いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、中野の洋食屋さん「ローズガーデン」をご紹介。
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中野駅前で57年「ローズガーデン」(中野)
変わらぬ中野の"昭和グルメ"の名店
その日、モヤモヤとした気持ちを引きずりながら、中野北口の商店街、田舎そば「かさい」の裏手あたりをうろうろしていたのでした。なぜモヤモヤしていたかって、すごく大切な店のことを忘れている気がしたから。
「中野の"昭和グルメ"といえばここ!」というくらい重要な場所が、スポッと記憶から抜け落ちている気がしてならなかったのです。しかも、おなかが空いていたので、思考能力がどんどん落ちていく気すらします(気のせいだな)。
で、「どこのことだったっけなー」と思いながら、フジヤカメラ本店につながる路地を入ったところ、いきなり探していた店が表れ、モヤモヤを一気に解消できたのでした。
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レンガ造りのレトロな外観
それが、レンガ造りの外観も印象的な「ローズガーデン」。
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ストレートでわかりやすい
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この日のランチは生姜焼
考えてみると、最後にお邪魔してから5年は経っている気がします。でも、雰囲気はまったく変わっていませんね。
いや、変わりようがないというべきか。いやいや、そうじゃない。ここは、変わってはいけない店なのです、おそらく。
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時が止まったかのような雰囲気
少し煤けた白い壁に焦げ茶色の柱、そしてレトロな椅子やテーブルと、茶色がベースカラーになった木目調の店内も昔のまま。1970年代によくあった喫茶店のイメージです。しかし、ここは洋食屋さん。現代風のおしゃれな店とは対極にあるような、昔ながらの“洋食”が食べられるお店なのです。
だからこそ、やっぱりハンバーグを頼みたくなってしまいますなぁ。なんとなく、この連載ってハンバーグ比率が高い気もするんだけど、そんなことは気にせず、いかにも昭和な「ハンバーグ」をいただくことにしましょう。
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バラエティ豊かなメニュー
伺ったのは、ランチタイムが終わろうとしている13時ごろ。それでも店内にはいくつかのグループ客がおり、反対側にはひとりのお客さんも何人か。ひとりが出ていくと、ほどなくまた別のひとりが入ってくるという感じで、お客さんの流れが途切れません。
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マスターも忙しそう
そんなところからも、このお店がいかに信頼されているかがわかります。ちなみに帰るお客さんに対して、店のお姉さんが「いってらっしゃい」とさりげなく声をかけているのも好印象です。
まさしく、絵に描いたような街の人気店ですね。
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いかにも正統派のハンバーグ
さてさて、ほどなく登場したハンバーグも、数年前にいただいたときとまったく同じルックス。厚みがあり、ソースを絡めて煮込まれているように見えるハンバーグ、イマドキの半熟とは対照的に、しっかり焼かれた目玉焼き、そしてサラダと、まさに正統的な「洋食屋さんのハンバーグ」です。
当然ながら、肉がたっぷりでジューシー。濃い目のソースの味もよく、ライスがどんどん進んでしまいます。
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ひき肉がぎっしり
ひとことで表現するなら、とても懐かしい味。数年前と同じどころか、何十年もこの味を貫いているのであろうということがはっきりとわかります。
なんだか知らないけど、なかなかうまくいかなかった中学生時代の恋愛とか思い出しちゃうなー。なんだよ、そういうことを連想させる味って?
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シンプルなスープもおいしい
などと思いながらいた鼓を打っていたところ、大好きなアンディ・ギブの“(Love is)Thicker Than Water”が流れはじめたりしたので、これまた中学生時代の気持ちに逆戻り。泣かす気かよ。
そう、おそらく有線放送だと思うのですが、この店のBGMは1960〜70年代の洋楽なんですよ。そういえば1970年のヒット曲にリン・アンダーソンの"Rose Garden"がありますが、もしかして店名の由来もそこにあるのかな?
帰り際にマスターと少しお話ししたのですが、なんでも今年で57年目なのだとか。ってことは1964年創業か。だとすると、リン・アンダーソンの曲よりも歴史が古いわけですね。
さて、ここでこの文章を終えようと思っていたのですが、最後の最後にどんでん返しが。実は伺ったのは少し前の2月上旬だったのですけれど、最近になって「3月末で閉店」という情報が飛び込んできたのです。
こんなことになるとは思ってもいなかったな。閉店前に伺えたのはラッキーでしたが、しかし寂しさは拭えません。
でも、4月からは娘さん夫婦が中華料理店を開業するそうなので、気持ちを切り替え、そちらに期待しましょう。
●ローズガーデン
住所：東京都中野区中野5-62-9
営業時間：9:00～23:00
定休日：日曜
