本連載の第174回では「DAO(分散型自律組織)」での新しい働き方とは」という話をお伝えしました。今回も引き続きDAOに焦点を当てて、そこの多くのメンバーが金銭的な報酬がなくても高いモチベーションを維持できている謎についてご説明します。

DAOとは、ブロックチェーンをベースとしたweb3界隈で流行っている「自律分散型組織」という全く新しい組織形態です。英語の"Decentralized Autonomous Organization"の頭文字を繋いでDAO(ダオ)と呼ばれています。

筆者自身も日本最大級のDAOに所属していますが、そこでは世の中の常識を覆すような要素が沢山あります。本稿ではその中でも、モチベーションに焦点を当てて紹介します。

モチベーションが異常に高いDAOの組織運営とは

一般的にDAOでは、DAOを構成するメンバーと組織の間で株式会社や社団法人に見られるような雇用契約を結んでいません。そもそも株式会社であれば「株主」や「代表取締役」といった組織の所有権や代表権を持った人がいますが、DAOにはいません。厳密には最初にDAOを立ち上げた中心的な人がいることの方が多いですが、だからといってそのような人達が中央集権的な振る舞いをすることはありません。

それはつまり、一般的な組織にあるような指揮命令系統が存在しないことを意味します。常識的に考えれば、そのような組織ではそもそも誰も動かなくなってしまうか、皆が好き勝手に動くことで収集がつかなくなるかのどちらかでしょう。しかし、しっかりしたDAOではそのような事態には陥りませんし、それどころか皆が同じ目的の達成に向かいながら高いモチベーションを持って取り組みに参加しています。

ではDAOを構成するメンバーにとってのモチベーションの源泉はどこにあるのでしょうか。そもそも雇用契約がなくて、金銭的な報酬が約束されているわけでもないのにメンバーはなぜDAOで働いているのでしょうか。それは人によって異なるものの、実際にDAOの中に入って観察している中で以下の3つがあることに気が付きました。キーワードは「仲間づくり」、「成長」、「自己実現」です。

1. 仲間を作る

そもそもDAOは、同じ目的や共通の価値観を共有する人達が自然発生的に集まって働いている場です。さらには、「働いている」という感覚すらないことも多いように感じます。DAOに集まってくる人たちは、自分と根底にある価値観が似通った人同士で仲間づくりを楽しんでいる方が多いように見受けられます。そして、仲間を作るために大事なことは「人から何かをもらうより、人に何かを提供すること」です。いわゆる「Taker」より「Giver」になることが、仲間にしてもらいやすいのは言うまでもないでしょう。

そうすると、仲間としての絆を得るために自分から何かできることはないかを探し、自分から率先して価値のある仕事を見つけて活動するようになります。つまり、誰からも指示を受けていないのに自律的に働き始めるのです。このようにして、「仲間づくり」がDAOで働く一つのモチベーションの源泉になっていると考えられます。

2. 成長する

そもそもDAOという概念自体がこれまで世の中になかった新しいものである以上、DAOで掲げている目的や目標、活動内容の多くは「自分がこれまでに経験したことのないこと」である可能性が高いです。

さらに、web3のように多くのDAOを取り巻く環境は目まぐるしく変化し続けているので月単位、或いは日単位でそれまでの常識が覆ることが珍しくありません。そのため常に最新の情報を収集し、新しいスキルを身に獲得しながら走り続けなければ変化についていけず、すぐにふるい落とされてしまいます。

このような環境を過酷と捉える人もいるでしょうが、DAOに参画している人の多くは失敗を恐れずに、このような変化に果敢に挑戦する中で自己の成長を遂げようという気概を持っています。一般的な社会の何倍も早く変化していく中では、必死についていこうとするだけでも間違いなく成長できます。それをモチベーションの源泉としてDAOで働こうとする人も少なくありません。

3. 自己実現する

これは、先ほど説明した「自分が成長するため」という話と似たところはあるものの、全くの同義ではなく成長の先にあるものです。自己実現とは「自分に偽りなく好きなことをしていて、かつ、それが社会貢献になっているような状態」ということ、つまり「自分のやりたいこと=社会貢献」という状態を指します。

たとえば、DAOでの仕事を通じて「GAFAなど一部の超巨大企業から個人情報を取り戻して、人々が自分で管理できる社会にしたい」とか、「新しい技術を使って地域活性化に貢献したい」などといった志を持って働いているというケースがあります。

このような人たちも、そもそも達成したいことを胸に秘めているので金銭的な報酬がなくても高いモチベーションを持って働くのです。単にDAOに所属しているだけでなく積極的に働いている人の中には、特にこのタイプの人の割合が高い印象があります。

以上、金銭的な報酬がなくてもDAOのメンバーが高いモチベーションを持って働き続ける理由について考察しました。ご自身の所属組織での何らかのヒントになれば幸いです。