本連載の第80回では「リモートワーク推進を生産性向上に繋げるための3つのポイントとは」と題し、せっかくリモートワークをするなら生産性向上に繋げましょう、というお話とそのためのポイントをお伝えしました。今回はリモートワークにおける「べらかず集」についてお話します。

コロナ禍以前から時間をかけてリモートワークの環境を構築していた大企業やベンチャー企業などを除いて、緊急事態宣言以降に急いでリモートワークを導入した企業の多くは従来との働き方の違いに直面して四苦八苦しているのではないでしょうか。

そのようなリモートワークに苦戦している企業の中には、リモートワークの特性を踏まえずにオフィスでの仕事の仕方をそのまま導入しようとすることによって現場で軋轢が生じているというケースもあるようです。

そこで、以下ではリモートワークを導入した企業が「やってはいけないこと」を4つ取り上げて説明します。

1. 監視してはいけない

リモートワークになると当然ながら部下や同僚などが仕事をしている様子は伺えなくなります。オフィスと違って目の前にいるわけではないので、たとえサボっていたとしてもすぐには気が付かないでしょう。そのため、勤務時間中に真面目に仕事をしているのかどうかが把握できず不安になる気持ちは分かります。

しかしだからといって、勤務時間中はずっとWeb会議のカメラをオンにしているように強制したり、「しっかり仕事していますか?」などと頻繁に連絡を取ったりするのはご法度です。

特にWeb会議のカメラをオンにしたままでの仕事というのは常に見張られているのも同然なので、たとえ相手から話しかけられなくても常時、緊張状態を強いられてしまいます。やってみると分かりますが、これは大変疲弊します。

また、在宅勤務においてWeb会議のカメラをオンにしたままにしているというのは、常に私生活を見られているのも同然なのでプライバシーの観点からも問題になり得るでしょう。

そして、Web会議の常時接続ほどではないにせよ、過度に頻繁に「仕事をしているか」を確認することは「自分は信用されていないのではないか」と相手を不安にさせたり、相手の集中力が削がれて却って生産性が低下したりする事態を招きかねません。

2. マイクロマネジメントしてはいけない

リモートワークで部下がしっかり仕事をこなせるか不安だとしても、過度に細かい指示出したり頻繁に報告させたりするのもご法度です。あまりに細かい指示を出してしまうと、部下が自分で仕事のやり方を考える余地を奪ってしまいます。それは全員が均一のサービスを提供しなければならない職場であればよいかもしれませんが、そうでなければ自ら創意工夫するスキルの成長を阻害しかねません。

また、それ以上に深刻なのがオーナーシップの棄損です。細かすぎる指示を受けるということは「言われたことを言われたとおりにやるだけ」になるので、それによって顧客に不都合なことが発生した場合、たとえ口には出さなくても内心では「私は言われたとおりにやっただけなので知りません」と思っていてもおかしくはないでしょう。そのような状態でよい仕事ができるとは到底思えません。

さらに過度に細かい報告は、業務に占める報告にかかる時間が増えてしまって本来やるべき仕事の時間が相対的に減ってしまうという弊害と、度々作業を中断することにより効率の低下を招くのでやはりお勧めしません。

3. 曖昧な指示をしてはいけない

共にオフィスにいて、対面で指示を出すのであれば「この書類のこの箇所に必要な情報を埋めて隣の部署の担当者に渡してもらえるかな、できるだけ急ぎで」といった曖昧な指示でも、実際に書類を一緒に見て指をさしながら説明をすれば「この書類」と「この箇所」は目で見て分かりますし、「隣の部署」も物理的に隣にある部署ならそれ以上の説明がなくても通じるかもしれません。そして聞き手の表情を見れば「必要な情報」が分かっているかどうかもある程度察しがつくでしょう。一方、「できるだけ急ぎで」というのも指示する人の様子からある程度相手が推測してくれるかもしれません。

しかし、リモートワークのやり取りではどうでしょうか。「この書類」や「この箇所」などと説明されても残念ながら全く通じないでしょう。当然「隣の部署」も物理的に離れているため意味を為しませんし、ましてや「必要な情報」など分かりようもありません。「できるだけ急ぎ」というのも対面ではなく非言語情報が伝わりにくいので切迫感が伝わらない可能性が高いでしょう。

そのため、リモートワークで曖昧な指示は避けるべきです。さらに曖昧な指示は相手に伝わらないどころか、相手が解釈を誤ってミスを誘発する恐れすらあります。

4. 口頭だけで済ませてはいけない

オフィスで共に仕事をしているのであれば、仮に部下が指示通りに仕事をできていなかったとしても、作業途中で様子を見ることができるので困っていればすぐに分かります。そのタイミングで声をかければ、指示と作業内容の乖離を早めに見つけて対処することが可能です。そのため口頭だけで指示しても、指示内容との乖離が小さいうちに対処することができるので問題が大きくならないかもしれません。

その一方、リモートワークでは電話やWeb会議などを使って口頭だけで指示を出すのはお勧めしません。指示通りに作業が進んでいるのかどうかがオフィスにいる時ほど用意には把握できないので、万が一にも指示内容についての認識に齟齬があった場合には取り返しがつかない状況になってしまっているかもしれません。

なお、本来はリモートワークでなくても口頭でのやり取りだけで完結させるのはあまり良いコミュニケーション手段とは言えません。人間の記憶は当てにならないので、指示の内容について漏れがあったとしても「指示した側の情報が漏れていたのか」「指示を受けた側の理解が漏れていたのか」が判別できずに「言った言わない」の無用なトラブルの原因になります。そのため、お互いにオフィスで働いていたとしても口頭で指示した際には、さらにメールやチャットなどを使って文章で相手に伝えることをお勧めします。そしてリモートワークでは文章で伝えることは不可欠です。

今回はリモートワークでトラブルを招くポイントを4つご紹介しました。これらのポイントに留意して、リモートワークを快適かつ効率的に行えるようにしましょう。