コンサルティング会社 Ideal Leaders(アイディール・リーダーズ)の丹羽真理氏は、“CHO”(Chief Happiness Officer)として活躍する人物だ。CHOとは、従業員の幸せの追求が仕事の結果につながるという考えのもと、従業員の幸福度をマネジメントする役職。本稿では「楽しいことをやってパフォーマンスを上げる」という働き方と、若いビジネスパーソンの人脈の作り方について丹羽氏に聞いていく。
聞き手は、マイナビニュース別稿で"人脈"についての対談を行った、ビジネスプロデューサー・書評ブロガーの徳本昌大氏、IT企業 Sansanで"コネクタ"の肩書きを持つ日比谷尚武氏の2名。人との付き合い方を考え続ける3氏の対談から、人脈構築術について考えてみたい。
楽しい仕事をするために自分で環境を作る
もともと野村総合研究所でコンサルタントとして活躍してきた丹羽真理氏。同氏は、国際基督教大学を卒業し、イギリスのサセックス大学大学院を経て野村総合研究所に入社した。官公庁でアルバイトをしている最中に見かけた資料に「総研」と書かれていることが多く、日本を動かしているのはこういった企業なのではないか? と考えたことがそのきっかけだったという。
野村総合研究所では、経営者向けのエグゼクティブコーチングや組織改革のコンサルティングを行う新規事業チーム「IDELEA」に参加。「会社の人たちが本当にやりたいことをビジョンとして描く」という、一般的なコンサルティングとはちょっと違うアプローチを行ってきた。具体的には、いろいろな角度から質問を行い、ビジョンを描くプロセスを手伝うという、いわばコーチング的な手法だ。この「IDELEA」のチームリーダーがIdeal Leadersの現代表であり、「IDELEA」に参加したからこそ、CHOとしての今の丹羽氏がある。
「自分のやりたくない仕事は興味がないと素直に言い、鈍感力を働かせてやりたい仕事だけをやってきました。自分でやっていて楽しい仕事をするには自分で環境を作っていかなければなりません。誰かが作ってくれるのを待っていても始まらない。だったら独立してみて損はないと思ったのです」
人間関係の良さは幸せに、幸せは成果につながる
こうしてIdeal Leadersとして独立を果たした丹羽氏は、CHOとしての活動を始める。CHOとは、「従業員の幸福度が高ければ、ビジネスのパフォーマンスも高くなる」という研究結果をもとに、従業員の幸せを追求することで最終的に業績を向上させるための活動を行う役職だ。丹羽氏は「これを実現すれば日本企業のパフォーマンスはもっと上がる」と自信を持って語る。
しかし研究結果をデータで見せても、この事実をなかなか受け入れられない人は多いという。要因は、それまでの仕事観。「仕事はつらいもの、我慢してやるもの、耐えてやるもの」という価値観が根付いてしまっていると、「楽しく仕事をしてパフォーマンスを上げる」という価値観を素直に受け入れられないのだそうだ。
「ポジティブ心理学で研究がたくさんされていて、従業員が幸福になれば仕事の結果も良くなるというデータが出ています。現在、イノベーションが起こらないという問題も出てきていますが、実は社員をハッピーにすればそれは自然と起こるのです」
仕事を1人でするという人はそれほどいない。チームで結果を残したいのであれば、良い行動をしなくてはならず、そのためには良い考えを持たなくてはならない。仕事はいろいろな人と絡んでいて、例えば一緒に働く人と協力しなかったり、競争していたりすると良いアイデアは浮かばず、結果も出ないだろう。逆にメンバーが互いのことを理解していたら良い発想が出やすく、それで良い結果が出るとますます関係も良くなるという好循環が起こる。「人間関係の良さは幸せにもつながり、幸せは成果につながる」というのが、丹羽氏がCHOとして提唱する考え方だ。
「例えば、何かの仕事でプロジェクトチームを作ったとしましょう。その中にはもちろん知らない人もいます。そこで、最初にこのプロジェクトを通じて達成したいゴールについて1人ずつ話していくのです。プロジェクトを通じて“こんなことができるようになったらいいな”という話でも良いでしょう」
また、みんなで協力して料理を作ったりするのも有効だという。これによって「こうすればみんなと協力できる」、「なぜ料理がうまくできたのか」、「もう一回やるとしたらどんなところを変えるか」といった分析が可能になる。さらに、プライベートな話をすることも有効だと丹羽氏は述べる。仕事の文脈だけだと、上下関係の下の人は話しかけることだけでも勇気がいる。だがプライベートの話ならそこにあるのは友人関係であり、上下関係ではなくなる。
「プライベートが分かれば、優しさを持つことができます。不必要な摩擦やストレスを生じさせない。“あの人の仕事が遅れているが、今はお子さんが大変な時だから、仕事にやる気がないわけじゃない”、といった理解ができるようになるのです。とくに若い人は公私をきっちり分けていて、“プライベートな話をすると良くないことが起こる”と思っている方が多いですが、プライベートな話をしたほうがみんなに理解してもらえるのです」
自分が自分のチームのCHOだと思って行動を
それでは、人脈を広げるためにどのようなことを心がけるべきなのだろうか。丹羽氏は自身の行動をもとに、次のように語る。
「人に会った時は関心事を聞くようにしていて、その関心事に対してお役に立てることはないかなと意識しています。そういうことをやっていると、ふと『今日聞いた話を、先日会ったあの人に話したら面白いだろう』と思いついたりするんです。こうして一度会っただけの人とのトランザクションが増えると、そこからまた人脈が広がっていきます」
最後に丹羽氏は、これから新入社員としてビジネスを始める方や、まだ経験の少ないビジネスパーソンに対して、CHOの意義を語ってくれた。
「CHOは役員ですので、若いビジネスパーソンは“自分とは関係ない話だ”と思うかもしれませんし、“会社にCHOを置いてくれ”なんて言えないでしょう。ならば、自分が自分のチームのCHOだと思って行動すれば良いと思います。小さい単位でもそういう人が増えていけば、積み重ねで会社がハッピーになっていくのではないでしょうか」
パーパス・マネジメント 社員の幸せを大切にする経営
企業理念として設定されている概念「ミッション・ビジョン」は、米国ではもう古いとされており、それに代わる概念として、「パーパス(存在意義)」が問われている。本書では、「パーパス」と「幸せ」について新しいコンセプトを提示する。
丹羽真理 著
定価:1,680円(税別)
発行年月:2018年9月1日