水谷:では、「高額療養費制度」というものはご存じですか?

鈴木:高額療養費制度? なんですかそれ。初めて見ましたよそんな文字の並び。

水谷:医療費が高額になって一定の額を超えた場合、健康保険で高額療養費を申請すると、お金を補助してもらえるという制度があるんですよ。

鈴木:え、お金が戻ってくるんですか。ちょっと詳しく聞かせてください。

「高額療養費」とは、1カ月にかかった医療費の自己負担分が一定額以上になった場合に、その超えた分が還付される制度。公的医療保険が適用される医療費が対象となる。差額ベッド代やインプラント費用などの保険外負担分、入院時の食事負担額などは対象外となるので要注意。

また、出産に関しては、治療となるような医療行為が発生しない自然分娩の場合は保険が適用されないため、高額療養費の制度の対象にもならない。しかし、帝王切開や吸引分娩、鉗子分娩などの異常分娩に分類される出産にかかった医療費は、高額療養費の対象になる。

高額療養費は、勤務先での健康保険組合や市区町村の国民健康保険といった公的医療保険に支給申請書を提出することで受け取れる。

自己負担の限度額は、年齢や所得の状況によって異なる。社会保険などに加入している人は「標準報酬月額」、国民健康保険に加入している方は「年間所得」によって区分される。年齢に関しては「70歳」がひとつの境界線となっているが、今回は70歳未満のケースを紹介する(下図参照)。

  • 高額療養費制度における自己負担限度額の計算方法

各区分について上限額の算式が設けられており、それを超える部分の負担額が後日支給される仕組みとなっている。

例えば、「70歳未満、標準報酬月額28万~50万円、1カ月に100万円の医療費がかかった」というケースで考えてみると、

・窓口負担(3割):30万円
・自己負担の上限額:80,100円 + (100万円-267,000円) × 1% = 87,430円
・高額療養費として支給:30万円-87,430円 = 212,570円

となり、21万2,570円が高額療養費として支給され、実際の自己負担は8万7,430円ということになる。

鈴木:なんなんですかその聞かなきゃ教えてくれないシステム。RPGみたいな。

水谷:そうなんです。税金は何も言わなくても引かれるのに、もらえる手当はこちらから申請しないとダメなんですよね。

鈴木:いやー、業が深いですねぇ。

水谷:ちなみに、医療費の負担を軽くしてくれる公的な制度には、「高額療養費」のほかに「医療費控除」というものもあるんです。医療費の一部が戻ってくるという点はどちらも共通しているんですが、高額療養費は健康保険の制度で、医療費控除は所得税の制度なので、この2つはまったく別物なんです。

鈴木:ちょっと完全には理解しきれていませんが、とりあえず他にもお得な制度があるってことですか。

水谷:そうですね。先ほどの高額療養費では対象にならなかった普通分娩費はもちろん、定期検診費、入院費等も対象です。そのほか、例えば何かしらの治療を受けるために病院へ行くとしましょう。そのときにタクシーを使わざるを得なかったというケースもありますよね。確定申告で医療費控除を申告すれば、そのタクシー代も対象になるんです。

鈴木:タクシー代も。すげぇっすね。

水谷:申告時には明細書を作成する必要があるので、タクシーに限らず基本的に領収書等は保管しておいたほうがいいですよ。ドラッグストアで市販している薬とかでも、一部その対象になっている商品がありますからね。

鈴木:いやーやっぱり隠されてますねぇ。

水谷:医療費控除は、1年間(1月1日~12月31日)に自己負担した医療費の合計が一定金額を上回った場合に、確定申告で所得税が軽減されるという制度です。支払った医療費が10万円を超えた分(所得が200万円未満の場合は総所得額の5%)が対象になります。

鈴木:10万円ですか、なかなかの額ですね。

水谷:そこで、「セルフメディケーション税制」という制度も用意されているんです。こっちはそのラインが1万2,000円になるんですよ。

鈴木:だいぶ下がりますね!

「セルフメディケーション税制」は、「医療費控除」の特例にあたるもの。特定の市販薬を購入した金額が1年間で1万2,000円を超えた場合、その一部において所得控除が適用されるという制度である。

控除を受ける条件は以下の通り。

セルフメディケーション税制の適用を受けられる条件

1. 所得税、住民税を納めている。

2. 健康の維持増進、病気の予防への取り組みとして、申告対象となる1年間で下記のいずれかを受けている。
・特定健康診査(メタボ健診)
・予防接種
・定期健康診断(会社等で行う事業主健診)
・健康診査
・がん検診

3. セルフメディケーション税制の対象となる特定成分を含んだOTC医薬品を1万2,000円以上購入している。

OTC医薬品とは、薬局やドラッグストアで販売されている医薬品の総称である。対象となる商品には、パッケージに目印となるマークが記載されている。

  • セルフメディケーション税制 共通識別マーク

水谷:医療費控除とセルフメディケーション税制はどちらか一方しか申請できないので、保管しておいた領収書をもとに、どちらで申請したほうがいいかを毎年見極めてみてください。

鈴木:こんな二択が存在してたなんて……。

水谷:申請する人と扶養している家族、それぞれの購入費用を合算することもできますので、奥様とお子様の分も領収書は保管しておいてくださいね。

鈴木:お得ですね。3連単フォーメーションみたい。