テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した"贔屓"のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第16回は、17日に放送された『毒出しバラエティ 山里&マツコ・デトックス』(TBS系)をピックアップする。

同番組は、「山里亮太が日ごろ書き溜めている毒をひたすら吐き出す」という異色のトークバラエティ。昨年10月に放送され、あまりのキレっぷりと爆笑の連続に、業界内外で「即レギュラー化を」という声があがるほどだった。

しかも今回は「2週連続放送」という力の入りようで、前回以上のヒートアップに期待がかかる。

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    『山里&マツコ・デトックス』に出演する(左から)井森美幸、榮倉奈々、マツコ・デラックス、山里亮太、赤江珠緒 (C)TBS

「マジでヤバイヤツ」になれる山里

当番組を見たことがない人のために、前回放送の主なトークをあげておきたい。

「ママ代表気取りでペラペラの子育て話をするだけで"カリスマ面白主婦感"を出す女」「『ヒルナンデス』でやる気ないモデル」「『顔だけで売れている』と思われないために、『私、ブスだから』という女優」「変顔なんてのは自分の顔に自信があるヤツのウイニングラン」「性格悪いだけなのに、『私ドSだから』という女」。これらを山里が目を血走らせながら、一気にまくしたてた。

何度もさく裂した「ふざけんな!」「死ぬほどむかつく!」「コノヤロー!」「バカヤロー!」。負のリミッターを外し、話せば話すほど敵を作る山里の毒舌は、今回もさく裂するのか。

トップネタの「大嫌いな女優」トークは、いきなり早送り。この番組は「カット箇所も早送りで視聴者に見せる」という手法が採られている。「視聴者は聞き取りこそできないものの、カットされた箇所と理由のニュアンスがわかる」という深夜番組らしいファジーな演出だ。

続いて山里が噛みついたのは、『スッキリ』(日本テレビ系)のディレクター。さらに、TBSのスタッフに「MCのオファーが詐欺だった」とブチ切れ、視聴者の「ワイプ画面でうるさい」というクレームに物申した。

その切れ味は前回同様で、山里なりの「オレ、マジでヤバイヤツ」というセルフ演出は見事だった。ただ1つ残念なのは「山里に毒を吐かれたタレントは誰なんだろう……」と想像して楽しむゲーム性がなくなってしまったこと。前回は、山里が具体的なヒントを出した上で、「みんなたどり着いて」とあおるなど、よくある"ピー音"のストレスを感じさせないエンタメ性があった。

もう1つ、「ゲストの登場」という番組の未来を占う大きな変化があった。情報番組『いっぷく』(TBS系)のメインMCに抜てきされたが、わずか1年で打ち切りになった岩下尚史がスタジオに現れたのだ。

岩下尚史が乳をもまれてデトックス

岩下は「当時は13キロもやせてしまい、今でも春先になると全身にじんましんができる」「ショックで田舎の山奥に引っ越した」という。さらに、「私をメインMCにするプロデューサーもプロデューサーだよ」「レギュラーコメンテーター、黒田知永子はじめ、何にも話せねえヤツばっかり。同い年ですけど、顔だけで食ってる女ですよ。何にもしゃべれねえ」「私は傷物になって。今まで出てた番組も呼ばれなくなった。唯一、声がかかったのはMXテレビ。あれは出てやってるんです」と言いたい放題。

その後も、「好みのタイプは、安住紳一郎のような面倒くさい二流のイケメン」「2011年1月13日以来"して"ないんですよ」と毒は止まらない。しまいにはお気に入りの安永ディレクターをスタジオに呼び出し、「じんましん治すために乳もんでくれる?」と迫って盛り上げた。この日のハイライトは、「オッサンがオッサンに乳をもまれて奇声をあげる」シーンだったのだ。

24日(23:56~)の次回は、ずんの飯尾和樹とTBSを退職したばかりの安東弘樹が登場。「レギュラー化するには、山里1人の毒だけでは難しい」ため、ゲストを入れるのが基本路線なのか。

しかし、岩下尚史のトークはスタジオこそ盛り上がっていたが、一般人の目線で見たら業界人の与太話に近い。やはり山里に準ずるトーク力の持ち主をゲストに迎えたいところだろう。

現在、プライムタイムで重用されている毒舌タレントと言えば、坂上忍と梅沢富美男。どちらもファン層は中高年層で、毒舌のタイプも瞬発系であり、トーク力で笑わせるタイプではない。その点、当番組は、山里という稀代のトーク巧者を中心に、次代の毒舌タレントを発掘するには、最高の舞台ではないか。

惜しむらくは、当番組にジャストフィットする枠がTBSにないこと。プライムタイムではクレームやコンプライアンス対策に追われそうだし、24時以降にあの毒気に満ちたエネルギーは強すぎる。ちょうどいい23時台は『NEWS23』が放送されていて、空いている土日もスポンサーや系列局の関係でハマらないだろう。

ともあれ、確かなトーク力にもとづくネガティブショーは面白いし、無自覚なマウント意識の強い現代人にとって大好物のコンテンツではないか。「TBS内で、あんな下品な番組はやめろ」という声があがらないことを祈っている。

来週の贔屓は…テレ東のテレ東たるゆえん『家、ついて行ってイイですか?』

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『家、ついて行ってイイですか?』MCの(左から)矢作兼、ビビる大木、鷲見玲奈アナ (C)テレビ東京

来週放送の番組からピックアップする"贔屓"は、25日に放送される『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系、毎週水曜21:00~)。同番組は、終電を逃した人の家について行くドキュメントバラエティ。初回放送から4年が経過してなお、「飽きられるどころかファンは増えている」という。

街ゆく人々の人生模様は、相変わらず多彩かつ強烈であり、高水準キープの理由となっている。それは「完全ガチ」による地道な努力がなせるものなのか? それともマンネリを避ける何らかの工夫があるのか? 人選から編集の細部まで探っていきたい。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。