2015年9月のビッグニュースは北海道新幹線の開業日決定だろう。おそらくこの日に合わせてJRグループはダイヤ改正を実施するはずで、JRと相互直通運転を行う地下鉄・私鉄、新幹線や特急列車と接続するローカル私鉄まで広範囲に影響する。直接的には、青函トンネルを経由する「カシオペア」「はまなす」の廃止が寂しい。「はまなす」はJRグループ最後の急行列車、最後の定期客車列車だった。地味だけど希少価値は高い。

北海道新幹線新青森~新函館北斗間は2016年3月26日に開業する

例年のダイヤ改正は3月中旬だけど、2016年は北海道新幹線の調整もあり、3月下旬にずれ込むだろう。ということは、学校の春休みの真っ最中にダイヤ改正となる。1987年3月31日の国鉄終了、同年4月1日のJRグループ発足以来の大騒ぎになりそうな予感だ。

北海道新幹線開業 - 在来線の定期客車列車が消える

9月16日、JR北海道・JR東日本は北海道新幹線新青森~新函館北斗間の開業日と運行計画を発表した。開業日は2016年3月26日。運行本数は東京~新函館北斗間「はやぶさ」が10往復、仙台~新函館北斗間「はやぶさ」が1往復、盛岡~新函館北斗間・新青森~新函館北斗間「はやて」が各1往復、合計13往復体制となる。現行の特急「スーパー白鳥」「白鳥」は定期列車で10往復体制だった。他に臨時便も設定されていた。乗車機会は増え、列車の定員も増えるから、定期列車の輸送力は十分に強化されそうだ。

新幹線開業日に関するプレスリリースでは、かねてより廃止と噂されていた特急「スーパー白鳥」「白鳥」、夜行急行「はまなす」、上野~札幌間の寝台特急「カシオペア」の運転取りやめも正式に発表された。「カシオペア」については、「JR北海道は年に数回の臨時運行を検討」と北海道新聞が報じていたけれど、願いは叶わなかったようだ。

北海道新幹線開業にともない、急行「はまなす」(写真左)・寝台特急「カシオペア」の運転取りやめも発表された

「カシオペア」はオール個室、オールA寝台、食堂車・展望ラウンジ連結の豪華寝台特急として、鉄道ファン以外の旅行者にも人気だった。「はまなす」は対照的に、出発地で遅くまで滞在し、夜間に移動し、日中は到着地で朝から活動したいという旅行者に人気だった。つまり、どちらも人気列車だ。失うにはもったいなかった。

なぜ人気列車をやめる必要があるか? 理由はいくつかの複合要因だろう。まず、北海道新幹線の開業によって、貨物列車のダイヤが影響を受ける。北海道と本州を結ぶ貨物列車は物流の根幹だ。並行する高速道路がないため、トラック便というライバルもない。この貨物列車を走らせる時間帯を寄せていくと、在来線夜行列車を入れる隙間がなくなる。

次に機関車の問題がある。青函トンネルの電化方式が新幹線対応になると、これまでの在来線の機関車を使えない。JR貨物は新しい電化方式に対応した機関車、EH800形を製造したけれど、これは貨物専用で、しかも製造にあたって国から補助金を受けている。報道などによると、貨物列車用に補助金を受けているため、旅客列車には使えないという。技術的に可能でも、手続き的に不可能らしい。

JR九州が「ななつ星 in 九州」用にJR貨物のDF200形の同型機を購入したように、JR東日本かJR北海道がEH800形を購入すれば良いと思うけれど、そこまで出資する意思はなさそうである。2017年にJR東日本が導入する「トランスイート四季島」はJR北海道を視野に入れているそうだから、青函トンネル対応仕様になるかもしれない。期待しよう。

北陸の地方ローカル私鉄が新幹線を走る怪現象

新幹線開業といえば、北陸新幹線の敦賀延伸工事区間で面白い現象が起きている。9月27日から、えちぜん鉄道が新幹線の線路を走るようになった。新幹線といっても営業区間ではなく、北陸新幹線の延伸予定区間だ。まだ新幹線が来ないうちに、高架区間を拝借した。かつて、東海道新幹線の開業前に阪急京都線が新幹線の線路を借用した例があり、今回は2例目となる。

えちぜん鉄道福井~福井口間で北陸新幹線の高架橋を使用した仮線営業運転が始まった

私鉄が新幹線の線路を走る。その事情は阪急京都線もえちぜん鉄道も似ている。どちらも立体交差化工事にともない、その仮線として新幹線高架を借りた。えちぜん鉄道は福井駅付近の立体交差化工事を進めている。これは将来の北陸新幹線福井駅延伸に関する整備事業の一環だ。新幹線のための工事だから、新幹線の施設を使わせていただこうということになった。自治体が主導の公共事業だから、まとまった話ともいえる。

この珍しい現象は、えちぜん鉄道側の高架工事が完了する2018年秋までの予定。北陸新幹線に乗りに行くなら福井にも立ち寄り、貴重な風景を見物しよう。

JR西日本の英断「鉄道の日記念 JR西日本一日乗り放題きっぷ」エリア拡大

JRグループは9月3日、「秋の乗り放題パス」の発売を発表した。JRグループの快速・普通列車などに乗り放題だ。これは春・夏・冬に発売される「青春18きっぷ」の秋版という位置づけだけど、連続3日間有効でこども料金があるなど、制度が異なっている。

このきっぷはかつて、「鉄道の日記念・JR全線乗り放題きっぷ」と称した。10月14日の「鉄道の日」にちなんだ謝恩セールである。きっぷのルールは「青春18きっぷ」に準じている。北陸新幹線開業によって経営分離されたあいの風とやま鉄道高岡~富山間、IRいしかわ鉄道金沢~津幡間は、JR線に乗り継ぐためなどの通過利用に限り乗車できる。

北陸新幹線並行在来線区間のうち、金沢~糸魚川間も「鉄道の日記念 JR西日本一日乗り放題きっぷ」で乗車可能に

この時期、JR西日本も単独で「鉄道の日記念 JR西日本一日乗り放題きっぷ」を発売している。JR西日本エリアで快速・普通列車などに1日乗り放題というきっぷだ。こちらも発表当初は、北陸新幹線並行在来線を引き継いだ第3セクター鉄道の扱いは「青春18きっぷ」と同様だった。制度はほぼ同じ、エリアと有効期間が異なるきっぷだった。

ところがJR西日本は9月17日、「鉄道の日記念 JR西日本一日乗り放題きっぷ」について、北陸新幹線並行在来線の金沢~糸魚川間のIRいしかわ鉄道線、あいの風とやま鉄道線、えちごトキめき鉄道線についても乗車可能にすると発表した。しかも料金は据え置きだ。JR西日本にとって北陸エリアの城端線、氷見線、大糸線は飛び地になってしまった。それらの路線を利用しやすくしようという目的がある。利用可能とするからには、売上の一部を第3セクター会社に配分する必要もあるだろうから、並行在来線支援策ともいえそうだ。

いままでは全国版の「秋の乗り放題きっぷ」「青春18きっぷ」と足並みをそろえていたけれど、JR西日本は利用者の側に立って独自の施策を打ち出した。第3セクター化による複雑な制度は会社側の都合なわけで、利用者にとっても通過される会社にとっても面倒なだけだ。エリア単位で全線利用可能になるとわかりやすい。これはとても良い方針変更だ。この考えをもう少し進めて、智頭急行も乗れるようになるとありがたい。「調子に乗るな、列車に乗ってくれ」と言われそうだけど。

東急電鉄が1日乗車券を通年販売、他社もぜひ…

東急電鉄は9月から「東急ワンデーオープンチケット」を通年販売している。大人660円、こども330円で、東急電鉄の電車に乗り放題。当然ながら、横浜~元町・中華街間のみなとみらい線は使えない。運行受託扱いのこどもの国線は乗車可能。従来は土休日、スタンプラリー期間などの限定販売だったというけれど、これからは平日も使える。

東急東横線を走る5050系

東急電鉄としては海外旅行者のインバウンド向けという意味も強いらしいけれど、乗り鉄としては大歓迎だ。じつは、関東の大手私鉄はフリーきっぷが少ない。あっても期間限定のわずかな時期しか使えない。乗り鉄にとっては「攻略しがたい地域」であった。東急にとっては小さな一歩だけど、全国の乗り鉄にとっては偉大な一歩なのだ。

地方の私鉄の多くはフリーきっぷを販売しているし、関西の私鉄には最強のフリーきっぷ「スルッとKANSAI 3dayチケット」がある。関西では「スルッとKANSAI 3dayチケット」が春夏秋の期間限定で発売される。そして近畿以外では「スルッとKANSAI 3dayチケット」の他に「スルッとKANSAI 2dayチケット」が販売されている。春夏版と秋冬版で料金や効力が違うとはいえ、通年販売されている。旅行会社やコンビニでクーポンを購入して現地で引き替えるしくみだ。羽田空港など都内でチケットそのものを購入できる場所もあり、事前に入手しておけば、空港に着いて、そのまま改札口へ直行できる。

東急に続いて、他の関東大手私鉄でもフリーきっぷを販売してくれたらうれしいし、「スルッとKANSAI」のように「PASMOチケット」を出してくれたらもっとうれしい。関係各位、どうぞよろしくお願い申し上げます。

観光列車が続々登場、水害の影響も報じられた

2015年9月で忘れてはいけない事柄として、9月10日からの豪雨水害、鬼怒川などの堤防決壊がある。関東周辺では関東鉄道常総線、東武鉄道宇都宮線、小湊鐵道、JR只見線などが被災した。関係各位の尽力で復旧されており、10月15日現在は小湊鐵道の月崎~上総中野間を残すのみとなった。仙台地区でも堤防が決壊、JR北海道の日高本線は高波による不通区間でさらなる土砂流出が起きている。そういえば只見線は4年前の新潟・福島豪雨の不通区間がそのままになっている。鉄道の回復は地域再建の第一歩だ。なんとか早期回復を願う。

明るいニュースとしては、JR西日本の観光列車「べるもんた」の落成、近畿日本鉄道の南大阪線・吉野線へ新たな観光列車導入計画、「ななつ星 in 九州」の肥薩おれんじ鉄道ルート、来春開業の京都鉄道博物館のSL列車用客車などがあった。観光列車は毎月のように新しい発表がある。数えてみたら、すでに全国で60種類以上も存在しており、まだまだ増えそうな勢いだ。JR北海道の普通列車減便、駅の廃止のニュースもあり、夜行列車の廃止も寂しいけれど、総じて言えば、鉄道の旅は盛り上がっているといえそうだ。悲しいところばかり見ないで、新しい楽しみにも注目したい。