本連載の第50回では「アフターコロナの社会を見据えて組織として備えるべきこと」と題し、これから先の危機に柔軟かつ迅速に対応するために組織としてどう備えるべきかをお伝えしました。本稿ではさらに踏み込んで、個人レベルで備えた方がよいことをお話します。

  • アフターコロナに向けて個人はどう備えるべきか

アフターコロナに向けて個人はどう備えるべきか

5月25日に日本全国で緊急事態宣言が解除されましたが、新型コロナウイルスの脅威が完全に消滅したわけではありません。そこで、宣言の解除に手放しでは喜べないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

人と人との接触が増え、再びウイルスが猛威を振るう可能性が考えられるなかで、通勤や通学の満員電車などで3密の環境を作ってしまうことは避けたいところ。また、密閉された会議室に大勢の社員が集まり、ソーシャルディスタンスを確保できないようなケースもはばかられるかと思います。

そうすると、「できるだけ感染のリスクを抑えることを前提にした働き方」が定着するのではないでしょうか。

また、3密の解消が困難な業界・業種によっては、経営がますます厳しくなる会社も出てくるでしょうし、一方ではビジネスモデルや商品・サービスの提供方法などを大きく変えることで、生き残ろうとする会社も増えると考えられます。

このように世の中が大きく変化しようとするなかで、自分の働く業界や会社の今後について、少なからず不安を抱えている人もいるのではないでしょうか。そこで、こうした不安を払拭し、個人が生き残るために備えておくべきことをお伝えします。

アンテナを張って情報収集しよう

不安になる理由は「先が見通せないこと」ですが、だからといって「先のことを考えてもしょうがない」と諦めてしまってはなんの解決にもなりません。東日本大震災や熊本地震などの自然災害や交通事故などは、突発的に発生するため予測が困難です。しかし、それらと比べると、社会の変化は基本的にはゆっくり起きていきます。そのため、変化の兆しを捉え、先手を打つことができます。

それでは変化の兆しを捉えるにはどうすればよいのでしょうか。そのために欠かせないのが日頃からの情報収集になります。しかし、ただ漫然とニュースや新聞などで「その日の出来事」を知るだけでは難しいでしょう。その日の新型コロナウイルスの感染者数、株価、為替レートなどを知るだけでは、世の中の変化のトレンドをつかむ参考にはなりません。必要なのは、長期的な視点に立って考えることであり、そのために使える情報の収集です。そこで役に立つ情報には「未来に関するもの」と「過去に関するもの」があります。

まず「未来に関するもの」ですが、「今回の危機が人々の価値観や生活様式にどのように影響しそうか」「各国の政府や国際機関が何に注力しようとしているのか」「どのようなテクノロジーが注目を集めているのか」といった情報です。このような情報から、世の中がどういう方向に向かっていくのかを予測するということです。

一方、「過去に関するもの」は、一言でいえば歴史です。今回の危機に関連するものではペストや天然痘、スペイン風邪などの過去のパンデミックの際にどのようなことが起きたのか、人類はどう立ち向かったのか。また、感染症をきっかけに世界はどう変わったのか、逆に変わらなかったものは何かなど。言うまでもなく、当時と現在では環境が違いますが、それを差し引いても得られる示唆があるのではないでしょうか。

スキルと経験の棚卸しをしよう

アンテナを張って情報収集し、世の中の変化を予測できても、それだけでは変化の波に乗れるとは限りません。サーフィンに例えると、何時にどの位置にビッグウエーブが来るかをずばり当てたとしても、その波に乗る技術がなければあっという間に飲み込まれてしまうようなものです。

ただし、こういう話をするとよくあるのが、これまで全くプログラミングに関わったことがない人が「次はAIの時代だから、AIの開発に使える言語、Pythonを学ぼう」といってスクールに通い出したり、医療や公衆衛生に全く興味がない人が「感染症対策のニーズが高まりそうだから医療環境管理士の資格を取ることにした」と宣言したりするようなケースです。

こうした決意が無意味だというわけではありませんが、短絡的にも思えます。場合によっては非効率になってしまうこともあるでしょう。仮に今後、AIが爆発的に普及すると予想していても、プログラミングを学ぶこと以外にも様々なアプローチが考えられるはずです。視野を広く持って、考えたいものです。

また、これまでに自分が培ってきたスキルや経験を全く生かせないものをゼロから習得したところで、世の中に大勢存在する経験者との競争に競り勝って仕事を受注できるのでしょうか。天賦の才があれば問題ないかもしれませんが。

したがって、自身のスキルや経験に基づかない全く新しいスキルを模索するよりも、「今自分が持っている武器は何か」を改めて見直すところから始めることをおすすめします。そしてその武器を、これから起こるであろう変化に対して、どう有効利用するのかを考えてみてください。

もし自分の武器がわからないという場合には、自分がこれまでにやってきた仕事を思い出して、そこでほんの少しでも人よりうまくできたことや、やっていて苦にならなかったことを書き出してみるとよいでしょう。そういうことから、思いがけない自分の強みを見つけられるかもしれません

それでも見つからない場合には、自分の得意なことを同僚や友人に聞いてみることをおすすめします。自分では「できて当たり前」で気付かないことも、周りの人の目にはしっかり認識されているものです。

複数のオプションを考えておこう

最後に、この激動の時代を個人が生き残るために、決定的に重要なことをお伝えします。それは、自分が進む可能性のある道を1つに絞らず、複数の道を考えておくことです。それによって、元々想定していた道が閉ざされたとしても、他の道で生き残れる可能性を上げられるのです。

その昔、馬車を走らせていた大勢の御者は、自動車の普及とともにみなくなりました。かつて電話回線を接続していた電話交換手や、文字を印字していたタイプライターも、社会の表舞台からいなくなりました。今では多くの企業で、定型的な事務作業が急速にRPA(Robotic Process Automation)というテクノロジーに代替されつつありますし、AIの進歩によってさらに多くの仕事が人間の手を離れる可能性が指摘されています。

今回の危機では航空、鉄道、バス、タクシーなどの交通に加え観光、百貨店、飲食など幅広い業界が売上の急減に見舞われました。技術の進歩に加えて突発的なパンデミックによっても職を失う可能性があることがわかった以上、何か1つの道しか選択できない状態というのは心許ないと言わざるをえません。

いかなる事態に陥っても、危機を乗り越えてたくましく生きていくためには、人生に「しなやかさ」が必要だと考えます。それは予め自分が選択できるキャリアや仕事の幅を広げ、必要に応じて切り替えることができるようにすることで実現できるのではないでしょうか。

さて、本稿ではアフターコロナを見据えて個人として備えておくべき3つのことをお伝えしました。読者の皆様の不安を払拭するためのヒントになれば幸いです。

筆者プロフィール: 相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。