの手数は、民放バラエティに比べると圧倒的に少ない。民放バラエティのように、短いネタを連続させたり、すき間なく笑いを詰め込んだりしないのだ。そもそも出演者が民放バラエティの半分以下しかおらず、解答者は3人だけ。番宣を含む多くのタレントをそろえた民放バラエティに辟易としている視聴者にとっては、「スッキリしていて見やすい」のだろう。

むしろ当番組でボケているのはタレントではなく、レジェンド級の実績を持つナレーション担当の森田美由紀アナと、ネタごとに登場する各分野の識者たち。ともに「マジメな印象の強い人々にボケさせる」という手法は、『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)と同じだが、NHKがやることでよりシュールさが際立っている。

視聴者感情という意味では、「あおり」「ひっぱり」などの嫌悪しがちな演出がないのも大きい。「毎分視聴率が気になる」「ザッピングされたくない」という自己都合による過剰演出に陥りがちな民放バラエティとの比較上、視聴者のストレスが少ないのは明らかだ。

また、見逃せないのは、視聴ターゲット層の妙。NHKを好む視聴者層に雑学というテーマと、民放バラエティ風の演出は新鮮であると同時に、ファミリーで見られる番組は少なく希少価値は高い。事実、この日のネタは、新幹線、カラオケ、アメ、「何で大人はビール?」など子ども目線からの疑問が続いた。そんな目線の低さを漂わせながら、大人も楽しめる教養的な香りもチラリ。親にしてみれば、「これほど子どもが見やすく、安心して一緒に見られる番組はない」のだろう。

生みの親はバラエティのトップクリエイター

『プロジェクトX』や、朝ドラ『半分、青い。』のセルフパロディを入れるなど、民放バラエティのような軽さを見せつつも、NHKらしい作り込みの細かさは健在。

チコちゃんのCG技術は予算・時間ともに民放より潤沢なNHKならではであり、映像、イラスト、地図、美術などの膨大な資料をフル活用することで信頼性を担保している。再現ドラマにも鶴見辰吾や池田鉄洋らのベテラン俳優を起用するなど一切の手抜きは見られない。

チコちゃんと岡村のお便りコーナーに、“江戸川の黒い鳥・キョエちゃん”が加わるエンディングもしっかり作り込まれていた。民放バラエティのように、「最後に爆笑がほしい」「MCに華を持たせよう」と欲張らない姿勢も差別化になっている。

今年3月29日、『チコちゃんに叱られる!』の取材会が行われ、岡村は翌々日の31日で22年の歴史に幕を閉じる『めちゃ×2イケてるッ!』(フジ系)を引き合いに出して、「23年やってやろうと思っています」とコメントしていた。

前述したように、当番組のヒットは、「大量のタレントを起用した演出過多な民放バラエティに対する不満」の表れに見えるし、なかでも『めちゃイケ』のような芸人たちによる純度の高いお笑い番組とは真逆のベクトルなのが興味深い。

皮肉なことに当番組の生みの親は、かつてフジテレビで『ダウンタウンのごっつええ感じ』『笑う犬』シリーズなどを手がけた小松純也プロデューサー。現在は共同テレビ所属となり、当番組のほか、Amazonプライム・ビデオで『HITOSHI MATSUMOTO presents ドキュメンタル』『HITOSHI MATSUMOTO presents FREEZE』などの動画配信も手がけている。

そんな意味もあって、『チコちゃんに叱られる!』を見るたびに、「民放バラエティに一石を投じる番組だな」と感じてしまうのだ。

次の“贔屓”は…今の時代に合う“お笑い”なのか?! 『さんまのお笑い向上委員会』

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明石家さんま

今週後半放送の番組からピックアップする"贔屓"は、6日に放送される『さんまのお笑い向上委員会』(フジ系、毎週土曜23:10~)。

「向上長・明石家さんまと向上委員会のメンバーが、ある芸人を次のステージへ向上させる方法を考え、お笑い界のさらなる高みを目指す!」というコンセプトの番組だが、実際は「笑いのためなら何でもアリ」の戦場。台本度外視のアドリブ合戦や、さんまの独断ですべてがひっくり返るなどのカオスな空間がコアなお笑いファンにウケている。

ただ、当初から一般視聴者の中には「大声でうるさいだけ」「お約束の笑いは古い」「先輩のごきげん取りに見える」などの厳しい声も多く、ネームバリューに見合う結果や評判につながっていないのも事実。3年半が過ぎた今、タイトル通り、番組そのものが向上しているのか? お笑いファンと一般視聴者、2つの目線から現在地点を確かめたい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。