本連載の第164回では「移りゆく課題にどう対応するか」という話をお伝えしました。今回は課題の変化に対応するための障害となる、部下の受け身の姿勢の原因と対策についてお話します。

-上司から言われたことは忠実にやってくれるが、それ以上のことは一切やらない部下-

このような部下の存在は多くの組織で悩みの種になっています。もちろん言われたことすらやらない部下よりはマシですが、自分から能動的に動いてくれない部下に対して苛立ちを覚える人は少なくないでしょう。

では、このような部下に対して現場ではどのように対応していますでしょうか。「もっと主体性を持って動いてください」とか「自分の頭で考えて行動するように」というような言葉を投げかけているのではないでしょうか。

もちろん、このように話すだけでも部下が改心してすぐに能動的になればよいのですが、なかなかそうは簡単にいかないことが多いでしょう。そもそも、そんな簡単に解決するなら悩むこともありません。

そもそもなぜ社員が受け身になってしまうのでしょうか。キーワードは「権限の委譲不足」、「協力体制の不備」、「失敗への不寛容」の3つです。

1. 権限移譲が不十分で受け身になる

最初の原因は権限委譲不足です。これは厳格な上意下達の組織でよく見かけます。このような組織で、仮に上司から「自分で考えて行動しろ」と部下に伝えたところで、部下としてはそれを真に受けて本当に自分で考えて動くことは難しいでしょう。自分で考えて動いてところで、結局は上司から「勝手なことをするな」と言われるのではないか、と内心は疑心暗鬼になっているからです。このように、形だけ取り繕っても本質が変わらなければ状況が好転することはありません。

本当に部下に能動的に動いてほしいのであれば、上司は自分が持っている権限の一部を手放して部下に渡さなければなりません。それもきちんと部下に説明した上で、「この領域についてはあなたに一任します」と明示的に伝えることが必要です。そして部下の行動を細かく管理するのをやめて、最低限の報告を受けることに徹するようにしましょう。

2. 協力体制の不備で受け身になる

権限移譲が済んでも、それだけではまだ十分ではありません。主体性を持って物事に挑戦するには、それをサポートするための協力体制が欠かせません。協力体制が整っていない環境において自ら進んで新しいことに挑戦しようとしても、自分ひとりだけ負荷が増えるのが目に見えている状況では、誰もやりたがらないのが普通でしょう。

そのため、自分から新しいことに挑戦しようと言い出す人がいたら上司が率先してバックアップすると予め公言しておくことが重要です。まずは上司が間違いなくバックアップすることを伝えて部下の心理的負担を軽減しておくのです。もちろん、実際に部下が挑戦したいと話したときには言葉通りにバックアップすることが欠かせないのは言うまでもありません。

さらに、その挑戦を組織全体としても協力する体制を整えるのも重要です。部下が新しい挑戦をしている間は、部下の通常業務の一部を組織全体で少しずつカバーして負担を軽減してあげるなどの取り計らいをするのもよいでしょう。

このように、挑戦することによって過度な負担が生まれないような体制を作り、部下の挑戦を後押ししましょう。

3. 失敗への不寛容で受け身になる

3つ目にして何より大事なことは、失敗に対して寛容になることです。自ら率先的に動くというのは、失敗するリスクを背負うことに繋がります。「自分の判断で動いて挑戦しろ、でも絶対に失敗するな」というのは矛盾しているといっても過言ではないでしょう。部下の立場としては、失敗が許されない組織にいるならリスク回避の行動に徹するのが最も合理的な判断になります。それはつまり、受け身の姿勢ということです。

部下に能動的、主体的に動いてほしいのであれば、上司が率先して失敗を許容する姿勢を見せなければなりません。そして部下がリスクを取って動いた結果、もし失敗しても自分がフォローするので安心してほしいと伝えて、その通りに行動し続けましょう。それはやがて文化になり、組織全体に浸透していくことでしょう。

ここまでで、部下が受け身になってしまう原因と対策を3つお伝えしました。これらは魔法のように一瞬で効果を生むようなものではなく、上司の日々の振る舞いの蓄積がじわじわと効果を発揮する類のものです。まずは上司自らが勇気をもって部下に権限を委譲し、挑戦を後押しする協力体制を作り、そして失敗を許容する文化を醸成しましょう。