本連載の第175回では「DAO(分散型自律組織)に学ぶモチベーションの上げ方とは」という話をお伝えしました。今回も引き続きDAOに焦点を当てて、DAOでの仕事のスピードが圧倒的に速い理由をご説明します。

DAOとは、ブロックチェーンをベースとしたweb3界隈で流行っている「分散型自律組織」という全く新しい組織形態です。英語の"Decentralized Autonomous Organization"の頭文字を繋いでDAO(ダオ)と呼ばれています。

実は筆者自身、国内最大級のDAOで働いていますが、DAOでは様々な物事が株式会社より圧倒的に速く動くのを目の当たりにしています。あくまでも私個人の感覚的なものですが、一般的な大企業の10倍以上のスピードで動いているようなイメージです。では、なぜそんなスピードで動けるのか、その理由を3つご説明します。

1. 意思決定に時間をかけない

株式会社では、新事業の立ち上げや新商品の開発などの大きな投資が必要になるようなインパクトの大きな意思決定以外でも、何かと上層部の決裁が必要なことが多々あります。しかも大企業であれば、課長→部長→本部長→担当役員などの重層的な決裁階層になっていて、場合によっては数日或いは何週間もかかってしまうということが珍しくありません。

それに対して、DAOでは日々の意思決定の際に社内稟議をかけるというようなルールがないため、何か新しいことを始めようとしたり、或取り組みの内容を変更したりする時などは上層部に掛け合おうとする必要はなく、自分たちで決めることができます。そのため通常の意思決定であれば数日どころかその場で決めて、その意思決定に基づいて即座にメンバーが動き出します。

とはいえ、いくらDAOだからといってもプロジェクトの命運がかかった重要な意思決定さえもメンバーが好き勝手に行っていいというわけではありません。その際には意思決定に必要なガバナンストークン(投票券)というものを発行し、そのトークンを持っている人が保有数に応じた票数を投票するという仕組みがあります。トークンの発行や投票の際には物理的な会場の手配などは不要なので、いずれにせよ時間はかかりません。

2. 確認に時間をかけない

物事を進める際に、株式会社であれば「この点については別の部署が担当しているから、確認しよう」といって確認が取れてから次に進むということは一般的です。それは裏を返せば「確認が取れるまで身動きが取れない」ことを意味します。場合によっては先方から「部内で確認して折り返し連絡します」と連絡が入って、そのまま暫く放置されるということもあるでしょう。そうこうしている間に数日間、ロスしてしてしまうという話をよく聞きます。

翻ってDAOではどうでしょう。参加する人数が多く、規模が大きいDAOであれば株式会社と同じように複数のチームがあることが多いため、やはり他のチームに確認をすることはあります。しかし、確認先のチームからの返答が暫く来ない場合に、いつまでも待ち続けて動かないということはありません。返答を促すことは当然しますが、暫く経って返答がない場合には、確認結果の連絡が来なくても先に進めてしまいます。そのくらいのスピード感を持って動いているのです。その場合、返答を待てずに動いたチームが「勝手に何をやっているんだ」と責められたという話は聞いたことがありません。むしろ、返答が遅れたチームの方が「あのチームは動きが遅すぎる」と見られてもおかしくはありません。

3. ミス発生時に責任追及に時間をかけない

株式会社であれば、何かミスや問題が起きた際には「誰がやらかしたんだ」、「どこの部署の担当だ」、「責任者は誰だ」といった具合に、その原因を作った人や上司、或いは部署を責めることがよくあります。いわゆる「犯人捜し」をしている間に時間を浪費してしまうということです。そうこうしている間に、最初は小さな問題だったものが時間の経過と共に深刻化したり、他のところに波及してしまったりして事態の収拾が難しくなってしまいます。

一方、多くのDAOではミスや問題の発生時に「犯人捜し」に時間を費やすことはしません。そんなことに時間と労力をかけるくらいなら、その時間と労力を改善に費やそうという文化なのです。何しろDAOの背景にあるweb3はまだ誰も経験したことがなく、日々新しい情報が洪水のように押し寄せている世界です。

環境がめまぐるしく変化する世界においては、何が正解かは誰も知らないので皆が手探りで挑戦しています。だから、ミスを恐れて動かない人よりリスクを取って動く人の方が尊敬されるのです。このように、ミスが発生したらすぐに改善して前進するため、何をするのにも高速で動けるのです。

以上、DAOのスピードが株式会社と比べて圧倒的に速い理由を3つお伝えしました。ご自身の職場の参考になれば幸いです。