夏の「青春18きっぷ」シーズン到来。列車に乗って出かけよう! というわけで、7月は各地から観光列車の話題が届いた。新型車両の注目は、次期「スーパーあずさ」と目されるJR東日本のE353系量産先行車。在来線特急形電車はスター性がひときわ高く、置き変えられる従来車両の行方も興味深い。

E353系量産先行車。7月29日に試運転で中央本線を走行した

E353系量産先行車が登場 - JR東日本が力を入れる在来線特急列車

E353系量産先行車は、JR東日本が中央本線の同社区間、いわゆる「中央東線」向けに開発した特急形電車だ。マイナビニュースでは7月25日に総合車両製作所横浜事業所からの出場を報じ、29日に長野県内で実施された試運転の模様も伝えている。E353系の製造は2014年2月に公式発表されており、量産先行車の落成は2015年夏の予定だった。スケジュール通りの登場というわけだ。

信州方面は夏の避暑や温泉といった観光地としても人気だけれど、中央本線・篠ノ井線沿線はビジネスの拠点も多い。エプソンは諏訪・塩尻に工場があるし、安曇野にはソニーから独立したVAIOもある。中央東線の特急列車はビジネス需要も多いのだ。ライバルは新宿西口などを発着する高速バス。JR東日本はスピードと快適性で勝負する。

E353系量産先行車は今後、E351系の特急「スーパーあずさ」を置き換える形で導入される。押し出されるE351系は今後、団体列車・臨時列車など波動輸送に使われるという。基本編成8両・付属編成4両が各5編成あるだけなので、他の地域の特急列車をそっくり置き変えられる数ではなさそうだ。中央本線系統では河口湖方面、または「ムーンライト」系列への起用などを期待したい。

E353系量産先行車と、置換え対象のE351系が並ぶ

E257系は現在、特急「あずさ」「かいじ」などに使用される

報道公開に参加した各社の報道を見ると、JR東日本は「スーパーあずさ」にとどまらず、「あずさ」「かいじ」にも新型車両を順次導入し、中央東線の特急列車を新型車両に統一する意向のようだ。押し出されるE257系は伊豆方面へ向かう東海道本線の特急「踊り子」に投入される構想があるという。そして現在の「踊り子」に使用される185系が淘汰される。伊豆方面の特急がようやくリニューアルされそうだ。1981年生まれの185系は、デビューから35年が経過する。さすがに古さを感じる車両で、同じ料金なら普通列車のE231系・E233系のグリーン車のほうが快適な気がした。

JR東日本は常磐線特急列車にE657系を導入し、651系を北関東へ、E653系を新潟地区へ転用させた。E353系の量産車が投入されることになれば、在来線特急列車のリニューアル計画はほぼ完成といったところだろう。そこで気になるのが、特急「スーパービュー踊り子」の251系だ。E257系「踊り子」より古い電車になってしまう。251系は製造から25年、リニューアルして13年。そろそろ新しい展望タイプの特急形電車を見たい。

九州・北陸・東北で続々と観光列車のニュースが届く

JR九州は7月に「JRKYUSHU SWEET TRAIN『或る列車』」の報道公開を実施した。キハ47形気動車を改造した2両編成で、外装は金色。内装は水戸岡鋭治氏のデザインらしく、木材や布をふんだんに使った上品な仕上がりとなった。古参のキハ47形にこんな高級感を与えるなんて、水戸岡デザインはすごい。

原鉄道模型博物館に展示されている「或る列車」(報道公開時に撮影)

「或る列車」という名前は、かつて九州鉄道が米国の車両メーカーに特注した豪華客車に由来する。しかし車両の到着は九州鉄道が国有化された後。東京でひっそりと貴賓車などで運行された。正式な名前はなく、鉄道ファンや鉄道関係者から「或る列車」と呼ばれていた。いまでいう「例のアレ」みたいなものだろうか。その貴重な姿を目に焼き付け、模型で再現した人が、いまは亡き原信太郎氏。日本一、いや世界でも有数の鉄道模型愛好家として知られた人だ。米国スミソニアン博物館からの誘いを断り、横浜の原鉄道模型博物館に協力した。原氏が作った「或る列車」の客車模型も展示されている。

往年の鉄道ファンなら、「或る列車」も客車として、「ななつ星 in 九州」の第2弾として運行してほしかったところ。キハ47形の改造と聞いてちょっとがっかりしたけれど、写真で見ると思いのほかゴージャス。魅力的な列車になった。

九州ではもうひとつ、西日本鉄道が新たに柳川観光列車「水都 -すいと-」を発表している。こちらは先に運行開始した「旅人 -たびと-」の第2弾。ラッピングと車内リフォームが施され、普通乗車券で利用できる。西日本鉄道は2016年度以降に食堂車付き観光列車を計画しており、その前哨戦を始めたようだ。

JR西日本は7月31日、富山県内の城端線・氷見線を走る観光列車「ベル・モンターニュ・エ・メール」、愛称「べるもんた」の運転計画を発表した。10月から始まる北陸デスティネーションキャンペーンでデビューする予定。キハ40形の改造車で1両単行運転となり、土休日は快速列車の扱いで座席指定券が必要になる。平日は普通列車として運用するという。景色の良い氷見線、白川郷へのアクセスとなる城端線の魅力が増す。

JR東日本は7月15日、五能線経由で運行される「リゾートしらかみ」の「橅(ブナ)」編成に投入する新造車両(HB-E300系)の車両デザインを公開した。車両運用の都合で、指定席の配置は既存車両と同じと思われる。しかしパブリックスペースの展望エリア、フードカウンターはかなり独創性が高くゴージャス。すでに「リゾートしらかみ」に乗ったことがある人も、もう一度乗りたくなりそうだ。

現行の「橅(ブナ)」編成はキハ48形の改造車で、人気を受けて新型車導入へと出世した。改造投入した観光列車で、成功すれば新型車。良いパターンの見本だ。

この夏は北陸・信越地方の第3セクターが元気 - 来春には観光列車も

観光列車の話題といえば、北陸新幹線の並行在来線を引き継いだ新潟県の第3セクター鉄道、えちごトキめき鉄道が2016年春から新型リゾート列車の運行を開始する。7月24日、その列車名が「えちごトキめきリゾート雪月花(せつげっか)」に決定した。2両編成の新型気動車で、「国内最大級のパノラマウィンドウと、ハイデッカー仕様の展望サロン」が特徴という。飲食サービスも提供予定だ。

並行在来線の第3セクター化といえば、「地元の通学・通院手段の維持」がおもな目的だ。しかし、えちごトキめき鉄道は開業当初から観光誘客をめざし、攻めの経営といえる。その他にも、企業広告を獲得し、2年間にわたりラッピングトレインを走らせるという。すばらしい。ぜひ乗りに行きたいし、がんばってほしい。ただし、地方鉄道の中には、せっかく観光型の新型車両を導入しても誘客に結びつかず、車両基地の片隅で放置された事例を見かける。そうならないように健闘を祈る。

直近の話題としては、えちごトキめき鉄道・しなの鉄道北しなの線の夏季限定フリーきっぷ、IRいしかわ鉄道・あいの風とやま鉄道の共同1日乗車券などのニュースもあった。秋にはJR西日本の観光列車「べるもんた」「花嫁のれん」も走る。北陸・信越地方の鉄道から目が離せない。

新幹線500系とエヴァンゲリオンがコラボ! 海外誘客も狙える?

JR西日本は7月23日、「新幹線 : エヴァンゲリオン プロジェクト」を発表した。アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の20周年と、山陽新幹線の全線開業40周年を記念したプロジェクトだ。秋から500系新幹線車両をベースに、アニメに登場するエヴァ初号機をイメージしてデザインされた「500 TYPE EVA」が走り始める。500系の鋭角的な形状と、エヴァンゲリオンのしなやかなボディが融合した。

「エヴァ新幹線」はアニメファン・鉄道ファンの両方から賛否両論のようだけど、総じて見ればネタとして好印象のようだ。筆者は『新世紀エヴァンゲリオン』のテレビシリーズしか見ていないけれど、「500 TYPE EVA」は似合っていると思う。この機会にまた500系に乗りたくなったし、劇場版も見たくなった。そんな人が増えれば、両者にとって大成功だろう。

「プラレールカー」に使用される500系V2編成

このニュースは500系ファンにとっても朗報だ。500系は現在、タカラトミーやパナソニックとタイアップした「プラレールカー」が人気となっている。しかし、「プラレールカー」は今年8月30日をもって運行終了と報じられていた。これはもしや、500系そのものも……という不安がよぎったが、そこに「500 TYPE EVA」だ。2017年3月まで運行予定とのことで、まだまだ現役でがんばってくれそうだ。

500系は1997年から導入された新幹線車両で、最高速度は時速300km。アニメ関係者も注目するほどの鋭角的なデザインが人気だ。かつて「のぞみ」として東海道新幹線に乗り入れ、東京駅にも顔を出していた。だが他の形式と座席数に互換性がないという理由で、東海道新幹線を追い出されてしまった。現在は編成も運行区間も短縮されている。製造からもうすぐ20年となり、山陽新幹線では次に消える形式だろう。500系ともいつかはお別れだけど、末永く現役で走ってもらいたい。

ところで、「500 TYPE EVA」にはもうひとつの期待がある。海外から日本を訪れる観光客へのアピールだ。日本のアニメコンテンツは、台湾などアジアのみならず、欧米でも人気の様子。エヴァンゲリオンも北米で公開されたという。JR西日本にとって、「500 TYPE EVA」はインバウンド観光という、子供向けとは異なる市場への試金石かもしれない。

鉄道と航空、連携の動きも

海外旅行客向けといえば、大井川鐵道のバス部門「大鉄アドバンス」が7~8月の期間限定で、富士山静岡空港と大井川鐵道新金谷駅を結ぶ無料シャトルバスの運行を始めた。富士山静岡空港は台湾・ソウル・上海ほか中国10都市との定期航路がある。海外誘客が大井川鐵道を盛り上げるかもしれない。

7月9日の試乗会で並んだ「トーマス号」「ジェームス号」

その大井川鐵道では、7月11日から「ジェームス号」の運行が始まった。昨年好評だった「きかんしゃトーマス号」企画の第2弾。今年は赤い機関車「ジェームス号」も走り、「トーマス号」の運休日を補完する。すでにチケットは満席でキャンセル待ちの人気だけど、こちらも海外旅行客が増えているそうだ。

鉄道と航空路線の連携のニュースは他にもふたつ。JR北海道は7月1日からLCCと提携し、「Peach ひがし北海道フリーパス」「バニラ・エアひがし北海道フリーパス」を販売している。ともに大人1万5,500円・こども7,750円で、新千歳空港駅のみどりの窓口で搭乗券を提示すると購入できる。有効期間は5日間で、特急列車の自由席も利用可能。札幌~新千歳空港間や函館本線小樽~旭川間、根室本線・石北本線・釧網本線・富良野線・石勝線全線などがフリーエリアとされており、かなりお得なきっぷだ。

また、京成電鉄は7月17日から9月30日まで、新型「スカイライナー」5周年を記念し、LCC国内線往復ペアチケットとスカイライナー券引換券(往復)が当たる「成田空港へGo!Go! キャンペーン」を実施中だ。「スカイライナー」の座席に掲示された番号をキャンペーンサイトに入力することで応募できる。

8月は臨時寝台特急「北斗星」が運行終了となる。今後、鉄道で旅するなら、LCCなどの航空路線との上手な付き合い方も知っておいたほうが良さそうだ。