険しい表情で必死に紡がれる言葉と、吹き出る汗――。かつてのような自信に満ち溢れたトーンは微塵も感じられない100分間だった。活動自粛から半年を経て、ようやく開かれたお笑いコンビ・アンジャッシュの渡部建氏による謝罪会見。皆さんはやはりスマホ片手にリアルタイムでご覧になっただろうか。

  • 謝罪会見を行った渡部建

会見スタートは午後7時。さすがに地上波でその時間に生放送をしているのはNHKのみなので、地上波で中継する局などはない…そういう事情もあるからこそ、逮捕された芸能人は午後7時すぎに湾岸署から姿を見せるのだ。民放各局の夕方ニュースワイドが終わった後を見計らい、NHKが生で追ってこないことも織り込み済みで。

今回会見の生中継を行ったのはABEMAだが、渡部氏サイドも綿密に計画を立てたうえでの設定だったのだろう。地上波のワイドショーで切り取られてお茶の間に届けられるのではなく、インターネットを経由して、すべてをありのままに直接見せる。この部分に筆者は"狙いのようなもの"を感じている。

まず第一に、インターネットで配信することで、若い世代の反応が最初に現れるということ。雑誌やテレビなど、いわゆる従来のメディアを愛する、比較的年齢が高めの層ではないところに訴えることで、不倫=悪という紋切り型ではない、多様な意見を喚起できる可能性があるからだ。また、囲み取材という座組みもそこに影響を与える。矢継ぎ早に質問するマスコミと防戦一方の渡部氏の対比は、弱い物いじめにも見えるだろう。実際、インターネットの声を捉えて(それがほんの一握りであったとしても)、そのように報道するメディアはすでにいる。

第二に、極めて放送に近い形式であるABEMAで配信したということ。放送ではないものの、ゴリゴリの配信系という感じがしないABEMAについて、筆者は地上波の2軍のようなイメージを持っている。そこを舞台とすることで、実際に地上波復帰となった時の反響を調べようとしたのではないだろうか。

そう考えていくと、今回の会見は"観測気球"のように思えてしまうし、このタイミングでの会見というのも合点がいく。大みそかの『ガキの使い』スペシャルへの出演情報が公になってしまい、批判が相次いだ。その批判を受け、番組スタッフは出演シーンをカットすべきか頭を抱えているだろうが、会見が行われたことによって進むべき方向性は示されるだろう。あるいは本当は示されないほうがいいかもしれない。出るか、出ないかを明らかにしないままのほうが、注目度は高まっていくからである。

「出るか、出ないか」大みそかのテレビは何を観るべきか

というわけで、ようやく本題に入りたい。大みそかのテレビは何を観るべきかということだ。紅白歌合戦はもちろん、日本テレビは先述の通り『ガキ使』、テレビ朝日は『ザワつく! 大晦日』、フジテレビは『RIZIN.26』、我らがテレビ東京はちょっと時間はずれるものの『孤独のグルメ』を放送する。毎年ほぼ同じ顔ぶれだが、話題性としては『ガキ使』がリードしている感じだろうか。しかし、筆者はあえてベタだが、『紅白歌合戦』をチェックすべきではないかと考えている。

民放各局がコロナ禍でもあまり影響がない、それこそ例年と代わり映えのしないラインナップだが、『紅白歌合戦』はガチンコでコロナ禍と向き合うのである。無観客でどこまでできるか。ともすれば、『FNS歌の祭典』といった、年末の音楽特番と同じような演出になってしまいそうだが、NHKはそれを良い意味で裏切ってくれるのではないだろうか。民放の人間から言わせると、受信料もらっているのだから、裏切るくらいのことをして当然だろと言いたくもなるが(笑)。

一部地域では隔週だった視聴率調査が、今年4月からは毎週のものとなっているので、地方で『紅白』がどこまで数字を伸ばしているかも注目したいところ。今年はコロナ禍で初詣も帰省も敬遠されそうだから、結果として視聴率が上昇することも推測できる。

ちなみに、「出るか、出ないか」という話は、渡部氏に限らず、実は大みそかの番組にはつきものである。『紅白歌合戦』の裏で、ほとんどの民放局が総合格闘技やボクシングの中継特番を組んでいた2000年代前半。ある試合で海外からの招聘選手が出ないかも、という情報が直前に流れたのだ。それが放送局側のPR作戦だったのか、外国人選手がマッチマネーを吊り上げるために仕掛けたのかは知る由もないが(おそらく色んな立場の人の、色んな言い分がある)、簡単に事が運ばないのもまたテレビなのだ。テレビは現在にしかすぎないが、現在は思ったように事が運ばないのもまた事実だからだ。