テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第30回は、7月29日に放送された『パネルクイズ アタック25』(ABCテレビ・テレビ朝日系、毎週日曜13:25~)をピックアップする。

同番組は、1975年4月スタートの視聴者参加型クイズ番組。昭和のクイズ番組ブームで生まれて以来、放送が続いている唯一の番組であり、全国ネット唯一の視聴者参加型でもあるなど、存在しているだけで価値が高い。

なぜ『アタック25』は生き残っているのか? 視聴者参加のメリットは何なのか? あらためて偉大なクイズ番組の魅力を考えていきたい。

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    『パネルクイズ アタック25』司会の谷原章介=ABCテレビ提供

地方の大学生が東大生に圧勝!?

今回の放送は、大学生大会。結果で言えば、山形大学の男性「白」が22枚を獲得し、東京大学の男性「赤」が3枚、北九州市立大学の女性「緑」と早稲田大学の女性「青」が0枚だった。獲得パネル枚数で言えば、「地方大学の素朴な男子学生が東大のエリートに圧勝した」と言える。

しかし、実際の正答数は「白」8問、「赤」9問、「緑」5問、「青」4問と拮抗。「白」が「あわやパーフェクト」の圧勝をするほどの内容ではなかった。最も正答数の多い「赤」が大差で負ける……いかにも理不尽なところが、この番組らしい。ちなみに、前週もわずか正答3問の女性が勝ち、地中海クルーズ旅行を手に入れてしまった。

正答数が多いのに負けた人のやり切れなさは察するに余りある。予選を経て、本選出場が決まり、収録日に向けて勉強の日々……を思うと、まさに天国と地獄。日曜昼すぎに家族で見る番組にしてはシビアさが色濃く、ときどき「不幸な人に同情する」ためのドキュメンタリー作に見えてしまうことがある。

出演者と視聴者の気持ちを高ぶらせているのは、問題の難易度。今回の放送では、無答1問、誤答2問のみだったように、そこそこ解ける問題ばかりだから家族そろって見られるし、「オレ、けっこうイケてるかも」「もし自分が出ていたら……」とポジティブな妄想をさせるクイズ作家のバランス感覚が素晴らしい。「視聴者に希望を持たせられる番組」というだけで、休日の放送にふさわしいと言えるのではないか。

「ベースは継続」というファンファースト

ここで話を『アタック25』からクイズ番組全般に広げてみよう。1953年のテレビ放送開始から現在に至るまで、クイズ番組は形を変えながら常に放送されてきた。

なかでも一般参加型のクイズ番組を思いつくままに挙げていくと……『ズバリ!当てましょう』(フジテレビ系)、『ベルトクイズQ&Q』(TBS系)、『クイズグランプリ』(フジ系)、『アップダウンクイズ』(MBS・TBS系)、『タイムショック』(テレ朝系)、『クイズ100人に聞きました』(TBS系)、『三枝の国盗りゲーム』(ABC・テレ朝系)、『100万円クイズハンター』(テレ朝系)、『アメリカ横断ウルトラクイズ』(日本テレビ系)。これらは60~80年代に放送されたクイズ番組であり、賞金・賞品目当ての出場者たちで盛り上がっていた。

90年代に入ると一般参加型のクイズ番組が激減し、その後も『クイズ$ミリオネア』(フジ系)と『連続クイズ ホールドオン!』(NHK)くらいしか思い浮かばない。90年代前半の『マジカル頭脳パワー!!』(日テレ系)、『平成教育委員会』(フジ系)などのヒット以降は、タレント出演型のクイズ番組ばかりになる中、『アタック25』だけが生き残り続けているのだ。

『アタック25』のパネルは1枚1万円だが、90年から金額が変わっていないことを踏まえれば、「今さらお金目的で出演する人は多くないだろう」ということが予想される。それよりも出演者たちが引かれるのは、「ほぼ唯一の視聴者参加型クイズ番組」という希少価値の高さではないか。だからこそテレビを見ているだけの視聴者も、正答したときの承認欲求が満たされるのだろう。

同時に彼らは、「ゴールデンタイムにタレントだらけのクイズ番組を量産しているクセに、われわれ視聴者が参加できる番組がほとんどない」「それらの番組で正解しているから、自分たちもいけるだろう」という思いを抱えている。それを満たしてくれるのが『アタック25』なのだ。

45年もの放送期間の中では苦しい時期もあったはずであり、実際、初代司会者の児玉清さんが亡くなった11年はピンチだったようだが、浦川泰幸アナ、谷原章介にリレーすることで乗り越えている。「あくまでもベースは継続」「あきらめずに続けてみる」という姿勢は、何よりのファンファーストに違いない。

波乱を期待する人間心理を突いた設定

クイズのタイプから、司会のスタイル、効果音、観客席の応援まで、古き良き視聴者参加型クイズ番組の体裁を崩していないことも、『アタック25』が支持され続けるゆえんではないか。

とりわけ谷原章介の紳士的ながらも出演者に媚びないスタンスは、「年を重ねるごとに児玉清さんの姿に近づいていくのでは」と感じてしまう。それが、前述した天国と地獄を分かつシビアさを際立たせるとともに、昭和の番組が持ついい意味での容赦のなさや残酷さを醸し出している。

ゴールデンタイムのクイズ番組がフィクションのエンタメと化していく一方、日曜昼すぎの『アタック25』が貫いているのはノンフィクションの人間ドキュメント。一般人ゆえに緊張や動揺は大きく、思わぬミスや逆転負けを喫してしまうケースを見かけるが、内心それを期待している視聴者もいるだろう。「台本のないドキュメントだからこそ、波乱を期待したくなる」という人間心理を突いたゲーム設定に改めて感心してしまった。

日曜昼すぎのクイズ番組、一般参加型の番組、43年に渡る長寿番組。いずれも価値が高いだけに、「どんなに時代が変わっても、テレビが存在する限り放送し続けてほしい」と願う番組の1つである。

次の“贔屓”は…ローカロリーこそマツコの真骨頂か『マツコ会議』

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『マツコ会議』に出演するマツコ・デラックス

今週後半放送の番組からピックアップする"贔屓"は、4日に放送される『マツコ会議』 (日本テレビ系、毎週土曜23:00~)。同番組は、話題のディープなスポットと中継を結び、一般人の知られざる生態を深掘りするトークショー。

タレントはマツコ・デラックス1人で、残りはスタッフと一般人のみ。会議室から出ず、ロケ先との中継。リサーチに頼り過ぎず話の展開によってネット検索。いかにも23時台の番組らしいローカロリーぶりだが、だからこそ「マツコの真骨頂が見られる」と業界内外で評価が高い。

次回放送の中継先は、銀座老舗店の若手跡取り会。「銀座」「老舗」「跡取り」……マツコにとってごちそうのようなフレーズがそろうだけに、どんなイジリがさく裂するか。いつも以上に必見の回と言えよう。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。