本連載の第195回では「異動を控えた社員が今のうちにやっておくべきこと」という話をお伝えしました。今回は連日ニュースなどで取り上げられているAIツールの登場に不安を覚えている方に向けてお話します。

ここ最近、Chat GPTやMidjourneyといったAIツールの話がテレビの報道番組などで取り上げられ、認知度を一気に上げています。さらに最近ではMicrosoftがChat GPTを開発するOpenAIに100億ドル(約1兆3,000億円)の資金を投じるなど、AIの開発競争が激化しています。

既にこうしたAIの威力は世間に広く知れ渡ったようですが、認知度の向上と比例して「自分の仕事がAIに奪われてしまうのではないか」と不安になる方も増えているようです。特にChat GPTは自然な日本語で会話の相手をしてくれたり、文章やプログラムのソースコードを書いてくれたりと、とても汎用的なニーズに応える能力を持っています。

しかも去る3月1日にはOpenAIがChat GPTのAPI公開を発表しました。これによって、他社のアプリでChat GPTを活用する動きが活発化しています。他社が持つ専門的な情報にChat GPTの高度な対話機能を組み合わせることで、Chat GPT単体では対応しきれなかったようなニーズに応えることができるようになります。

Chat GPTに限った話ではありませんが、AIの能力が飛躍的に拡大していく中で、これまで人が行っていた仕事をAIが取って替わるということは容易に想像がつきます。そのため、「自分の仕事が奪われるのではないか」と危惧するのは当然です。

しかし、過去を振り返れば技術の発展に伴って人が仕事を奪われることは幾度となくありました。自動車の登場によって馬車がなくなり御者が失業しました。私の祖母は電話の回線を繋ぐ「電話交換手」という仕事をしていましたが、電話交換機の登場で仕事はなくなりました。

その一方、技術の発展によって人の仕事は奪われるだけでなく、新たな仕事が生まれています。私が子どもの頃はブロガーやユーチューバー、SNSマーケターとった仕事は存在しませんでした。これらの仕事はインターネットやYouTube、SNSという技術の登場により新たに生み出されたものです。

そうかといって「AIに今の仕事が奪われても新しい仕事ができるから心配しなくていい」というのも少々無責任に感じるので、ここからは今の仕事をベースにしつつAIと共存するために今何をすべきかをお話します。

1. まずは使ってみよう

あなたは既にChat GPTやMidjourneyなどのAIツールを自分で使ってみましたか。ツールがあることは知っているけれど、自分で使ったことがないという方は多いのではないでしょうか。最近では様々なメディアで紹介されているので「記事で読んで、だいたいどんなものかは分かっている」というところで止まっていませんか。

自分の仕事が本当に奪われてしまうのかどうかをただ漠然と恐れていても何も解決しません。実際に自分で使ってみて「本当に仕事が奪われそうかどうか」をまずは確かめてみませんか。自分で使ってみることではじめて「自分の仕事の中で、この部分はAIに取って替わられそうだけど別の部分はそうでもないな」などと切り分けることができます。

そもそも、人がやっている仕事の全てをAIに取って替わられるかというと、そこまでは至らないことの方が多いでしょう。自分でAIに触れてみることで、その範囲がどこまでかを識別しましょう。

2. どう使えるかを考えよう

ここまでは「仕事を奪われる」と表現してきましたが、「仕事を任せる」と捉え直すことができます。奪われるのではなく、任せる。そう捉え直せば、自分の仕事の中で「この部分はAIに任せて、他の部分にもっと自分の時間を割こう」という発想ができます。

これは、かつては算盤や電卓で行っていたような計算処理をExcelの関数やピボットテーブルなどに任せることで浮いた時間を活用して、計算結果をどのように分析し、資料化し、報告するかを考えるのに使えるようになった、ということに似ています。

AIによって自動化できる仕事の価値が相対的に下がっていくのは避けられません。そこに固執するのではなく、どこまでをAIに任せ、浮いた時間を何に使うのかを徹底的に考え抜く。それこそが今求められる、AI時代の仕事との向き合い方なのではないでしょうか。

技術の進歩は止められませんし、それを嘆いているだけでは前に進むことができません。むしろどのように使い倒すかを考え、AIにできない領域を見つけ、そこに自分がシフトしていくか。それを徹底的に追及していく姿勢が、今のビジネスパーソンに求められています。