一般的に石の上にも3年と言われるように、日本社会においては、転職回数が多いことは、あまり好意的にとらえられません。下手すると可能性を広げるどころか、狭めてしまうことだって起こり得ます。

今回紹介するのは「フリーランス」の黒田悠介さん。大学卒業後の10年足らずの社会人生活の中で、4回も転職を果たしています。しかも、そのうち2回は完全なる異業種への転向。

  • 「フリーランス」の黒田悠介さん

    「フリーランス」の黒田悠介さん

にもかかわらず、途中で会社の社長になったり、突然フリーランスになったり……現在も幅広い業務を手掛けています。転職をすることで、可能性を狭めるのではなく、可能性を広げていく。その転職方法にこそ、転職のコツやヒントが隠れているのではと勝手に考え、突撃訪問してきました。

4回の転職で可能性を広げる

黒田さんが大学卒業後に最初に入社したのは、ウェブマーケティングを手掛けるベンチャー。大学で学んだ認知心理学を生かした仕事をしようと選びました。なかでも業務に深くかかわることができる小規模、中堅企業に絞って就職活動をしたそうです。

「入社を決めた時点から、転職が前提にあった。乗った船からいつでも自分の意思で乗降できるくらい自分の力が身につくところで働きたかった」

入社してまもなく、社内から新規事業立ち上げの話が出ます。仕事への姿勢が認められ異動のチャンスに恵まれたそうです。しかし、新規事業と言えど、2年も経過すると仕事は一段落。マニュアル化の余地が出てきます。

1回目の転職は、仕事がマニュアル化できるようになったから。
「自分以外の人間が仕事をしても、同じ結果が出るようになる。自分じゃなくてもいい」 より専門的な小さい組織で働いた方が学びは大きいのでは? と、小規模かつ新規事業を積極的に手掛ける会社という軸で転職を決めます。

2回目の転職は、会社から子会社の社長に就任するように指示が出たから。
次の会社では、入社後1年もたたないうちに子会社設立の話が出ます。その代表に黒田さんが選ばれます。就任後、経営は順調に推移し、余剰資金も出るようになります。

3回目の転職は、社会的な課題を見つけたから。
さらなる成長をと願いましたが、そこに問題が発生します。優秀な人材の確保がうまくいかなかったことです。どんなに経営状況が良くても、人的資源が足りないことによって、事業にブレーキがかかるのは忌々しき課題であると考え、興味は人材紹介業界へ移ります。

社長業を辞して転職。再びサラリーマンに戻ってしまいます。新天地で任されたのは、キャリアカウンセリングや学生にキャリアを説く仕事でまったくの未経験でした。

「選んだ道が説得力を作ってくれた。なので、過去の経験がまったく生きていないわけじゃない。抵抗感はあまりなかった」

4回目の転職は、個人的な事情と思いの変化から。
キャリアの話を学生にしていると、企業に勤めるよりも、起業家やフリーランスになったほうが良いのでは? という人にも出会うそうです。会社員の話や、社長業については実体験から語ることができたが、フリーランス未経験な黒田さん。自分の経験不足を感じ始めます。

同時に体調を崩し、長時間働くのが厳しくなりました。仕事を減らすなどの対応をするものの、だれかに雇ってもらうのではなく、自分が働けるだけの時間で稼がないといけないと考えるようになっていきます。

「フリーランスという働き方が一般的にできれば、働き方が多様になる。週2日だけ働くとかいろんな働き方ができる」

経験不足を感じたことと、体調の変化からフリーランスデビューし、最近ではフリーランスを取りまとめてグループ化し、大きな仕事を受注するなど、フリーランスのグループを組織しています。その規模早くも2,000人を突破したとか。

黒田流「転職時に意識する3つのポイント」

黒田さんの経歴を見ると、当初決めたゴールに向けて、計画的に進むという印象はありません。むしろ、その場その場で感じたことに素直に従っています。転職を繰り返す中で、自らの性格に理解を深め、より適した働き方を選択しているように見えます。

黒田さんの仕事選びのポイントとは?

ひとつ目は「実験」できる仕事かどうか?

仕事と実験というのは一般的にはなかなか結びつきにくいが、彼にとっての仕事観を象徴するキーワードです。ここでいう実験とは、自ら見つけ出した社会的な「課題」を解決する一連の行為をいいます。課題に対し「仮説」を立て、その仮説を「検証」するためにする行為が「仕事」です。

ふたつ目は自分の「介在価値」を生めるか?

つまり、自分が居ることによって生まれる出会いや反響が得られる仕事であること。

そして3つ目は「社会的な大義」があることです。

社会に出たばかりのころはほとんど意識することはありませんが、体調を崩した頃から意識するようになったそうです。

転職をする際も、新たな仕事を受ける際も、この3つの軸に従って行動しているそうです。だから、どの仕事、立場においても、夢中になれるし結果もついてきているのだとか。 これを読んだ方の中には、「黒田さんのように優秀な人材だからこそそれは可能なことで、自分には到底無理!」と思う方もいるかもしれません。僕らは、どうしてもいま置かれている環境ありきで、出来ることは何かと物事を考えがち。

ですが、それこそまさに冒頭に書いた「石の上にも3年」的発想にとらわれているとは言えないでしょうか? それで満足ならまったく問題はないですが、行き詰まったときには「転がる石に苔むさず」のことわざもあります。

それで言うなら黒田さんは、ボブ・ディランのような詩人タイプではないが、その働き方はまるでLike a Rolling Stoneです。一歩踏みこんだところにある自分の興味・関心を確認し、その気持ちとその人なりのルールに従って行動するのであれば、転職を繰り返すことも十分アリな選択肢なのでは。

田中 翼
国際基督教大学を卒業後、運用会社に勤務。趣味で様々な業界への会社訪問を繰り返す中、その魅力の虜に。同体験を他人にも勧めたいと、仕事旅行社を設立。1万人以上に仕事体験を提供。