本連載の第112回では「仕事に費やすエネルギーの配分を考えよう」と題し、集中して行うべき仕事を見極めて、そこにエネルギーを集中させましょうというお話をしました。今回はエネルギーを集中させるべき仕事を見極めるための方法についてお伝えします。

勤務時間中ずっと集中力を維持して働けているという人はどれだけいるでしょうか。もしそれを実現できたとしても、きっと仕事終わりにはぐったりしてしまうでしょう。

オリンピックの陸上男子100m走の決勝では、選手は平均時速36kmくらいで走りますが、そのスピードで400m走や10,000m走などの長距離を走り続けられるかというと、どう考えても無理でしょう。ベースとしては速度をもっと抑えつつ、「ここぞ」というタイミングではスピードを一気に上げて走ることが求められるのではないでしょうか。

これは仕事でも同様です。常に全力疾走を続けるのではオーバーペースになってしまいますし、それで過度に疲れが残ってしまうようでは「ここぞ」という時に全力を出し切ることが難しくなってしまいます。そのため、仕事の中で力を傾けるべきポイントを見極めることと、そこにエネルギーを注いで後は省エネで対応することが重要と考えます。

それでは、エネルギーを注ぐべきポイントはどうやって見極めればよいのでしょうか。それには3つの視点から仕事を分析するのが効果的です。

価値の視点

自分が抱えている仕事を棚卸しして、各々の仕事について「その仕事の価値は何か」を考えてみましょう。なお、本稿では価値について「仕事の依頼者(顧客を含む)が求めるニーズを満たすこと」とします。

では、会議資料作成という仕事を例に見てみましょう。上司から「会議用の資料を作ってください」と依頼を受けた際、単に作業として捉えれば言われたとおりに作るというだけですが、資料を作成すること自体は価値ではありません。

資料作成を依頼する際、上司は頭の中で次のようなことを考えていたりします。

「営業現場では人手不足により残業が慢性化している。この事態を打破するために、まずは業務プロセスをゼロベースで見直すプロジェクト立ち上げの承認を獲得したい。そこで、プロジェクトの説明会に出席する役員を納得させるためにプレゼンを補足する資料が必要だ。」

これを踏まえると、単に資料を作ればよいというのではなく「資料を通じて、役員を納得させられるようにプレゼンを効果的に捕捉する」といった価値の提供が求められます。

特に時間の面でも労力の面でも負荷の高い仕事について、どのような価値があるかを問い直してみましょう。もし、大した価値が見いだせない仕事があれば優先順位を下げて、より重要な価値を生む仕事に注力します。

効率の視点

その仕事自体には価値があったとしても、費やす時間と労力の割には創出する価値が少ない場合には、その仕事にかける負荷を減らすべきでしょう。

ここで、営業担当者が日々の営業活動の内容を記述する「日報作成」という仕事を例に考えてみましょう。日報には、そこに記載された情報を基に上司や営業推進部などが営業活動を効果的・効率的なものに改善するためのアドバイスをしたり、営業施策が着実に実行に移されているかどうかを管理したりする役割があります。

そのため、日報作成には価値があるとみなせます。しかし、その作成に毎日30分あるいは1時間など、多くの時間がかかっているようでは効率が悪すぎます。日報作成自体にかける時間は最低限で済むように工夫して、浮いた時間で顧客との折衝や提案内容の作成などのより価値の高い仕事に注力すべきでしょう。

能力の視点

上記の2つを経て、それでもまだ注力すべき仕事を十分に絞り込めていないと感じる場合には、さらに1つの問いについて考えてみてください。それは「自分の強みを活かせるのはどの仕事か」というものです。そして、できれば自分の強みを活かせない仕事にかける負荷を最小限にとどめて、その分の時間や労力を強みが活かせる仕事に振り分けるのです。

具体例として、プレゼンや交渉ごとなどは苦手だけれど集計や分析などの作業が得意なケースで考えてみます。もし可能であれば会議ではプレゼンターにならずに発表内容を補足する定量的なデータを見せるグラフの作成に注力したり、交渉ごとでも相手の期待するニーズや抱えている課題の分析などを任せてもらったりするように上司に掛け合ってみましょう。

もちろん、苦手なことを克服したいというのであれば異論はありませんが、自分は自分の得意な分野に注力し、苦手な分野についてはそれを得意とする人に任せるというのが、個人としても組織全体としても最もパフォーマンスが上がるはずです。

以上見てきたように「価値」「効率」「能力」の3つの視点で自分が注力すべき仕事を特定し、そこに集中的に取り組むことで余分なエネルギーの消耗を防ぎつつ、最高のパフォーマンスを発揮できるでしょう。ぜひご自身の仕事でも試してみてください。