朝から夜まで働く現代人にとって、睡眠不足によって蓄積する「睡眠負債」は大きな問題です。それでは、「睡眠負債」とはどのような状態を指し、そしてどのように返していけばいいのでしょうか。なにかと誤解の生まれがちな「睡眠負債」。その正しい返済方法について説明していきましょう。

  • 睡眠負債を正しく返済していくには?

「寝だめ」という言葉は誤り

睡眠の質や量(時間)が不足すると、睡眠負債が発生します。負債は返さなければなりませんが、一括返済はできません。また逆に、負債を抱えないよう資本を増やすこともできません。「寝だめ」という言葉が使われることがありますが、これは誤りで、眠りを貯めることは不可能です。

例えば、普段は0時に寝て7時に起きる生活をしている人が、金曜の夜だけ4時まで起きていたとしましょう。そこからいつも通り7時間睡眠をとろうとして11時まで寝ると、その分だけ生活リズムが後ろにずれることになります。すると、4時間の時差がある地域へ一気に移動したのと同じような状態になるのです。これを「社会的時差ボケ」と言います。その後、また7時に起きる生活に戻ると、時差のある地域から帰ってきたかのような状態になり、倦怠感が生まれるわけです。

睡眠負債を解消するためには

それでは、睡眠負債はどのようにして返していったらいいのでしょうか。ポイントは、睡眠時間の中間点を意識することです。普段0時に寝て7時に起きる生活をしている人は、その中間点にあたる3時30分を目安に、睡眠の前後をちょっとだけ伸ばすと良いでしょう。例えば「23時に寝て、8時に起きる」といったように、少し早く寝て少し遅く起きる。これが睡眠負債の正しい返済方法です。

睡眠不足は睡眠負債につながり、生活時間帯に眠気を感じるという状態を生じるだけでなく、体内リズムや周辺環境などの同調関係にも悪影響を及ぼします。生活のリズムを壊すような「寝だめ」は、有害なこともあるのです。

短めの仮眠で睡眠負債を防ぐ

日勤と夜勤を繰り返すような職業の方は、睡眠負債が蓄積しがちです。そのような方は、仮眠をとることで睡眠負債を抱えにくくしましょう。時間的に不規則な勤務についている方は、眠気を感じたら寝られるときに寝るというのが重要で、上手に仮眠すれば生活リズムを大きく崩すことなく疲労を取ることができます。

仮眠のコツは、あまり深い眠りに入らないこと。深い眠りに入ると、起きた後に頭がぼーっとしてしまいますから、仮眠の時間は短めに、具体的には30分程度にすることをオススメします。また、体を横たえたり、うつ伏せになったりすると眠りが深くなりがちです。椅子に座ってうとうとするくらいであれば深い眠りには入りにくいため、そのほうが仮眠後の活動性を向上するうえでは有効でしょう。

睡眠負債が蓄積してしまうと、次にやってくるのは睡眠障害です。
次回は、睡眠障害の種類と、それらを自覚できる身体のサインについて学びましょう。

監修者

井上雄一 (いのうえゆういち)

医療法人社団絹和会 睡眠総合ケアクリニック代々木 理事長
1956年生まれ。1982年 東京医科大学卒業・鳥取大学大学院入学。1987年 医学博士・鳥取大学医学部神経精神医学助手。1994年 同大講師。1999年 順天堂大学医学部精神医学講師。2003年 代々木睡眠クリニック院長、公益財団法人神経研究所研究員(現職)。2007年 東京医科大学 精神医学講座教授(現職)。2008年 東京医科大学睡眠学講座教授(現職)。2011年より医療法人社団絹和会 理事長(現職)。