本連載の第78回では「フォルダやファイルを扱う定型作業を簡単に自動化する方法とは」と題し、マクロを使わずに作業を自動化する方法をお伝えしました。今回はリモートワークの導入を最初から諦めてしまっている会社や部署の方に向けてお話します。

コロナ第三波を受けて、緊急事態宣言解除後にオフィスに戻りつつあった社員を再びリモートワークにする動きが加速しているようです。その一方で、会社によっては「うちにはリモートワークは向いてない」と言って全社員をオフィスに出勤させ続けているところもあるようです。

確かに工場の生産ラインや物流の配送業務、実店舗での接客業務などは従業員が物理的に現場にいなければ仕事が成立しないので出勤せざるを得ないでしょう。その一方、事務職においても「社風がリモートワークにマッチしていない」「リモートワークにすると社員がさぼるからやらない」「仕事が紙資料を中心に回っているからリモートワークは不可能」といった理由を盾にリモートワークの検討すらしようとしないのは大変もったいないことです。

そもそもリモートワークは何ら特別なことではありません。取引先や業務委託先とのやり取りはメールや電話などのオンラインで済ませているという方も少なくはないでしょう。社外とのやり取りがリモートで完結できているのならば、それを社内におけるやり取りに拡張させれば済むはずです。現代の事務職であれば、既に少なくとも断片的にはリモートワークに近い働き方をしているという方の方が多いのではないかと推察します。リモートワークは自社とは縁のない全く未知の世界のものではないということがお分かりいただけたのではないでしょうか。

それでも「社風がリモートワークにマッチしていない」というのであれば、「なぜそう言い切れるのか」を徹底的に検証した結果であれば致し方ないですが、そうでなければ単に「今までのやり方を変えるのが面倒臭いから」とは表立って言えないのでそれらしい言い訳をしているようにしか思えません。

また、ほんの数カ月間だけリモートワークを試してみて上手くいかないところがあったとしても、それだけで「リモートワークはやっぱり駄目だ」と判断するのもイマイチです。長年続けてきた働き方を変えて、そこからほんの数か月で完璧なものに仕上げようというのは無理がありますし、うまく行かないところをその都度把握して課題を特定し、改善していくことで解決できるかもしれません。まずは少なくとも1年間は改善を繰り返しながら徹底的にやってみて、それでも上手くいかなければそこで漸く「諦めても仕方がない」と言えるのではないでしょうか。

また、「リモートワークは社員がさぼるからやらない」という件については、こんなことを言うとお叱りを受けそうですが、むしろ「さぼってもよいのではないか」と捉えることで対応してはいかがでしょうか。このことに関して、以下で思考実験をしてみましょう。

ここに社員のAさんとBさんがいたとします。Aさんはしょっちゅう休憩を取る上に必ず定時で帰りますが、求められる成果は上げ続けています。Bさんは休憩を取らずに一心不乱に残業も厭わず仕事に取り組んでいますが成果はイマイチです。この場合、合理的に判断するとBさんよりAさんの方が会社に貢献していると言えるはずです。つまり、しょっちゅう休憩を取っていようがさぼっていようが、しっかり求められる成果を上げ続けていれば何ら問題ないはずです。それとは反対に、どれだけ集中して仕事をしていても成果が上がらないのであれば、それを問題と捉えて改善するために指導すべきでしょう。

そして「仕事が紙資料を中心に回っているからリモートワークは不可能」という点については単純な話、紙をなくしてしまえば済むことなので至ってシンプルに対応できます。このような話をしたときによくある反論は「うちの会社で扱っている紙資料がどれだけあるか分かってないからそんなことを軽々しく言えるんだ」ということです。

そこで「では、御社の紙資料はどれだけありますか。全ての資料名と目的、内容、所管部署が載っているリストを見せてください」と言うと十中八九、「そんなものはない」と回答が来ます。これはつまり、そもそも自社で扱っている紙資料の全体像を自分たちも把握できていないということを暴露しているようなものです。

しかしそのことさえ分かってしまえば、やるべきことはシンプルです。丁寧に全て調べ上げてリストを作ればよいのですから。そしてリストを精査して「本来不要なもの」と「やはり必要なもの」に分けて、さらに後者を「電子化するもの」と「紙のままにするもの」に選り分けてしまえばよいのです。確かに手間はかかりますが、選定の基準さえしっかりしていれば確実にできます。

このように、「できない言い訳」を一つずつ丁寧に潰していくことで着実にリモートワークを実現させる道を歩むことができます。できない理由を挙げて最初から諦めてしまうのではなく、しぶとく食らいついてリモートワークを実現させましょう。