テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第113回は、15日に放送されたTBS系バラエティ特番『ザ・ベストワン』をピックアップする。

「今一番見たいベストな芸人が“ベストワン”のネタを披露する」という、ありそうでなかったスタイルのネタ特番。飛ぶ鳥を落とす勢いのミルクボーイをはじめとするトップ芸人のほか、13組の若手芸人が1分ネタを披露するコーナーもあるという。

2月24日に『NETA FESTIVAL JAPAN』(日本テレビ系)が放送されたほか、3月28日には『ENGEIグランドスラム』(フジテレビ系)、さらに4月1日には『史上空前!!笑いの祭典ザ・ドリームマッチ2020』(TBS系)が6年ぶりに復活するなど、ネタ特番をめぐる動きが活性化しているだけに、現状と今後の可能性をチェックしていきたい。

  • 『ザ・ベストワン』MCの(左から)今田耕司、笑福亭鶴瓶、水原希子 (C)テレビ朝日

■ミルクボーイとかまいたちの勢い

講談師・神田伯山のオープニング口上と、MC・笑福亭鶴瓶、今田耕司、水原希子の紹介を1分程度のコンパクトサイズにまとめ、早々にネタがスタート。トップバッターに選ばれたのは、『M-1グランプリ』最新王者のミルクボーイだった。“ベストワン”と名乗る以上、この番手は譲れないところだったのではないか。

ミルクボーイが披露したのは、“M-1優勝のきっかけになったベストワン”「オカンの好きなゲーム」。「コーンフレークの原型になった」というビンゴをフィーチャーした漫才でいきなり爆笑をさらった。

ネタが終わるとMC3人のトークタイムへ。鶴瓶「ええの見つけたで」、今田「オカンが物覚え悪くてよかったですね」、鶴瓶「出てきた感じが俺よりベテラン」、今田「売れると思ってへんから、衣装があれ一着しかなくてクサイらしい」という、あえて深みを排除した軽妙な掛け合いで、視聴者にネタの余韻を楽しむゆとりを与えていた。

2番手は流れ重視か、ミルクボーイに次ぐ『M-1グランプリ』準優勝のかまいたちで、“世界でもウケるベストワン”「監禁」を披露。ミルクボーイとかまいたちによるスタートダッシュは“ベストワン”を名乗る番組にふさわしく勢いのあるものとなっていた。

ネタが終わると、MC3人にミルクボーイとかまいたちを交えた「ザ・ベストワントーク」に突入。「かまいたちがミルクボーイのつかみネタをパクってる」などのショートトークを見せた。ただ、このトークコーナーは「必要」「不要」の賛否が分かれるところだろう。ネタ後のクロストークを「貴重」と思うか、「蛇足」と思うか……。実際、数十秒レベルのトークでは、ネタほどの大笑いを取ることはできていなかったし、このコーナーをカットすれば最低あと1組は出演芸人が増えたはずだ。

3番手は“鶴瓶が全ネタを見るほどハマったベストワン芸人”ニューヨークの「米津玄師と遭遇」。4番手は“水原がハマっているベストワン芸人”ぺこぱの「幼稚園でロケ番組」。5番手は中川家の“アドリブで遊べるベストワン”「通販番組」。6番手はとろサーモンの“子ども向けに作ったが大人にウケたクレイジーネタベストワン”「アンパンマン」。7番手はどぶろっくの“持ちネタの中で上品なナンバーベストワン”「やらかしちまった」。8番手はEXITの“出来立てホヤホヤ!今夜しか見られないベストワン”「オリンピックのチケット」。

正直このあたりは“ベストワン”というフレーズがあまりしっくりこなかった。たとえばEXITのネタは「どういう意味のベストワン」なのか分からず、「旬の人気者だから出演させた」「出演させたけど“ベストワン”のくくりが見つけられなかった」とみなされても仕方がないだろう。

“ベストワン”は初めてのコンセプトではあるが、現在の視聴者はこうしたディテールの違和感を見逃さないため、今回は番組のブランディングにつながらなかったのかもしれない。

■華丸・大吉のネタこそ“ベストワン”か

9番手は博多華丸・大吉の“20代の頃頼りにしていたベストワン”「タイタニックに博多の親子が乗っていたら」。今田が「あんなに元気ではしゃいでる大吉、見れないですよ」、鶴瓶も「漫才の形が今と全然違うからね」と笑っていたように、これぞこの番組でしか見られないネタであり、“ベストワン”の妙味なのではないか。華丸も大吉も事前インタビューのときから楽しみを抑えきれない様子を見せており、それこそが当番組のあるべき姿なのかもしれない。

10番手はハナコの“キングオブコント優勝のきっかけになったベストワン”「爆弾処理班」。11番手はロバートの“秋山の気持ち悪さ全開のベストワン”「赤ちゃんすこやかベビースクール」。12番手はNON STYLEの“石田がしゃべり倒すベストワン”「狼男」。13番手は東京03の“去年の単独ライブで感触が良かったベストワン”「満を持して」。3時間番組で中だるみになりがちな時間帯を実力派で埋めたことで、視聴者のザッピングを防いだのではないか。

続くコーナーは、若手芸人が1分間のネタを見せる「THEベストワンミニッツ」。かつて一世を風靡した「『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)の円形版」とも言える企画であり、芸歴1年目のキャツミと白桃ピーチよぴぴを含む粗っぽいネタが披露された。

ちなみに出演芸人とネタ名は、さや香「ダンス大会でCD忘れた」、くらげ「女心がわからない」、信濃岳夫・金原早苗「小泉進次郎と滝川クリステルがアイスクリーム屋さんだったら」、ソロデビュー's「イイですダメです」、アマレス兄弟「レスリングのポイントの入り方」、てんしとあくま「タイトルなし」、グータン「ショートビートルズ『イエスタディ』『ヘイ・ジュード』」、ロングロング「嵐の松本潤と代わりたい」、キャツミ「タイトルなし」、松浦景子「バレエのクセ」、3時のヒロイン「もらう女」、ネイチャーバーガー「男女でボウリング大会」、白桃ピーチよぴぴ「お笑いに挑戦」。

13組がネタを披露した結果、鶴瓶が選ぶ「つるベストワンミニッツ」には、さや香が決定した。お笑い好きの視聴者には先物買いを楽しみたい人も多く、コーナーとしてはアリだろうが、半数くらいは瞬間的にザッピングされるレベルの危うさを感じさせたのも事実。超一流の先輩芸人たちが“ベストワン”を披露する番組だけに、質や華に残酷なまでの差を感じた視聴者は少なくないだろう。

■「ネットで見れそう」と思われたらアウト

14番手はアンガールズの“気持ち悪さに頼らないベストワン”「人生観」。15番手はスピードワゴンの“小沢が小沢で潤が潤なベストワン”「夏の海での恋」。16番手はミキの“全ての漫才を見たオカンが選んだベストワン”「セロリ」。17番手のトリは爆笑問題の“2020年世間を騒がせた芸能人ベストワン”で番組は終了した。

ここでもアンガールズとミキがふだんとは異なるネタを披露した一方、爆笑問題とスピードワゴンはほとんどふだん通りの印象で“ベストワン”の感は薄い。もちろん初めての試みであり、今後ブラッシュアップされていくのだろう。しかし、“ベストワン”を掲げたことで視聴者の期待感=ハードルが上がった番組だったことは間違いない。

当番組の総合演出は、『爆笑レッドカーペット』『ENGEIグランドスラム』『THE MANZAI』などフジテレビのネタ番組を手がけてきた藪木健太郎氏(現在は共同テレビに出向)であり、文句なしの業界トップクラス。藪木氏はマイナビニュースの事前インタビューで「芸人さんからの発信で、自分たちが今一番やってみたいネタを集めました」と語っていたが、見たいものを見たいときに見られるオンデマンドの時代だからこそ、もう少し視聴者に向き合った“ベストワン”のほうがよかったのかもしれない。

とは言え、神田伯山の口上から、「なぜこのネタがベストワンなのか?」のネタ前トーク、ネタの途中にネタ名が表示される演出、ネタ披露後のクロストーク、雑談コーナー「ベストワンメモ」などの箸休めまで、3時間もの長丁場を飽きさせない構成は熟練者のそれだった。

最後に、ここに来てのネタ特番ラッシュにふれておきたい。視聴者にしてみれば、『ザ・ベストワン』『NETA FESTIVAL JAPAN』『ENGEIグランドスラム』の違いはほとんど分からないのではないか。お笑い好きの視聴者ですら、「芸人たちが大量出演してネタを披露する番組」という印象に変わりはなく、「新ネタしばり」「オール生放送」「採点で対決」くらいのインパクトがなければそれは変わらないだろう。

制作サイドにしてみれば「それは難しい」のだが、YouTubeなどでネタを気軽に見られるようになった今、テレビのネタ特番に対するハードルは間違いなく上がっている。真偽はさておき視聴者が「ネットで見れそう」と感じるネタをわざわざテレビ画面で見る必然性はないからだ。

ただ、これらのネタ特番は『M-1グランプリ』や『キングオブコント』など「賞レースの受け皿」であり、「売れっ子芸人たちのアイデンティティ」とも言えるものだけに、今こそ制作サイドはもうワンランク上の番組を目指したいところ。『M-1グランプリ』で和牛を押しのけてファイナルに進出した3組が人気を集め、霜降り明星をはじめとする若手世代も知名度を上げているだけに、彼らのブレイクと相乗効果の進化に期待したい。

■次の“贔屓”は…一変わらぬ人気だが「微妙」「売名」の声も 『有吉大反省会』

『有吉大反省会』MCの有吉弘行

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、21日に放送される日テレ系バラエティ特番『有吉大反省会』(21:00~22:54)。

13年にスタートした『有吉反省会』の特番であり、年3回程度のハイペースで放送されている。レギュラー放送は相変わらず時間帯トップを争う人気番組でありながら、最近は「反省の内容が微妙」「売名っぽい人が増えた」「大反省会は内容がゆるい」などの指摘もある。

ちなみに今回のメイン企画は、「昭和・平成・令和のアイドル事件簿ランキングベスト30」。幅広い年代のアイドルが出演し、どれくらいのギャップを見せてくれるのか。23時30分からのレギュラー放送も併せてチェックしておきたい。

著者:木村隆志(きむら たかし)

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。