この役者見たことあるような、でもすぐに名前が出てこない…という経験は、必ずしも加齢だけのせいではないだろう。「誰?」という思いを持たせながら、最後まで見せてしまうキャスティングの妙もあるだろうから。

秋ドラマのほとんどが最終話を迎えた。人気ドラマについては、色んなところで色んな人が書いているだろうからあえて触れないが(視聴率的にはテレビ朝日『七人の秘書』の健闘が目立ったということなのだろう)、筆者が気になったものについてピックアップしていきたい。

そもそもドラマとはフィクションではあるものの、リアルを目指すのか、とことんまで虚構の中で展開していくものの2通りに分かれると筆者は考える。前者で言えば、今のクールだと『この恋あたためますか』だが、TBSの火曜10時のドラマがその代表格だろう。TBSとしては往年のフジテレビの「月9」を意識して育て上げたドラマ枠で、リアルなラブストーリーを描いている。

ドラマがコロナ禍と向き合った

『恋する母たち』に主演した木村佳乃

そんな中で、筆者がリアルを感じたドラマは『恋する母たち』(TBS系)である。男女2人がエレベーターに乗っている時に停電して動かなくなったり、予約したホテルが手違いで一部屋しか取れず一夜を共にしてしまったり、不倫相手と駆け落ちした夫が記憶喪失になっていたりと、とにかく原作が漫画ならではとも言える展開なのだが、驚くべきは先ごろ12月11日に放送されたラスト前の放送話。ドラマの時代設定が現代に追いついたのだ。詳しく言うと、ドラマの中で時が経過し、舞台がコロナ禍の2020年の出来事を描き始めたである。

このTBS金曜10時枠では、2つ前のクールの『MIU404』が最終話の本当のラストで舞台が2020年というコロナ禍の世界になったが、両方の作品に言えるのは、やはり世界全体を覆ったこのコロナ禍というものに向き合ったということ。虚構の中に虚構を積み上げるのではなく、コロナ禍がリアルな存在である以上、脚本家をはじめ制作チームは無視するのはおかしいと考えたのではないか。結果、『恋する母たち』は、よりリアルな効果を生んでいる。コロナ禍によって、愛する人との間に響き始める不協和音の演出もあり、最終話でも触れずにはいられないだろう。(12月18日が最終話)

一方で、筆者の予想通り映画化も決まった『ルパンの娘』は、その対極にある。『翔んで埼玉』同様、いい意味でぶっ飛んでいる。これぞ"THE虚構"だ。特別編のような最終話では、市村正親が登場。おなじみのカラオケ字幕付きミュージカル大展開で、「この時間にここまでやってついてこれるのか」と観ていて心配になるほどだった(勝手に心配してすいません)。映画につながるような示唆がふんだんに盛り込まれ、次を見据えたストーリーであったので、映画化を熱望しているファンの間では、勝手に内容を推測しあうお遊びが流行りそうだ。

さて、そういった意味で意外と粒ぞろいだった秋ドラマだが、再び注目したいのは『相棒』である。season19を数え、マンネリ化しているだろうから観ないという人がいるかもしれないが、そういう人にこそ観てほしい。そういう人こそ楽しめる仕掛けが満載なのだ。season19の初回はVRを題材にするなど、現代の事象を取り込むことに意欲的だが、何よりもキャスティングがすごいのである。

『35歳の少女』に主演した柴咲コウ

『MIU404』でファン層を広げた橋本じゅんや、再登場となるものの、『半沢直樹』で好演し再評価の声が多く聞かれた西田尚美など、ツボを押さえたキャスティングはさすが。そして40代の視聴者なら、柏原収史、野村佑香、杏さゆりという名前に反応してしまう人が多いのではないだろうか。それがこのコラムの冒頭に挙げた、「この役者見たことあるような、でもすぐに名前が出てこない」という絶妙な出演者なのだ。『相棒』は実にそういう役者を起用するのが上手い。なので、今回はどんな役者が出てくるのだろうという見方もできてしまうのだ。

と、ここまで書いておいて言うのも何だが、筆者がこのクールで一番面白いドラマだったのは『35歳の少女』だ。20年間眠っていた女性が主人公という設定自体がフィクションの感じが強いのだが、どうしようもない世の中の虚を、虚構の中から真剣に向き合って、強い愛を描いてみようというメッセージを感じた。King Gnu「三文小説」は、脚本を手がけた遊川和彦氏らとのディスカッションを経て書き下ろされた曲といわれ、本当に沁みる。このドラマも実は最後には現代が舞台となっている(墓石に刻まれた元号が「令和」であった)のだが、コロナ禍は描かれていない。その要素を盛り込むと、メッセージが中途半端になってしまうという恐れがあったのだろうか。ちなみに『35歳の少女』を観るきっかけとなったのは、昔取材した際に、柴咲コウさんの印象が素晴らしく良かったからということも付け加えておこう(笑)。1月クールのドラマ情報も出始めているので、またこのコラムで取り上げていきたい。