本連載の第6回では「職場での効率的なコミュニケーション手段」と題して3つの観点から最適なコミュニケーション手段を考えることの必要性をお伝えしました。今回は前回に続いてコミュニケーションに着目し、相手の質問に的確かつ効率的に回答する方法をお伝えします。

  • 質問にどう答えていますか?

    質問にどう答えていますか?

聞かれたことに答えていますか?

突然ですが、とある職場での上司と部下のやり取りを見てみましょう。

ケース1

上司「その作業、あとどれくらいかかりそう?」
部下「えっと、先ほどまでお客様からの電話に対応していまして、この作業はまだあまり進んでいなくて……あ、でもこれから頑張ってやるので、それほどかからないと思います!」

ケース2

上司「先方から問い合わせが来ているけど、返答した?」
部下「その件は少々複雑で目下、関係部署から情報を収集している最中でして、すでに2つの部署から情報が届いたのですが、他の3つの部署は音沙汰がないので、すぐに確認してみます」

この2つのケースを読んで、何も違和感を覚えなかった方は要注意です。これは「あなたの名前を教えてください」と聞かれて「私の名前は父方の先祖の出身地の地形に由来しているものでして……」のように回りくどく答えているのに等しいのです。聞いた側にしてみれば、「名前を教えてよ!」とイライラしますよね。

先ほどのケース1では「残作業時間」を問われているので「3時間くらいかかりそうです」とか、「1時間以内では終えられそうです」などと、「残作業時間の見込み」を答えるべきですよね。ケース2では「返答したか否か」を問われているので、まずは「はい」か「いいえ」で明確に答えましょう。

これは当たり前のようでいて、気をつけていないと案外できていなかったりするものです。そこで、聞かれたことに的確に答えるために、まずは相手の「聞き方」に注意することをお勧めします。

相手の問いが「~は終わった?」「~できる?」「~は売れた?」などのYes/Noで答えられる質問(クローズドクエスチョン)なのか、「~はいつ届くの?」「~はどこにいる?」「~はなぜ採用されたの?」などの質問(オープンクエスチョン)なのかを見極めることが大事です。

そのうえで、後者では英語のWho(だれが)、When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)などの疑問詞のどれに該当するかを意識すると、より的確な回答ができるようになるでしょう。

結論から答えていますか?

では、次のケースを見てみましょう。

ケース3

上司「昨日見つかった基幹システムのバグ(不具合)は全て取り除けたかな?」
部下「ああ、あのバグですね。あれはうちではなく、外注先のエンジニアがテストの際に見逃したもので、うちのせいではないことがわかりました。早急にそのエンジニアに対応を依頼しましたが、まだ完全には除去できていません」

ケース4

上司「今週金曜日の会議で使う役員への報告資料、どこまでできた?」
部下「はい、その資料でしたらボリュームが多くなりそうだったので、議題ごとに分割してチームのメンバーで手分けして進めております。みんな頑張って進めてくれているので、全体の半分くらいはできたところです」

この2つのケースでは聞かれたことに答えていますね。しかし、まだ改善の余地があることにお気づきでしょうか?

例えば、ある場所から新宿駅に一刻も早く移動しなければならないときに、通りがかりの人に「ここから新宿駅まで、どうやって行けば最も早く着きますか?」と聞いて、「新宿駅までならJR、地下鉄、バス、タクシーのどれでも行けますが、JRは15分、地下鉄は20分、バスは30分、タクシーは20分ほどかかります。ということで最も早く着くのはJRですね」と答えられたら、どう感じますか? 丁寧に教えてくれるのはありがたいですが、一刻も早く着きたいのに、肝心の答えをなかなか教えてくれなくてヤキモキすることでしょう。

ケース3では「バグは全て取り除けたか?」と聞かれているので、「まだ取り除けていません」と回答した上で、必要に応じて「外注先のエンジニアに起因するバグでしたので、対応を依頼しました。本日中には対応完了予定です」などと補足情報を追加すればよいでしょう。

ケース4では報告資料について「どこまでできた?」と聞かれているので、まずは「全体の半分ほどできました」と答え、その上でやはり必要に応じて「全部で10個ある議題のうち、5個については資料が完成しています。残りの5個についてもメンバーで手分けして進めており、木曜日の正午までには終えられます」といった感じで補足すると、上司も安心するのではないでしょうか。

特に時間に追われる昨今のビジネス環境では、意思決定の遅れは命取りになりかねません。と言うと大袈裟だと思われそうですが、会社の至る所で行われる日々の意思決定の積み重ねが会社全体の動きにつながることを考慮すると、一つ一つの意思決定にかかる時間は短くとも、会社全体で見ると看過できないほどの影響を及ぼすことになります。

また、役員クラスになると、特に多忙を極めている人が多いものです。そのような時間に追われている人からの質問に対して、結論を後回しにして回答してしまうと、回答を途中で遮って「何が言いたいのかわからん」と叱責されるか、少なくとも「できないやつだ」と思われてしまう恐れがあるので注意しましょう。

聞かれたことには結論から返すということを、ぜひ意識してやってみてください。

情報に過不足はありませんか?

それでは最後のケースを見ていきます。

ケース5

上司「先月発売した新商品、すでに返品が100件も発生しているそうだが、なぜなんだ?」
部下「返品時のアンケートによると、最初の返品は『商品がイメージと違っていたから』で、2件目は未記入なのでわからず、3件目は『商品がイメージと違っていたから』で、4件目は『操作が難しかったから』、5件目は……」

ケース6

上司「これまでうちの大口顧客だったところが立て続けに3社、競合のA社のサービスに乗り換えたらしいな。うちとA社のサービスの何が違うのか?」
部下「違いですか……価格ではA社に負けていないんですけどね」

この2つのケースでは、いずれも「聞かれたことに結論から答えている」という点ではよいのですが、まだ及第点には至りません。例えると、ケース5は「今日、洗濯したいんだけど天気はどうかな?」と聞かれて「午後8時までは晴れ、それ以降は曇りで降水確率は10%、最低気温は21度で最高気温は27度、湿度は50%で風速は0.5m、気圧は1002~1004hPaだよ」と答えるようなものです。情報過多のため、聞いた方は途中でうんざりすること間違いないでしょう。

続いてケース6は「こないだ作ってくれたタンメン、とてもおいしかったけど、どうしたらあんなにおいしくできるの?」と聞かれて、「決め手は塩だね」とだけ回答されるようなものです。情報が不足しており、塩の種類なのか、分量なのか、投入タイミングなのか、何が決め手なのか具体的なことはさっぱりわかりませんね。

では、ケース5を振り返ってみましょう。返品が発生している理由を問われているのですが、100件すべてについて個別に答えるのは情報過多で効率が悪いので、最もよいのは「100件のうち、5割が『商品がイメージと違ったから』で、3割が『操作が難しかったから』、2割が『傷がついていたから』でした」などと簡潔に集計結果を伝えることです。

続くケース6で問われているのは、「自社とA社のサービスの何が違うから乗り換えが起きたのか」ということなので、「商品が注文から顧客に届くまでの時間がA社はうちの半分で済むという点が異なります。それ以外の商品の品質、価格、宣伝、アフターフォローにはほとんど差は見られないので、やはり流通部分の差が乗り換えにつながっていると推察されます」などと、異なる点を述べつつも、その他の重要な要素についても情報を補足することで、上司も納得できるかと思います。

このように、「聞かれたことに過不足なく答えること」ができないと、回答に含まれる情報が多すぎて「回りくどいので簡潔に答えてくれ」と言われてしまったり、逆に情報が不足していて「それは全体の一部しか考慮していないよね」などと言われてしまったりします。いずれのケースでも余計なやり取りが発生してしまうので、コミュニケーションの効率が低下してしまいますね。

情報を伝える際は「相手に何の情報をどこまで伝えたら過不足がないか」ということを常に意識してみるとよいでしょう。

ここまでで効率的なコミュニケーションを行うための3つの注意点「聞かれたことに答えていますか?」「結論から答えていますか?」「情報に過不足はありませんか?」についてお伝えしました。この3つがしっかりできるようになると仕事の効率化が図れるだけでなく、相手からの評価もきっと上がると思います。ぜひ活用してみてください。

著者プロフィール:相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役 慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。