本連載の第49回では「新型コロナウイルスによって時計の針が一気に進む」と題し、今回の危機を通じてワークロケーションとコラボレーションが分散化するという予測をお伝えしました。本稿ではそれを踏まえて組織として備えるべきことについてお話します。

前回はこの度の危機を通じて働く環境が大きく変わるのではないかとお伝えしました。この変化のキーワードは「分散化」で、新型コロナウイルスの脅威が去った後でも社会に浸透したテレワークによって働く場所がオフィスから自宅、コワーキングスペース、カフェなどさまざまなロケーションになり、さらに人口密度の高い大都市から地方へと広がるという2つの分散化が進むと考えられます。

また、新型コロナウイルスに限らず今後も局所的、あるいは世界的な感染症の蔓延に加え、首都直下型地震や南海トラフ巨大地震、昨年の台風19号のようなスーパー台風などの大規模な自然災害の発生もいつ起こるかわかりません。さらに、このような社会経済に大きな影響を及ぼす災害以外にもAIやIoT、AR/VR、5G、ドローン、ブロックチェーンなどのような革新的な技術の進歩が目覚ましい今の時代においては、どの業界においても常に環境の変化に適応できなければ生き残れるのが難しいのではないでしょうか。

そしてこのような激しい変化の荒波を乗り越えていくには、自社の人間だけで何とかしようとするよりも他の業界の社員やフリーランスで働く専門家などのスキルや知恵を随時借りてコラボする方が効果的ではないかと考えます。これがコラボレーションの分散化という考え方です。

それでは、これら2つの分散化の動きを見据えたときに私たちの組織はどのような備えをすべきでしょうか。ここからは会社全体、あるいは部署やチームとして備えておくべき3つのポイントを解説します。

異業種の人脈を活用できる体制

まず1つ目は社外の人たちと迅速かつ効果的・効率的にコラボレーションできる体制を整えることです。そのためにはまず社員一人一人が幅広い業界に人脈を持つことが必要で、できればいつでも相談できるような関係性を構築できるとベターです。

その際、自社と同じ業界だけではなく全く異なる業界の人たちとの人脈を作っておくことをお勧めします。自社の業界にとって初めての危機に遭遇したとしても、他の業界では過去に遭遇して乗り越えた経験があるかもしれません。また、そうでなくとも異業種の知人が提供している商品やサービスが自社に降りかかる危機を回避するのに役立つこともあります。

コロナが落ち着いてからにはなりますが、商工会議所や保険会社などが開催する異業種交流会に参加したり、イベント情報アプリで興味のあるイベントに申し込んだり、ビジネス上での人脈を増やすことに特化したビジネスマッチングアプリを使用したりして、積極的に人脈を増やすとよいでしょう。

では、各々の社員が多様な業界の人脈を持っていればそれで十分かというとそうではありません。誰がどのような人脈を持っているのか、会社全体で可視化して共有できていないといざというときに使えない資産になってしまいます。幸い、今はクラウドでの名刺管理アプリなどもありますので、社員の人脈を全社共通の資産として扱うハードルは下がっています。まだ導入されていないようでしたら検討してみてはいかがでしょうか。

変化に即応できる柔軟な制度

今回の新型コロナウイルスに象徴される感染症や巨大地震などの危機は唐突に発生します。このような危機が発生すると急激に経営環境が悪化してキャッシュが流出し、気がついたときには立て直すのが困難な状況に陥りかねません。

そのため、危機発生時に一刻も早く対応できるような制度を平時から整備しておくことが必要です。ただし、それは予め「こういう危機が起こったら、このような対応を取る」という予測に基づいた詳細な行動マニュアルのような堅いものではなく、一定程度は組織の行動に自由度を持たせることを前提とした制度であるべきしょう。

例えば「有事の際には危機対応タスクフォースを設置し、危機対応に関する権限を集中させる」とか「局所的な自然災害が起きた場合は当該地域を統括する支社に本社の権限を一部委譲する」といった、危機の大まかな特徴に合わせて柔軟かつ迅速な権限のコントロールができるように社内規定を見直すといったことが考えられます。

また、ワークロケーションを分散化しておくことは、それ自体が危機への対応につながります。ワークロケーションが地理的に一カ所に集中している状態では当該地域が被災した場合などに壊滅的な打撃を受ける恐れが高いですが、分散していれば一カ所の稼働が止まったとしても他の地域がバックアップできます。さらに、素早いバックアップを行うためにも、有事における地域間での連携方法や指揮命令系統などを柔軟性に配慮しつつ整備しておくことが肝要です。

そして、有事の際には何より迅速な意思決定と行動が必要で、そこに時間がかかって後手に回るほど自社が取れる選択肢が狭まっていくことも想定されます。それにも関わらず、危機への対応を考える会議において「対応策によって自社の受けるダメージが本当に最小化できるのか、証拠はあるのか」とか「もし対応策が失敗に終わった場合は責任を取る覚悟はあるのか」などという責任論に終始するようでは結局何も決められず、行動できないまま時間を空費してしまい本当に身動きが取れない状態に陥りかねません。

そのため、上述したタスクフォースなどに権限を持たせた上で、仮説に基づいて対策を決めて行動を開始し、実行しながら評価して修正・改善していくというアプローチを取れるように業務設計しておくことが有効でしょう。朝令暮改を厭わず、短期間で素早くPDCAを回していくイメージです。

プロジェクトの経験を持つ人材

異業種の会社やフリーランスの専門家などとコラボするにしても、タスクフォースを立ち上げて即断即決で対策を実行していくにしても、そこには必ず人的リソースの投入が必要になります。平時は各々、所属する部署に散らばっている人たちを当該部署の業務から引きはがして他社やフリーランスの方々を集めてディレクションに徹しさせたり、タスクフォースに参加させたり、そこで決定された対策の実行を担わせたりといった有事ならではの仕事に従事してもらわなければなりません。

そのため、有事において必要な人を必要な場所や仕事に素早く転換できるようにしておくことの重要性は言うまでもありませんが、それに加えて常日頃からそのような人材を育成しておくこともまた肝要です。そして有事の際に活躍できる人材を育てるには、平時から優秀な社員には部署や、できれば会社の枠を超えたプロジェクトを経験させておくことが有効と考えます。

プロジェクトは明確な目的・目標を達成するための期間限定の取り組みなので、その性質は危機への対応と似ています。さらにプロジェクトでさまざまなバックグラウンドを持つ人たちとうまくコミュニケーションし、目標達成に向けてディレクションしていくスキルは危機への対応において役に立つはずです。

さて、本稿ではアフターコロナを見据えて、経営に致命的な打撃を与えかねない唐突かつ大規模な環境変化を生き残るために組織がどう備えるべきかについてお話しました。危機発生時は対応の早さが明暗を分けます。そこで、迅速な対応を行うために必要な要素として「異業種の人脈活用」「柔軟な制度」「プロジェクトの経験を持つ人材」を揃えておくことを提唱しました。本稿が将来発生するであろう危機への組織的な備えを検討する際の一助になれば幸いです。

筆者プロフィール: 相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。