本連載の第193回では「散在している情報を整理する際に考えるべきこと」という話をお伝えしました。今回は前回に引き続き情報に焦点を当てて、業務で真に必要な情報を識別するためにやるべきことについてお話します。

顧客情報、商品情報、販売情報、仕入情報、社員情報……企業では本当に多種多様な情報が扱われています。そして、事務系の職種の仕事は「情報を扱うことが仕事」といっても過言ではないかもしれません。しかし、それらの情報や、情報が載っている帳票類や電子ファイル、或いはデータベースなどがあまりにも多岐に渡っていて、もはや今ある情報のどれが本当に必要なのか、そうでないのかを識別することは困難を極めます。しかしながら、業務効率を上げるためには何の情報が必要なのか、情報ニーズを評価することが有効と考えます。

会社で真に必要な情報のニーズを評価するためには、会社の目標、戦略、業務などいくつかの要素を考慮する必要があります。ここでは、情報ニーズを評価するためにできることの具体例を紹介します。

1. 重要業績評価指標(KPI)を特定する。

会社の目標に関連するKPIを特定します。そのためには、これらの目標や目的を支える重要な成功要因を特定し、成功を測定するための指標を決定することから始めます。そしてデータを分析し、どの測定基準が会社の目標達成に最も密接に関連しているかを判断します。続いて会社の業績について最も有効な洞察を提えてくれるKPIを選択し、定期的に追跡します。

このプロセスには、部門長や上級管理職などの重要な関係者に参加してもらい、選択したKPIが会社や部署の戦略に沿っており、測定可能かつ実行可能であることを確認することが重要です。

2. 業務プロセスを見直す。

会社の業務プロセスを見直し、各ステップで必要なデータの種類を特定します。例えば、生産プロセスを評価し、生産ラインを円滑に稼働させるために必要なデータを確認することができます。

手順としては、まずは関連するすべての文書を集めるところから始め、各文書の内容を評価し、どの情報が会社の業務に関連しているかを判断します。次にその文書に存在する情報の間に重複や矛盾がないかを確認し、整理した上で情報の正確さや最新のものかどうかを評価します。また、文書に記載されている関連情報をリストアップして、それが次のプロセスにどのように役に立つのかを精査します。

このように既存のドキュメントを見直すことで、すでに利用可能な情報源を特定し、その情報が正確で最新であるかどうかを判断することができます。

3. 業界の傾向を分析する。

業界のトレンドとベストプラクティスを分析し、競合他社に遅れをとらないために必要なデータを把握します。例えば、マーケティング部門がソーシャルメディアのトレンドに遅れないために、ソーシャルメディアのエンゲージメント率に関するデータを必要とするのも一つ例です。

では、どのように進めればよいのでしょうか。まずは企業が事業展開している産業(業界)を特定し、その業界に関連するデータやレポートを調査・分析します。そこで新たなトレンドと機会、潜在的な脅威と課題を探します。また、自社の業務と慣行を業界のベストプラクティスと比較します。業界のトレンドや標準に合わせるために、自社の業務を改善できる分野があれば、それを特定します。

業界のトレンドを分析することでベストプラクティスを理解し、市場での競争力を維持するために自社が業務を改善できる領域を特定することができます。

4. 不足している情報を特定する。

会社の業務に影響を及ぼしている情報不足を特定する。例えば、どのようなデータが不足しているのか、その不足を解消するためにどのようなデータを収集する必要があるのか、ニーズ調査を行います。

そのために、まずは会社が目標を達成していない分野や、課題を抱えている分野を特定するところから始め、それらの分野における現在の情報の活用レベルを評価します。そして不足している知識やスキル、情報がどの業務領域にあるのかを特定します。特定できたら、その業務領域におけるギャップを埋めるために、どのような知識やスキル、情報が必要か、必要なレベルで情報を活用するためには何が必要かを判断します。

どこでどれだけ情報が不足しているか、或いは情報の活用レベルが足りていないのかを特定することで、会社が改善すべき特定の分野に重点的に取り組むことができ、効率の向上と成果の向上につながります。

5. 報告の必要性を評価する。

意思決定にはどのような種類の報告が必要かを判断するために、会社の報告ニーズを評価します。例えば、財務部門はキャッシュフローや収益の予測を示す財務報告書を必要とするかもしれません。

報告ニーズを特定するために、まず会社の意思決定プロセスをサポートするために必要なレポートの種類を洗い出し、各々のレポートの頻度とタイミングを決定します。そしてレポートに含まれるべき主要な指標とデータを取得するポイントを特定し、データを載せる報告のフォーマットとプレゼンテーションのスタイルを決定します。なお、役員や上司など重要な関係者からフィードバックを得てレポートの必要性を検証し、必要な調整を行うことも忘れてはなりません。

このようにして報告のニーズを評価することで、会社が必要とする情報をタイムリーかつ有用な方法で受け取ることができ、より良い意思決定とパフォーマンスの向上をサポートすることができます。

ここまで、会社でどのような情報が必要なのかという情報ニーズを評価するために一般的に必要とされることをお伝えしました。ここで挙げたもの以外にも、法律やルールなど各種規制、コンプライアンスなどの要請上必要なものや、業界特有のものなどもあるでしょう。まずはそういった「そもそも何を考慮しなければならないのか」というところからしっかりと議論を詰めて取り掛かることが肝要です。