今回はロシアの首都、モスクワを走る地下鉄について紹介する。モスクワの地下鉄は宮殿のようなプラットホームが注目されがちだが、日本よりも進んでいる面も見られる。少し意外なモスクワの地下鉄の実像をお伝えしたい。

  • モスクワの地下鉄では近代化が進む。写真は4号線で見かけた新型車両(写真:マイナビニュース)

    モスクワの地下鉄では近代化が進む。写真は4号線で見かけた新型車両

■東京に負けず劣らずの路線網

モスクワはロシアの首都であると同時に、世界を代表する大都市だ。2018年現在、モスクワの人口は東京よりも多く、約1,200万人となっている。大都市モスクワの交通を根底から支えているのが地下鉄といえる。

2018年12月現在、モスクワ地下鉄の総距離は381km(地下鉄のみ)。計14路線、259駅(モスクワ中央環状線とモノレールを含める)に及び、モスクワ市民にとって欠かせない公共交通機関となっている。

  • モスクワ地下鉄の路線図(地下鉄体験センターにて撮影)

  • 1935年開業時の写真(地下鉄体験センターにて撮影)

モスクワ地下鉄の開業は旧ソ連時代の1935年のこと。当初は1号線のソコリニキ~パールク・クリトゥールィ間、4号線のアレクサンドロフスキー・サート~スモレンスカヤ間の計11.5kmであった。その後、順調に路線が伸び、2016年には地上を走るモスクワ中央環状線(地下鉄14号線)が開業している。

モスクワ地下鉄の路線図を見ると、気づくことが2つある。ひとつは中心地と郊外を結んでいる路線が多いこと。ちなみに郊外から中心部へ向かう際の自動放送は男性、中心部から郊外へ向かう際の自動放送は女性の声となる。もうひとつはモスクワの街のスタイルに合わせ、5号線と14号線が環状線になっていることだ。同様にモスクワの主要道路も環状線になっている。

■旧型車が活躍する一方、新型車両の導入も進む

モスクワ地下鉄では旧型車の活躍が目立つ。ロシアや旧ソ連圏の地下鉄でおなじみの81-717/714型は1976年から製造され、改良車を含めると約7,200両にもなるという。

  • 1976年から製造された81-717/714型

  • 吊掛け駆動の音が鳴り響く81-717/714型の車内

  • 旧型車の一部にはモニターが設置され、次駅案内やニュースが流されていた

車内はシンプルな構造になっており、「グォーン」という吊掛け駆動の音が車内に鳴り響く。旧型車の一部にはモニターが設置され、次駅案内やニュースが流されていた。

もちろん旧型車だけではない。新型車両(81-765/766/767型)の導入や車両更新なども進んでいる。今回の記事冒頭で紹介した写真は、4号線の新型車両だ。独特の座席配置をしており、扉付近にはサークル状に吊り革が配置されていた。車端部にはタッチパネル式のモニターとUSBプラグが設置されている。

  • 4号線で活躍する新型車両の車内。独特の座席配置になっている

  • 新型車両の車端部にはタッチパネル式のモニターとUSBプラグがあった

  • 新型車両のドア部上部には大型の行先案内表示器が設置されている

  • モスクワ中央環状線(地下鉄14号線)は貨物線を活用し、2016年に建設された

  • モスクワ中央環状線に使われる車両はオールクロスシート。テーブルも設置されている

地上を走るモスクワ中央環状線の車両も特筆に値する。通勤列車であるにもかかわらず、車内はオールクロスシート。しかも特急列車のようなテーブルが付いているので、気軽に朝食も食べられる。

  • 旧型車の車両更新も進められている

  • 車両更新後の旧型車の車内。従来よりも近代的で明るい雰囲気だ。

旧ソ連時代に製造された車両の更新も進められており、車内は近代的な内装になっている。余談だが、1号線・2号線では旧型車が多く、4号線・7号線では新型車が多いように感じた。旧型車が多い路線と新型車が多い路線がはっきりと分けられているのが、今日のモスクワ地下鉄の現状のようだ。

■時代を反映した宮殿のような地下鉄駅

モスクワ地下鉄の魅力といえば、なんといっても宮殿のようなプラットホームだ。筆者は今回、効率よく地下鉄駅を見学するために、90分間の地下鉄ツアーに参加した。ガイドによると、モスクワ地下鉄の中で「美しい」とされているのは40駅ほど。その多くは1930年代から1950年代初頭にかけてのスターリン時代に建設されたという。

  • 革命広場駅(プローシャチ・レヴォリューツィ駅)には写真のような彫刻が無数にある。犬の鼻にタッチすると幸運が訪れるとか

  • 豪華なプラットホームが特徴のコムソモーリスカヤ駅(5号線)。近くにはレニングラーツキー駅、ヤロスラヴリ駅、カザンスキー駅があり、コムソモーリスカヤ駅がモスクワの玄関口になることから、とりわけ豪華な装飾になったという

  • コムソモーリスカヤ駅の天井にあるレーニンのモザイク画。1952年の開業時は当時の指導者、スターリンのモザイク画であった

  • コムソモーリスカヤ駅の端にあるレーニンの彫刻とソビエト連邦の紋章

モスクワ地下鉄は旧ソ連時代に建設されたとあって、社会主義体制のショーウインドウとして機能していた。それが最も顕著に現れているのがコムソモーリスカヤ駅だ。

まず、ホームに降りた瞬間から宮殿のような装飾に驚く。天井を見ると、演説を行っているレーニンのモザイク画を見つけた。建設当初はスターリンのモザイク画だったが、1956年のフルシチョフ第一書記による「スターリン批判」後、レーニンに差し替えられたという。このように、モスクワ地下鉄の装飾は旧ソ連・ロシアの歴史とともに歩んでいることがわかる。

  • ベラルースカヤ駅の天井にあるモザイク画。刺繍のデザインがベラルーシを想起させる

  • ベラルースカヤ駅構内にあるベラルーシ人のパルチザン像

旧ソ連は15の共和国が集まる連邦国家であったが、それを如実に示しているのがベラルースカヤ駅だ。駅名から推測できる通り、装飾は隣国のベラルーシをイメージしたものになっている。構内にはベラルーシ人のパルチザンをイメージした彫刻が置かれていた。

  • シンプルなデザインがたまらないマヤコフスカヤ駅

  • コインを溝に沿うように滑らせて半周させると願い事が叶うとか

ちょっとしたゲームを楽しみたければ、マヤコフスカヤ駅に寄ってみよう。この駅のプラットホームにはリンク状の柱があり、柱には溝が掘られている。ここで願い事をした上で、溝にコインを乗せて半周させると、願い事が叶うのだとか。筆者もチャレンジしてみたところ、思いのほか簡単にコインを半周させることに成功した。

  • マヤコフスカヤ駅の出入口の隣にモスクワ地下鉄の公式ショップがある

マヤコフスカヤ駅の近くには、モスクワ地下鉄の公式ショップもある。地下鉄に関する書籍やノートがあるので、お土産にも最適だ。

■地下鉄の車内でWi-Fiが使い放題

モスクワ地下鉄の自慢のひとつが車内Wi-Fiだ。誰でも無料でWi-Fiを使える。筆者も実際に試してみた。なぜかSafariは使えなかったものの、Firefoxでは何の問題もなくWi-Fiを利用できた。多少、ストレスを感じることもあったが、SNSやニュースを見るくらいなら何の問題もない。プラットホームでも接続を試みたが、うまくいかなかった。

なお、モスクワ地下鉄でWi-Fiを利用する際はロシアのSIMカードが必要となる。なぜなら、設定するときにロシアの携帯電話番号が求められるからだ。ロシアのSIMカードは総じて安価だ。ロシアを旅行する際は、空港のカウンターなどでSIMカードを購入することをおすすめする。