テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第132回は、24日に放送されたTBS系バラエティ番組『有吉ジャポンII ジロジロ有吉』(毎週金曜24:20~ ※一部地域除く)をピックアップする。

2012年10月スタートの『有吉ジャポン』が7月3日にリニューアル。「世の中のいろいろな物事をジロジロして人を見る目を鍛えるセミナーバラエティ」というコンセプトの番組に大きく生まれ変わった。

ここまで放送されたテーマは、「結婚したら良い夫になる男性ってどんな人?」「本当に頼りになる先輩ってどのタイプ?」「へそで女性の本性がわかる」「足ウラを見れば性格や相性がわかる」「結婚したら良い妻になる人ってどんな人?」という女性誌の特集を思わせるラインナップだったが、今回のテーマは何なのか。そして、リニューアルで番組はどう変わったのか。

  • 有吉弘行(左)と田中みな実

■ドッキリかモニタリングに近い流れ

オープニングトークは田中みな実から「人を見る目がある?」と聞かれた3時のヒロイン・福田麻貴の「電車の前に座っているおじさんがめちゃくちゃエロそうとか分かるんですよ」というコメント。これに小峠英二が「オヤジたまったもんじゃないな」と反応すると、すかさず有吉が「(小峠を指しながら)パッと見どう?」と福田に問いかけ、「エロ坊主」と答えて爆笑を生み出した。

この日のテーマは「将来良い経営者になれるのってどんな人?」で、検証VTRの前にまず臨床心理士/公認心理士の塚原友子氏にインタビュー。塚原氏は、検証方法に「お金に関わる無理難題を尽きつけられたときのしぐさや対応」を掲げ、そのポイントに「金銭トラブルが起きたときの不安感情や問題に打ち勝つ力、防御力」を挙げた。経営者にとって最重要であろうお金をモチーフにする検証は、分かりやすく説得力がある。

ここで仕掛人のハナコ・秋山寛貴が登場。「芸人の中で一番気心が知れた3人」と語る相手にお金を借りる相談をして反応を見るという。番組は深夜特番の収録で3人を呼び出し、2人きりになったときに秋山が相談を持ち掛ける。その相談は「両親がタイのエビ養殖詐欺に遭い1,000万円を損失してしまった。500万円を借りた金融機関が悪徳業者で、あさってまでに全額返済しなければスキャンダルとして売られてしまうかもしれない」というぶっ飛んだものだったが、3人は信じてお金を貸すのだろうか。

「人を見る目があるか」を当てる番組でありながら、ここまでの流れはドッキリ番組か、同じTBSの『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』に極めて近い。ただ、「タレントの本性を制作サイドの仕掛けであぶり出す」という点数では、間違いなくこれまでの『有吉ジャポン』よりもエンタメ性は上がっている。

■番組の生命線は専門家と鈴木編集長

1人目に登場したのは、かが屋の加賀翔。加賀は「マジな話でお金がなくて、貯金全部で100万円しかない」と言いながらも、けっきょく「60万円だったら」と全財産の60%を秋山に貸した。

2人目はザ・マミィの林田洋平。林田は「先月の給料2万。(特別定額)給付金(がいつ振り込まれるか)次第ですが」と極貧ぶりを明かしたが、借金があるにもかかわらず限界の1万円を秋山に貸した。

3人目はゾフィーの上田航平。上田は「貯金60万円くらいなので50万円なら。最悪サンドウィッチマンさんとかに借りるわ」と開始5分でほぼ全財産を貸す男気を見せた。しかし、いったん秋山が席を外して戻ってきたあとに一変する。

「このタイミングだから言うけど、“コント村”の人たちはほぼ家族だからね」「『しんどいな』と思ったら言ってくれたらいいから。一番嫌なのは自分がやりたいことをやれなくなることだから」と優しさを見せつつも、「ちゃんと弁護士とかに相談して」「『だまされてしまった』のならちゃんと事務所に状態を言って、それで『どうしても』ってなったら俺も貸すし、貸してくれる人はいっぱいいる」とお金は貸さなかった。

見事に別々の3パターンが生まれたところでVTRが終わり、スタジオトークに突入。3時のヒロイン・かなでと藤田ニコルが林田を推す一方、有吉は「上田はカッコつけすぎ」、小峠も「“コント村”を出さなくても別にいいのに。俺もコントやってますけど、入ってるんですか!?」とツッコミを入れて笑わせた。

スタジオの予想は、3時のヒロイン・ゆめっちだけが上田を推し、かなで、ニコル、福田が林田だったが、結果は3位が加賀(良い経営者になれる度20%)、2位が林田(同40%)、1位が上田(同80%)。加賀は「感情に押しつぶされている状況を他人に利用されてしまうので経営者としては成功しにくい」、林田は「自爆して守り切れない人は経営者には向かない」、上田は「最終的には詐欺の問題としてお金を貸さないと冷静に対処できた。防御力があり交渉術にも長けているので経営者として成功する」という塚原氏の解説は説得力十分だった。

スタジオに戻ると、「Mr.眼力」こと『GQ JAPAN』鈴木正文編集長が「まあ当然の結果でしたね。上田さんが言っていることが一番常識的で経営者的で、ただ良い経営者であるということと、良い友人であることはまた別だからね」とド正論でまとめた。『ジロジロ有吉』というコンセプトである限り、塚原氏ら専門家と鈴木編集長の視点が番組の信ぴょう性を担っていくのだろう。

■際立つ田中みな実のアシスタント能力

最後に田中みな実が「将来良い経営者度100%の人」の特徴を読み上げた。対応は「お金は貸さずに解決策を提示(貸すと人間関係が崩れる)」、しぐさは「何もしない、表情に出さない(動揺せず冷静になる)」で、上田が最初から断っていたら100%だったという。

それを聞いた有吉は「オレ小峠だったらいくらでも貸すね。同じ“バラエティ村”の人間だから」と上田のフレーズをイジって切り出し、小峠が「やめてください。“バラエティ村”には入りたくない」と返してオチをつけた。今回の企画は冒頭から最後までマジメなムードに終始。視聴者に気づきや学びを与える実用書のようなイメージだったが、今後はおバカ企画との併用になっていくだろう。

あらためて番組全体を見渡すと、週替わりの出演者はお笑い第7世代たちが中心で、今後もそうなら同じ金曜深夜放送の『ネタパレ』(フジテレビ系)とほとんど変わらない。勢いに乗る彼らの人間性にスポットが当たるほか、時に仕掛け人となって演技力が試されるなど、人気を育み可能性を見せる貴重な場になっていくのではないか。

一方、レギュラー陣に目を向けると、田中みな実はそつなく進行をこなしながらも、この日のテーマに「これ、知っておいて損はないですもんね」と興味を持たせたり、スタジオの意見が林田に偏りそうになると「『弁護士に相談』はいい意見だから私は上田さん」とバランスを取ったりなど、気の利いたひと言で番組を支えていた。あざといキャラクターや、美への貪欲さばかりフィーチャーされがちだが、この番組では後方からMC・有吉弘行を支えるアシスタントとしての有能さが際立っている。

そんな有吉弘行と田中みな実に加えて、交替で出演する小峠英二と吉村崇のトライアングルが盤石だから、スタジオゲストもVTRゲストも安心して番組に臨めるのではないか。そのキャスティングバランスは深夜レベルを超え、プライム帯でも通用するように見える。

次回の放送は、「上半期のNo.1ブレイク芸人・ぺこぱの新企画が始動」。ダンスに挑戦しはじめたものの大ゲンカとなり、松陰寺が「ふだん指で顔はさんでるだけじゃねえか。偉そうにすんじゃねえ」とキレると、シュウペイも「お前だって頭ふってるだけじゃん」と応戦する。さらに松陰寺は「うるせえな。それも1つの芸なんだよ。素人がうるせーな黙ってろ! もうやんねえ」と捨てゼリフを吐き、「傷つけないはずの仲良しコンビに一体何が!?」の文字が表示されて終わった。

視聴者が「これはウソだろう」と感じるような過激なあおりに頼った企画は、その分だけ笑いのハードルが高くなってしまう。また、それが続けば『ジロジロ有吉』は短命に終わり、再度のリニューアルにつながってしまうかもしれない。

■次の“贔屓”は…長瀬智也の退所発表で注目度アップ! 『ザ!鉄腕!DASH!!』

『ザ!鉄腕!DASH!!』 (C)NTV

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、8月2日に放送される日本テレビ系バラエティ番組『ザ!鉄腕!DASH!!』(毎週日曜19:00~)。

深夜から日曜19時台のゴールデンに移って22年が過ぎた長寿番組だが、長瀬智也のジャニーズ事務所退所発表で、注目度も視聴率もグンと上がっているだけに、このタイミングで現状と未来を探っておきたい。

次回の放送は、106日ぶりに再上陸を果たす「DASH島」と、藻だらけになってしまった屋上池の水を抜く「新宿DASH」。3人になる今後を踏まえるとTOKIOはもちろん、SixTONES・森本慎太郎、King & Prince・岸優太ら後輩ジャニーズの活躍もチェックポイントになるだろう。