職業は旅行家

原付バイクで世界5大陸の旅。電動バイク夫婦ふたりで世界一周。日本一周数回など、藤原かんいちさんがこれまで旅した国は90か国を超えます。さらに海外国内を旅した期間は4,000日間以上に及ぶという彼の仕事は、なんと旅行家。

聞きなれない単語を耳にして、疑問だらけの方も多いのではないでしょうか。旅行家ってそもそも何でしょうか。旅行が仕事になり得るのか。どうしたら旅行家になることができるのか。そんな数々の疑問をぶつけに、「旅行家」の藤原さんに会いにいってきました。

ちっちゃい頃は、色んなことがのろまだった

子供の頃は何をやっても遅かったという藤原さん。例えば幼稚園のときに、みんなで折り紙をやろうとなる。谷折り、山折りみたいに、こっち、あっちと進んでいるうちに置いていかれてしまいます。折り紙は途中で分かんなくなったらもう終わり。まわりのみんながきれいに作り上げるのをはた目に、自分の折り紙はぐちゃぐちゃ。そんな記憶が強く残っているそうです。

一方、知らない風景を見るのは好きでした。自転車を親に買ってもらってからは、隣町など、毎日のように知らない土地へ出かけました。知らない所で知らない体験することを繰り返していました。

高校は建築科に進学しました。大工の父親から、建築科に入っておけっていう空気を感じたのが理由でした。色々なところへ行きたいという想いの強かった藤原さんにとってみると、大工になったら、自由なことができなくなるんじゃないかと思っていたそうです。

旅ほど強く興味を持っていたわけではありませんが、小学校の図工の時間にほめられた経験から、絵を描くことは好きでした。ぼんやりと将来絵を描く仕事に就きたいと考え、高校卒業後はデザインの専門学校に進学します。

人生に影響を与えた出会い

デザイン会社に入社すると、給料を貯めて今までにない大きな旅である日本一周に出かけます。裕福な旅ではないので、テントを持ってキャンプ場を巡るバックパッカーでした。 この旅が、藤原さんの価値観を大きく変えました。とあるキャンプ場で見かけた異様に整った複数のテント。何だろうと思っていると、長靴と作業着の人たちが「ただいまー」とやってくる。ほとんどがバイクで日本一周しながら、資金が尽きるとそこに滞在して、日銭を稼ぐ暮らしをしていた人でした。

「衝撃的だった。旅というのはお金を貯めてそれを使いながらするものだと思っていた。こういう旅の形もあるのだと気づいた」

旅を終え、仕事に戻るとより広い世界を見たいと思い始めます。そこで思いついたのがオーストラリアの旅。どこかで360度広がる地平線の話を聞いてからは、絶対見たいという衝動に駆られていました。旅の計画は約1年。現在の仕事を辞めなくてはいけない内容でした。英語はダメ、海外旅行も行ったことない藤原さんに、周りはもちろん反対します。それでも、キャンプ場での出会いが藤原さんの背中を強く押しました。

旅が人生のメインテーマ。そのために働く

オーストラリア旅行から帰ってくると仕事はもちろんありません。貯金も大幅に減っています。ついでに言うと、彼女もいなくなっていました。それでも悲嘆にくれることはなかったそう。むしろ次は世界一周旅行に出かけたいと頭がいっぱいだったからでした。

「自分にとっては旅が人生のメインテーマ。そのために仕事というのがあるような感じになった」

仕事にはたくさんのことを求めず、オンオフをはっきりと分けるように。フリーランスでデザインの仕事をやりながら資金稼ぎして、旅に出るという形態も出来上がりました。

しかし、その働く時間ももったいないと考えた藤原さん。「自分の旅には価値があると思っていたから、スポンサーを獲得できないかと思った」そこで、それまでに付き合いのあったメーカーなどに企画書を持ち込んで、スポンサーを募りました。直ぐにお金のサポートとまではいかないものの、バイクや備品の提供などを獲得することに成功します。いくつかの企業からは、旅先での出来事を寄稿する仕事をもらい、ライターとしての稼ぎも生まれ始めました。

まずは自分が納得することを大切にする

「(世界一周をすると)あそこにはどんな風が吹いて、どんな人たちが住んで、どんな匂いがしてって、俺の中の地球儀ができたのかなあって思った」

藤原さんは最近、遠方の旅ではなく、近場の旅を繰り返しています。遠くから俯瞰したことで、自分の育った身近な世界の魅力に気が付いたそうです。道端に生える花や、水たまりの波紋、道路のシミなどを写真に撮ってはInstagramで配信を続けています。すでに61カ国の人がフォロワーになり、コメントも盛り上がり始めています。

「自分の作品を極めれば、本や写真集になったりもするだろうし、企業がその写真を使ってくれるようになってくるはず。まずは自分が納得するものをつくるのが大切」

せっかく確立してきた旅行とライターの仕事を減らしてでも、カメラの方に力を注いでいきたいそうです。

「できる」を伝えることが「旅行家」の仕事

仕事とは、その人に求められた役割であると藤原さんは考えます。そして「旅行家」の役割は「何事も本気で願って、求めれば叶えられる」と伝えることだとか。

藤原さんから見ると、ほとんどの人はやりたいことを持ちつつも、周りの声に惑わされて、実現するのをあきらめてしまっています。世界一周や、スポンサーの獲得、写真でも、自分のやりたいことを貫き、形にしてきた成功体験を元に「何事も実現できる」「もっとチャレンジしよう」と多くの人に伝えていきたいと願っています。

これを読んだ方の中には、今現在、やりたいことと現実の狭間を行ったり来たりしている人も多いのではないでしょうか。そんな時こそ、一度周りの声に耳を塞ぎ、自分のやりたいようにやってみるのも手かもしれません。そして不安になった時は、藤原さんの行動を見てください。現在も「旅行家」から「写真家」へとチャレンジの真っ最中です。

田中 翼
国際基督教大学を卒業後、運用会社に勤務。趣味で様々な業界への会社訪問を繰り返す中、その魅力の虜に。同体験を他人にも勧めたいと、仕事旅行社を設立。1万人以上に仕事体験を提供。