さて、今回も立ち食いそば散歩なのであるが、私は仕事の一環として立ち食いそばの魅力を皆様にお届けしているのであって、皆様におかれては、十分にコンディションの整った時、状況が落ち着いた時にそば巡りをして頂きたい。遠方のそば屋にわざわざ足を運ぶのは、不要不急である。気になった店はその時がくるまでブックマークして留めておこう。

  • 「新焼肉セット」(670円)

来週末は友人の結婚式の予定だったのだが、延期になる可能性が高そうだ。そんな悲壮なやり取りを電車内でしつつ向かった先は、成増の「どん亭」である。東武東上線「成増」駅の南口下りてすぐのところで、東京メトロ有楽町線・副都心線「地下鉄成増」駅からも近い。数年前立ち食いそばの同人誌をつくっていた頃、実は一度訪れたことがあったのだが、到着してみると外観に見覚えがない。後日インターネットを叩いてみたところ、どうやら4年ほど前にリニューアルされていたらしい。

名物「焼肉ライス」のセットメニューを注文

中はこぢんまりと、厨房に沿った立ち食いL字カウンターと、壁側に申し訳程度のスツール付きカウンター3席。午前10時頃、客は3人入っていた。券売機が1台。この店の目玉メニューは、そばうどんではなく、成増駅前名物の「焼肉ライス」である。甘辛いタレで味付けされた豚丼だ。ただせっかくなのでそばも、ということで「新焼肉セット」(670円)を注文。

肉の油と濃いタレに白飯がどんどん進む

焼肉ライスは注文が入ってから焼き始める某牛丼チェーンの定食のようなスタイルなので、3分くらい時間がかかる。セットは、フルサイズの焼肉ライスと、ミニサイズのそば(うどんにも変更可能)、それと味噌汁のガッツリ定食である。肉は3枚。豪快に1口で1枚目を頬張る。肉の脂と濃いタレが口の中で踊る。すかさず白飯を2回。「そうそう、こういう飯でいいんだよ」と言いたくなる、シンプルだが誰もが好きな味だ。実はそばもなかなかレベルが高くて、細麺はスルッと口当たり良く、甘めながらもダシの風味もしっかり感じることができるツユは、お吸い物代わりにゴクゴク飲んでしまう。そうなると味噌汁の出番が……というところだがそこはご愛嬌。最後は丼をシンク前まで運んで、ごちそうさまでした。

  • 東武東上線「成増」駅の南口からすぐの「どん亭」

焼肉ライスをうたう店内のポスターには「心に残る味 since 1972」とあった。店構えは新しくなっても味は変わらず続いているわけだ。この味で育った成増人は少なくないだろう。彼らは今もこの店で、あの日の記憶を呼び起こすことができる。これからもこの場所で、次の世代につないでいって頂きたい一杯だ。

著者:高山洋介

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に銭湯を紹介する同人誌『東京銭湯』『三重銭湯』『尼崎銭湯』などをこれまでに制作