テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第198回は、6日に放送されたフジテレビのバラエティ特番『人生逆転クイズ』(16:00~)をピックアップする。

そのコンセプトは、「生活苦で夢を諦めかけた若者4人が、伊沢拓司の熱血コーチで宇治原率いる知の巨人軍団と難関入試問題で対決。勝てば賞金100万円を得られる」というもの。クイズに加えて、伊沢直伝の受験テクニックが学べ、人生逆転ドキュメントが楽しめるなどの付加価値が期待されていた。

今秋で『パネルクイズ アタック25』(ABCテレビ・テレビ朝日系)が終了し、『超逆境クイズバトル!! 99人の壁』(フジ系)がレギュラーから特番に変わるなど視聴者参加クイズ番組が壊滅状態になる中、新たな試みは興味深い。

  • 『人生逆転クイズ』に出演した伊沢拓司(左)と宇治原史規

    『人生逆転クイズ』に出演した伊沢拓司(左)と宇治原史規

■4人合計で勝てば100万円だった

番組序盤、「挑戦者4名それぞれが1教科ずつを受け持ち、知の巨人とテストで戦う」「4教科の合計点で勝てば100万円、引き分けは50万円、負けた場合は50万円から点差×1万円が引かれる」という説明が。「あれっ? もし4人で100万円を分けるのなら、勝てても25万円だけ……これで人生逆転できるの?」と思ってしまった。

最初の挑戦者は、六本木の店でナンバーワンだった元キャバ嬢のぴなこ(30歳)で教科は社会。コロナ禍の影響で今は実家の親に頼る生活をしているそうだが……「六本木の店でナンバーワンだったのならお金があるのでは?」と、ここでもチラリと疑問が。

相手は京大卒のロザン・宇治原史規。「今、何の教科なのかを聞いた」という状態とは言え、たった50日間の勉強で勝つのは難しい相手だ。番組はその50日間の日々に密着しながら、伊沢の勉強法を紹介。徐々に力をつけて迎えた本番の結果は、ぴなこ76点、宇治原86点だった。この時点で「賞金40万円」になったことが明かされたが、すなわち1人10万円ということか。やはり50日間の努力が報われるためには、逆転勝利して100万円を獲得するしかないだろう。

2~4人目の挑戦者は、ほぼ同時進行で密着。2人目は西麻布の寿司店で修行していた寿司職人・あこ(27歳)で、「コロナ禍で職を失い、現在は月に2回自腹で場所を借りて店を開き、何とか生計を立てている」という。3人目はハンバーガーチェーンでアルバイトしながら漫画家を目指す桜(25歳)で、「賞金で漫画に専念したい」という。4人目は借金130万円の家なし俳優・黒木(33歳)で、「1泊2,000円のビジネスホテルを渡り歩いている」という。

この3人はなかなかの厳しい状況が伝わってくるが、もともと関係性のない4人だけに、チームワークや絆は期待できない。個人戦ではなくチーム戦にしたことの必然性が何か1つくらいほしかったのではないか。

■4人全敗で獲得賞金はわずか6万円

数学問題に挑む黒木の相手は、元女流棋士で早稲田大学政経学部卒のフジテレビ新人アナ・竹俣紅。制作サイドにとっては身内だけに「負けさせていい」、あるいは「負けてもらったほうがいい」とも言えるポジションだったが、黒木は70点、竹俣は77点で、さらに点差が開いてしまった(賞金33万円に減額)。ただこの結果を見て「この番組はガチなのかもしれない」と思った人もいるのではないか。

続いて英語問題に挑む桜の相手は、東大卒の三浦奈保子だったが、桜は66点で三浦は81点(賞金18万円に減額)。最後の国語問題に挑む、あこの相手は再び宇治原だったが、あこが75点で宇治原が87点で4連敗を喫し、賞金は6万円のみとなってしまった。ナレーションはなかったが、単純計算で「1人1万5千円の獲得のみに終わった」と思われる。

最後に映し出されたのは挑戦者4人がスタジオの外で、「賞金以上に得たものはあると思う」「こんな経験絶対できない」「明日も勉強しちゃうかも」などと声をかけ合うシーン。やはりこの番組の主役は伊沢でも宇治原たちでもなく彼らだったのだが、インパクトを残せた人はいなかった。

さらに、雨の中を帰る後ろ姿を映しながら、「人生を逆転したいみなさん、また次の機会にお会いしましょう。『イカゲーム』ほどの賞金は用意できませんけど」というナレーションで番組は終了。クイズ本番のシーンを振り返ると、スタジオ内に賞金を置くための専用テーブルが用意され、薄い札束が5等分される形で置かれていた。100万円の5等分で20万円ということなのだろうが、その薄さに制作費の厳しさが表れ、切ない気持ちにさせられる。

スケール感としては、「勉強期間50日」も微妙なところかもしれない。勉強に行き詰まった桜が実家に帰り、BGMに『ザ・ノンフィクション』の主題歌「サンサーラ」が流れたり、黒木が追い込まれて髪が抜けていったりなどのシーンもあったが、「彼らがどこまで本気で勉強して、どのくらい成長したのか」はあまり伝わってこなかった。

では、ノンフィクションとして物足りなさが残った一方、クイズのほうはどうだったのか。