2時間以上の遅れで特急料金は払い戻しに

新幹線でも在来線特急列車でも、2時間以上、到着が遅れたら特急料金は全額払い戻しというJR旅客各社の制度は、比較的よく知られているところだろう。昨今、天災や事故が多いから、読者の中にもこの決まりの適用を受けた人がいるかもしれない。

  • 新幹線も悪天候や天災、あるいは事故などにより、遅れたり運休したりすることがある(写真はイメージ)

人一倍、鉄道で旅をしている筆者だが、新幹線でこの決まりの適用を受け、特急料金を払い戻してもらった経験は1回しかない(在来線では数回ある)。静岡県下の豪雨で、乗っていた「ひかり」が新富士駅で4時間近く足止めを食ってしまったのだ。世界一運行が正確とも言われる日本の鉄道だが、このあたりは運、不運もあって、当たる人はよく当たる。一概には言えないだろう。

ただ、覚えておいて損はない決まりでもある。正しいところを説明しよう。

まず、この扱いを行うのは、特急券の着駅に到着したとき、何時間何分遅れていたかが基準になる。たとえば、東京発博多行の新幹線「のぞみ」において、新大阪駅到着が2時間5分遅れた場合、新大阪駅までの特急券は払い戻しの対象となるが、その後、遅れを取り戻し、博多駅に到着したときに1時間55分の遅れだった場合、同じ列車の特急券であっても博多駅までの特急券は払い戻しの対象にはならない。

払い戻しは1年以内ならOK

払い戻しの対象には自由席特急券も含まれる。乗っていたのはどの列車かということがわからないが、大概はダイヤ全体が混乱しているので、「●●●××号に乗っていました」という自主申告で差し支えないという考え方だ。

  • 運転取りやめの案内は、駅の案内表示器などで流される(写真はイメージ)

  • 天災のときなど、案内が紙で掲示されることもある(写真はイメージ)

JR側は、どの列車がどれだけ遅れたかということはすべて把握している。車両故障などで1本の列車だけ大きく遅れている場合は、遅れていない別の列車へ乗り換えをすすめられることだろう。遅れた列車は運転打ち切りになることが多いと思われる。

駅に行って深く考えずに自由席に乗り込んだ新幹線が、たまたま2時間以上遅れており、目的地への所要時間そのものは普段と変わらなかったというケースでも、特急券は払い戻される。個人個人が迷惑を被ったか否かを考えていてはきりがないので、列車単位で判断されるのだ。

なお、特急料金の払い戻しは、到着駅に限らず、乗車日から1年以内であれば、どのJR駅でも可能。精算所が混雑して、払い戻しの順番を待っていられないときでも、きっぷに遅延の証明のスタンプが押され、そのまま持ち帰ることができる。

乗るはずの列車が運休! どうする?

もうひとつ、ありうる話として、特急券を買った列車が運休になってしまった場合が考えられる。筆者自身にも、取材するはずだった列車が車両故障のため、運転取りやめになった経験がある。

この場合、出発前に旅行そのものを完全に中止してしまうなら、運賃・特急料金はすべて払い戻しとなる。しかし、路線そのものが不通になってしまった場合ならともかく、新幹線は1時間に何本も列車が走っているので、1本だけ運休になったケースでは、通常は後続の列車への振替乗車が案内される。

また、列車が発車した後、途中で先の運転ができなくなった場合や、先に乗った列車の遅れで接続列車に乗り継げなくなった場合も、同じような措置が取られる。新幹線に接続するはずの特急列車が遅れた場合などは、「『のぞみ××号』の特急券をお持ちのお客様は、後続の『のぞみ▲▲号』をご利用ください」といった案内がなされたりする。

やや特別な決まりもある

もし、振り替えた先の列車の指定席が満席で、自由席に乗らざるをえなくなった場合、特急料金は「半額」が払い戻しになる。お詫びの意味も込められているが、指定席と自由席の差額ではないので注意が必要だ。グリーン車を利用するはずが、同じ状況で振り替え先の列車で利用できなかった場合、グリーン料金も払い戻される。

「ひかり」「こだま」から「のぞみ」への振り替え、「やまびこ」「はやて」などから「はやぶさ」への振り替えも、決まりとしてはできないことになっている。特急料金に違いがあるからだ。在来線特急列車から並行する新幹線への振り替えも、同じ理由でできない。しかし混乱を避けるため、JR側の判断で振り替えが行われることもある。放送や掲示などの案内を聞き逃したり、見逃したりすることのないように。

  • 有人駅ではJRの規則集が必ず備え付けられている(写真はイメージ)

  • JRの規則(旅客営業規則)は事細かに定められており、新幹線が遅れた場合についても決められている(写真はイメージ)

なお、これらの決まりは在来線特急列車であっても同じだ。「エクスプレス予約」「モバイルSuica特急券」などのチケットレスサービスの場合も、基本的にはこれらの決まりに沿った扱いになるが、窓口に並ぶ代わりに、端末から予約サイトへ接続しての操作が必要になるケースもある。それについては、回を改めて紹介しよう。

※写真はイメージ。本文とは関係ありません。

筆者プロフィール: 土屋武之

1965年、大阪府豊中市生まれ。鉄道員だった祖父、伯父の影響や、阪急電鉄の線路近くに住んだ経験などから、幼少時より鉄道に興味を抱く。大阪大学では演劇学を専攻し劇作家・評論家の山崎正和氏に師事。芸術や評論を学ぶ。出版社勤務を経て1997年にフリーライターとして独立。2004年頃から鉄道を専門とするようになり、社会派鉄道雑誌「鉄道ジャーナル」のメイン記事を毎号担当するなど、社会の公器としての鉄道を幅広く見つめ続けている。著書は「鉄道員になるには」(ぺりかん社)、「まるまる大阪環状線めぐり」(交通新聞社)、「新きっぷのルール ハンドブック」(実業之日本社)、「JR私鉄全線 地図でよくわかる 鉄道大百科」(JTBパブリッシング)など。