駿台予備学校の講師時代に季節講習会の化学受講数で業界日本一を達成した、元No.1カリスマ予備校講師・犬塚壮志氏。累計3万5,000部のベストセラー『東大院生が開発! 頭のいい説明は型で決まる』(PHP研究所)の著者としても知られ、同著は「ビジネス書グランプリ2019」自己啓発部門の第5位にもランクインしている。本稿では、「若いビジネスパーソンがファンを作るための話し方」とはどういうものなのかを犬塚氏に伺っていく。

  • 左から、徳本昌大氏、犬塚壮志氏、日比谷尚武氏

聞き手は、マイナビニュース別稿で"人脈"についての対談を行った、ビジネスプロデューサー・書評ブロガーの徳本昌大氏、IT企業 Sansanで"コネクタ"の肩書きを持つ日比谷尚武氏の2名。人との付き合い方を考え続ける3氏の対談から、人脈構築術について考えてみたい。

  • 元No.1カリスマ予備校講師であり、ベストセラーの著者としても知られる犬塚壮志氏

話し下手から人気講師へ

著書の執筆やセミナーでの講演のほか、株式会社ワークショップでは大学受験予備校の運営を、株式会社士教育ではビジネスセミナーや企業研修のプロデュースを行うなど、マルチな活躍を見せる犬塚氏。

同氏は駿台予備学校で10年間講師として働き、授業はもちろんのこと、テキスト作成や講座開発などの教育コンテンツ作りにも携わったという。このノウハウが、大学受験予備校や企業研修、著書やセミナーなどに活かされている。

現在はさまざまな人を前に講演を行っている犬塚氏だが、実は子供のころは赤面症で話し下手、人前で喋ることがコンプレックスだったそう。それでも講師という道を選んだのは、化学という学問のすばらしさをどうにかして多くの人に伝えたいという思いがあったからだ。

講師は、春1カ月間・夏2カ月間・冬3カ月間の計6カ月間における季節講習会の売り上げで、評価が大きく分かれてしまう。これらは通常の講習とは別料金で、言ってみれば講師にお金を払う仕組み。一般的な講師ならば数百万円、売れている先生ならば1~2千万円を売り上げるという。

しかし犬塚氏は初年度、80万円程度しか売り上げられなかった。予備校講師は基本的に1年契約であり、このままではクビになってしまう。

そこで同氏は、大好きな化学の仕事を続けるため、受験生に自分のファンになってもらおうと考えた。これが意識的なファンづくりを始めたきっかけだ。だが、コンテンツに自信を持っていたにもかかわらず3年間はまったく成果が出ず、講師を辞めようかと何度も考えたという。

「私は、お笑い芸人のDVDなどを買って研究するという、間違った努力をしていたのです。自分にフォーカスし、人前でどう見られるかを気にしてしまっていました。相手の能力を成長させて自己実現を促すというスタイルがベースにあることを、完全に見落としていましたね」

行き詰まっていた犬塚氏を救ったのは、友人の紹介で知り合い、のちに同氏のメンターとなった成川博康氏。河合塾で英語を教え、映像講義を含めると1週間で7万人以上の生徒に教えている日本No.1のカリスマ講師だ。

犬塚氏は成川氏から「教育コンテンツを正しく真っ当に伝えること、そのうえでエンタメがある」「覇道から入るな、王道から入れ」といったアドバイスをもらい、どういう手順ならば人は理解しやすいのか、そのためにどういうトレーニングが必要なのかをイチから勉強。

そして“受験生の悩みとはなんだろう”というところからアプローチし直し、無記名アンケートなどで受験生の本音を拾い上げることで、5年目にしてブレイクスルーを実現した。

「化学はすばらしいものですが、受験生の直近の目的は成績を上げて大学生になることです。自分の体験を思い出してみると、受験勉強はそもそもそんなに楽しくなかったんですよ。『浪人はもう嫌だ、できれば早く問題を解けるようになりたい』、受験生はこう考えているのです。遠い夢の実現よりも目先のつらさを回復させてあげるほうが大事だと気付きました」

「そして、“共感”について考えることで、自分がどう思われるかよりも受験生のことだけに意識が向くようになり、話し下手も克服できました。受験生が“できるようになる”。この当たり前のようなことを優先させれば、『君たちの悩みはわかるよ』と言わなくても共感は得られるのです」

  • 成川氏との出会いによって犬塚氏はブレイクスルーを果たす

犬塚氏の自己紹介のフレームワークとは

犬塚氏は、自身が行っている自己紹介のフレームワークとして、「GCSFC法」を紹介してくれた。Gはgreeting、あいさつ。Cはcurrent job、現在どんな仕事をしているのか。Sがstory、どういう経緯でその仕事に就いたのか。Fがfuture vision、将来像を話すこと。最後のCはcontribution、貢献。つまり「相手のお役に立てること」だ。

「自己紹介の目的は相手とつながることです。例えばstoryのところから言うと、私は最初の授業で『僕は偏差値が30くらいの化学もできない人間で、受験に失敗して浪人もした。でもそこから偏差値を上げ、現在はこの仕事をしている』という話をします。これによって受験生に『同じ経験をした人なんだな』と共感をもってもらうわけです。そしてfuture visionとして『君たち全員に合格してもらうことが目標』という話をして、contributionとして『君たち全員の学力を上げることができる』と、自分ができる貢献をそれまでの実績やエビデンス含めて提示します」

どんなベテランの講師でも、一番力を入れる講義はなにかと聞くと、必ず「その年度の初回講義」と答えるという。講師は多い時で200人もの相手とやり取りする職業。初回で相手としっかりつながり、信頼関係を構築することが非常に大切になるのだ。しかし、どんなビジネスでも基本は同じだろう。

「繋がりというとふわっと自分視点で考えてしまいがちですが、相手をベースとして考えることが大切です。ですから、相手によってGCSFCもそれぞれ変えなくてはいけません。例えば、story部分において受験生には偏差値の話をしますが、今回の対談では、あえて冒頭で説明下手だった過去の経験を話したのです。そのうえで自分がやりたいことと、目の前の相手に対する貢献の気持ちを素直に語ればいいと私は思います」

  • 自己紹介のフレームワークとしてGCSFC法を用いているという犬塚氏

振り返ると、現在の犬塚氏を形作ったのは成川氏との出会いだと言える。とはいえ、成川氏もくすぶっていた時はあったようだ。犬塚氏は、成功者が成功していなかったときを自分に置き換えて考えるようにするといいと勧める。成果をあげている人には必ず理由がある。アウトプットにばかり目を奪われるが、実は大切なのは成功者のインプットを聞くことだという。

「成功者から大切な話を聞くには、自分がどう思われようとも、まず自分のvisionを語ることが必要です。そして、相手のお役に立てることは何かを常に探ること。若い人は「お役に立てることはないですか」と聞くのも躊躇してしまうかもしれませんが、絶対にそんなことはないです。成功者は、役に立ちたいと考えている人に対して、できることを見つけてくれます。それが自分の強みの発見に繋がったりするわけです。一流の人に見てもらわないと強みはなかなか見つからないものです。私は自己分析を当てにしていません。他者視点を取り入れるため、ファンとメンターの意見をたくさん聞くように習慣化しています」

東大院生が開発! 頭のいい説明は型で決まる

500人以上の東大生、2,000人以上の医学部合格者を生んだ元・駿台予備学校カリスマ講師(現・東京大学大学院生)が教える「最強の説明スキル」


犬塚壮志 著
定価:1,500円(税別)
発行年月:2018年4月17日