「ケアレスミスがとにかく多い」
「何度言っても遅刻する」
部下に注意したり、励ましたりしても、なかなか改善しない。
管理職の方なら、そんな経験をお持ちではないでしょうか。
これは「本人のやる気の問題だ」と思われがちですが、実は、部下の睡眠不足が要因として潜んでいることがあります。
つまり部下の睡眠をマネジメントすれば、課題を改善することができるのです。睡眠をマネジメント? 聞き慣れませんが、どう行うのでしょう。
そこで、法人向けに睡眠マネジメントの研修プログラムを提供しているニューロスペースの代表取締役社長 小林孝徳氏に話を聞きました。
睡眠負債は個人では解消しない
睡眠負債は、日々の睡眠不足が体に借金のように蓄積されて、心身に悪影響を及ぼし、日々の生活の質はもちろん、仕事のパフォーマンスも低下させてしまう状態のこと。
メディアでも取り上げられ、多くの人々に睡眠の重要性が改めて認識されるキッカケとなりました。
「睡眠不足や不眠などに悩んでいる人は多く、良質な睡眠を求める人が増えています。ただ睡眠に関する知識を学び、自分で改善しようとしても、個人の生活は会社の働き方や仕組みにかなり影響されるので、なかなか変えられません。やはり個人と会社の両軸で行うことが重要です」と話すニューロスペースの小林氏。
同社は、これまでDeNAやANA、吉野家など大手企業60社の従業員、1万人の睡眠改善を手がけたそうです。
「睡眠スタイルは、所属企業や職種などによって大きく異なります。一例を挙げると、外回りの営業などの体を動かす仕事か、経理や総務などのデスクワークの仕事かによっても違います。アクティブな仕事をしている方は、勤務中に眠気があっても、それを感じにくい傾向があります。そのため、仕事帰りの車中や、帰宅して突然眠くなることがよくあります。一方内勤の方は、そういったことは相対的には少なく、退社後に急激な眠気におそわれることも少ないです」
睡眠時間は千差万別
さらに、一人ひとりに最適な睡眠スタイルや、睡眠時間が異なるそうです。
「8時間必要な人もいれば、5時間で大丈夫という人もいます。また、朝型か夜型かも千差万別なので、早寝早起きが一概にいいとも限りません」
しかし、こうした事実を企業の管理職の人たちはあまり理解していないと言います。
「部下への不適切なコミュニケーションとしてよくあるのが、『オレは、短時間睡眠で仕事をこなしているのに、なぜお前たちはオレより多く休んでいるんだ』というものや、同じミスをおかしたり、いつも遅刻したりするメンバーに、『気合いが足りない!』と精神論を押し付けようとするもの。これが行き過ぎると、モチベーションの低下や、離職率の上昇などになりかねません」
睡眠不足が引き起こす傾向
睡眠マネジメントとは、一体どのように行うのでしょうか? ニューロスペースは、睡眠に関するアカデミックな知見をもったメンバーや現役の医師、メディカルパートナーである精神科医らと共同開発した、企業向けのオリジナル研修会を実施。
その中で管理職向けに「睡眠マネジメント」に関するプログラムを提供しているそうです。
「睡眠マネジメントは3つのステップで行います。最初に管理職の方々へお伝えしているのは、睡眠不足に陥る人によくある3つの傾向です。この傾向から、自分の部下が睡眠不足かどうかを判断することができます。これがファーストステップです」
その3つの傾向とは……
(1)ケアレスミスが多くなる
(2)情緒がコントロールできなくなり、怒りっぽくなる
(3)マイクロスリープに陥る(気づかぬうちに数秒間寝落ちする)
次に、この傾向(症状)が部下に現れたら、睡眠時間との関係性を調査し、その人の生活スタイルや働き方を把握します。これをセカンドステップとしています。
「(仕事中に寝ているなど)目前の現象に対して、その人を責めてしまいがちです。しかし、重要なのは、症状の裏側にある理由(現在の働き方や睡眠時間など)を、個別に時間をとって確認することです」
同社では、簡単なアンケートをとるだけで、一人ひとりに合った睡眠時間や睡眠スタイルの傾向が把握できるそうです。
「最後のステップは、部下一人ひとりの睡眠時間・スタイルが担保できる働き方を推進して、環境をつくっていくアクションを起こすこと。これによって、モチベーションを高めたり、ケアレスミスを改善したりできます」
部下がミスをしたり、朝起きられなかったりしても、それを「なぜできないんだ」と問い詰めるだけでは、何の解決にもなりません。
小林氏の言葉を借りれば「引いて開ける扉を、押してこじ開けているようなもの」です。部下はなぜ上司の要望に応えられないのか、自分自身でもわからず、とてもつらい状態にあるようです。
「なぜそうなるのか」という、根本の仕組みを理解したマネジメントが必要だそうです。