本連載の第149回では「4月が業務改善に取り組むのに絶好のタイミングである理由とは」と題し、この春の社員の入社や異動などの変化をきっかけに業務を見直してはどうでしょうか、とお伝えしました。今回は節目の150回ということで「定時」をテーマにお話します。

「今日は早いね。用事があるのかな?」

珍しく定時で帰ろうとする部下に上司がこのように言葉をかけている光景を見たことはありませんか。この発言に違和感を覚えなかったとしたら、慢性的な残業に慣れて感覚が麻痺しているのかもしれません。

そもそも定時とは何でしょうか。定時とは就業規則に書かれた就業時間のことです。一般的には8時~17時や9時~18時としているところが多いようです。昼休みの1時間を除くと労働時間は1日あたり8時間になりますが、これは労働基準法第32条で「使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。」と規定されていることに準じます。

つまり、1日あたり8時間を超えて労働させるのは本来、違法ということになります。まずはこのことを認識しましょう。その上で残業について考えてみます。

8時間を超過して労働させるのが違法ならば、社員に残業させている会社は漏れなく法令違反を犯しているのかという疑問が生まれますが、そうとは言い切れません。なぜなら、労使間で協定を締結して所轄の労働基準監督署に届け出れば、法定労働時間を超えて労働させることが可能になるからです。この協定のことを36協定と言います。

この36協定を会社と労働者の代表の間で締結しておらず、労働基準監督署に届け出がされていないのに従業員に残業をさせていたら法令違反になります。また、たとえ36協定があったとしても残業は月45時間・年間360時間という上限があるので、それを超えて残業させたら、やはり違法になってしまいます。※特別条項付き36協定を結んでいればこの限りではありません。

ここまで労働基準法をベースに定時と残業について見てきたことを簡潔にまとめると次のように解釈できます。

「本来は8時間を超えて従業員に労働させるのは違法。但し36協定によって特別に合法にしている」

以上のことを理解していれば、定時で帰ろうとする部下に対して上司から「今日は早いね」という冒頭のような発言が出ることは不適切と感じるのではないでしょうか。それどころか、なかなか定時で帰れない状況が慢性化している状況が異常だと認識できるはずです。

このようなお話をすると「そうは言っても現実問題として、定時では仕事が終わらないから残業は仕方ない」と反発する人がいます。

恐らく残業が慢性化している職場では多くの人が定時で帰れない状況に慣れてしまって、そのことを問題として捉えることができないのではないでしょうか。そして問題として認識しない限り状況を変えることはできません。

そこで、まずは職場で「なぜ私たちは定時で帰れないのか」という問題提起をしてはいかがでしょうか。恐らくは「仕事がこんなに多いのに定時で帰れるはずがない」とか「人が足りないからしょうがない」といった反応が返ってくるのではないでしょうか。

そこでもう一歩踏み込み、「では残業を含めた時間の使い方を可視化してみませんか」と提案してみましょう。というのも多くの職場において、自分たちが何にどれだけの時間をかけているのかを客観的に説明できる人が少ないからです。その内訳が分からないままでは、いったい何にかけている時間をどれだけ減らせばよいのかを判断することはできません。

そこで、自分たちが何にどれだけの時間を割いているのかを明らかにした上で、それぞれにかけている時間を減らす策を考えます。たとえば会議に関する時間が最も多いということであれば、以下のような問いを検討することで会議関連の時間を減らすことができるのではないでしょうか。

会議効率化策を検討するための問い

  • 問い1. そもそもその会議をやめると誰か困るのか。→誰も困らないなら廃止する。
  • 問い2. その会議の頻度を減らすと影響はあるか。→なければ開催頻度を減らす。
  • 問い3. その会議の出席者を減らすと問題があるか。→なければ人数を減らす。
  • 問い4. その会議の時間を短縮すると問題があるか。→なければ短縮する。
  • 問い5. その会議で使用する資料を簡素化できないか。→できれば簡素化する。

こうした問いかけを基に会議に費やしている時間を減らすことは可能です。これと同じように、多くの時間がかかっている他の仕事についても問いを投げかけることで改善の方向性が見えてくることがあります。

また、最も大事なことは職場に蔓延する「仕事を終えるために残業することが偉い」という価値観を「定時までに仕事を終えることが偉い」へと転換することです。そのために、部署を率いるリーダーは自ら率先して行動に移すとともに、それを奨励することが求められます。

「定時に帰る」という本来はごく当たり前のことを当たり前のように実践できる職場にするためのきっかけとして、まずは定時について同僚と考えてみていただけたら嬉しく思います。