“ワンコインとちょっと”で味わえる、天国みたいな時間、それが銭湯だ――この連載では、毎週末の銭湯巡りを趣味とする街歩きライター・デヤブロウ氏が、都内&近郊の選りすぐり銭湯を訪ねて、湯の特徴や整うポイント、ちょい寄りスポットまでご紹介。今回は「東武伊勢崎線・曳舟駅~鐘ヶ淵駅周辺にある銭湯4軒」
隅田川と荒川に挟まれた街、墨田区。その中の押上エリアにそびえ立つ東京スカイツリーは、立地、交通、商業、文化、そしてビジュアルとあらゆる側面で区の中心軸となっている。その南側にも「美術館・博物館」「相撲」の両国や「歓楽街」「公園」「映画館」の錦糸町など、発展が進む場所は多い。このように墨田区の南側は、浅草や上野などと並んで23区東部を代表する観光地域である。
一方、同じ墨田区内でもスカイツリーの北側はどうか。こちらは再開発が南側ほど進んでおらず、細い道路や裏路地が入り組み、飾り気のない静かな街となっている。その地域を南北に通っているのが東武スカイツリーラインこと伊勢崎線なのだが、同路線の急行や準急がちょうどこの区間(牛田~東向島)をスルーしてしまう事もあり、「駅名はほぼ毎日見ているが、降りたことはない」という人も少なくないだろう。
距離的にはスカイツリーの近傍ながら存在感が薄く、昭和の地方都市にも似た土地柄である。反面、そうしたローカルテイストが今なお息づいているためか、多くの銭湯が現役。地元で長らく親しまれつつも要所に新要素を取り込んだ、下町散策の後で訪れたくなる良店も少なくないのだ。
■有名映画にも登場、「奇跡の街並み」曳舟の人情湯処『電気湯』
曳舟は近年、テレビのバラエティ番組で「奇跡の街並み」と紹介されて話題になった。戦争中の空襲被害を奇跡的に免れ、その後も区画整理や再開発が行われなかったため、昔ながらの複雑な小路や古い民家が数多く密集するエリアだ。
また、曳舟駅は伊勢崎線に加えて東京メトロ半蔵門線にもつながるほか、羽田空港や成田空港へのアクセスに便利な京成曳舟駅もある。その京成曳舟駅から徒歩数分にあるのが、ビル型銭湯の『電気湯』。2023年の映画『PERFECT DAYS』(監督:ヴィム・ヴェンダース、主演:役所広司)でロケ地として使用されるなど、銭湯好きだけでなく映画好きにも注目されるスポットだ。
創業は1922年(大正11年)で、外観と店名看板には長い年月の重みが滲む。その一方、入り口横には水曜日の薬湯や日曜日の朝風呂(8:00~12:00)を知らせる手書き掲示板や、「いい湯あり□(ます)」という看板も掛かっており、ユーモラスで軽やかな印象だ。
フロントや脱衣所もかなり古びてはいるが清掃は行き届いており、脱衣所の木床はピカピカ。天井は宮造りの銭湯なみに高く、床面積も広くて大変過ごしやすい。和風の腰掛けベンチもあり、室内BGMの昭和歌謡を聞きながら、風呂上がりにくつろげる。
浴室内も天井が高く、白地に青・黄色・緑の縞模様という独特のカラーリングや、ゆるい曲面がとても柔らかな印象だ。白い壁面や、深い青色タイルの浴槽も「これぞ昭和の銭湯」という雰囲気。浴槽は座風呂付きの大浴槽と深湯の2つあり、大浴槽の方が低温風呂ということになっているが、筆者が入った感覚では深湯とさほど温度差はない。両方とも若干熱めであり、お湯で身体をしっかり加熱したい人に嬉しい、江戸っ子向けの設定だ。
サウナも温度は高めで、室内は2段型で最大6人ほど入ることができ、下段でも短時間で十分に汗をかける。なお、現在(2026年4月時点)はサウナ内に時計類がなく、フロントでお願いすれば5分用の小さい砂時計を渡してもらえる。水風呂は若干ぬるく、心臓に負担をかけない控えめな肌ざわりである。
ところで、電気湯は内装や設備だけでなく、お店の人々と常連客、そして常連客同士の距離感がとても近いところが最大の個性である。平日夜の客は大半が地域の高齢者で、客同士での挨拶や談笑があちらこちらから響く。筆者の来店時は若い店員がフロントに座っていたが、常連と思しきおじいさんと親戚か家族のように会話しており、その風景に心が温まった。最初こそ少し戸惑うかもしれないが、一度入ればもう常連の仲間入りできそうな、良い意味でアットホームな銭湯である。
『電気湯』:東京都墨田区京島3-10-10/最寄駅:京成押上線「京成曳舟駅」から徒歩5分/15:00~24:00、日曜のみ8:00~12:00も営業(土曜休)/料金:入浴550円、サウナ料金400円(レンタルタオル付)/駐車場なし
■森林浴スペースやフィンランドサウナが光る、東向島の『寺島浴場』
曳舟駅から1駅北の東向島駅は、1902年(明治35年)に白鬚駅という名で開業し、後に一時廃止と営業再開、玉ノ井駅への改名を経て、1987年(昭和62年)に現駅名になったという変わった経歴を持つ。駅隣接の高架下空間には、昔の電車を往時の姿で保存・展示する『東武博物館』が営業中。駅の近隣には春の梅と秋の萩が見所の『向島百花園』もあり、意外と本格的な観光もできる穴場だ。そうしたスポットを巡った後に訪れたいのが、水戸街道沿いに看板を出している『寺島浴場』である。
寺島浴場は店舗入り口がかなり奥まっており、外観はマンション併設のビル型銭湯というより、普通のマンションそのもの。ある意味で真の「隠れ家タイプの銭湯」と言える。脱衣所は若干くたびれているが全体に手入れが行き届いており、ロッカーも近年更新されたらしく真新しい。浴室内は全体に青いタイル張りで、ビル型銭湯ながら天井が高く、こちらも所々が古びているが、清掃は丁寧である。
浴槽は中温のバイブラ風呂、座風呂、やや高温の深湯、そして別室に名物「森林浴」スペースがある。バイブラなどは日替わりの薬湯になっており、お湯の温かさだけでなく薬効も肌に染みるようだ。また、浴室奥には大きめの窓があるのだが、別室への扉も窓と同サイズなので、まるで窓をくぐって外に出るような感覚だ。
森林浴スペースに入ると、木の香りがフワッと鼻をくすぐる。ここでは原生林の針葉樹から採取した植物精油を使って、自然林に近い状態の空気を再現しているのだという。スペース内には電気風呂併設の湯船もあり、湯音はかなりぬるめで、電気もさほど強くはない。森の香りが鼻腔から気分を和らげ、お湯もじんわり体をほぐし、リラックスの度合いはかなりのものである。
もう一つの見所が、2020年に改装した本格フィンランドサウナだ。室内は3段タイプで、最大4人程度とかなりコンパクト。素の室温がかなり高いうえにセルフロウリュの設備もあり、数分で汗びっしょり。壁面には15分タイプの砂時計が据え付けられているが、無理せず数分で切り上げるのも良いだろう。水風呂は水温12?13℃とかなりの冷たさ! こちらも最初はサッと数秒で済ませて、サウナでガッツリ蒸されてから少し長めに入るのが無難だ。サウナで熱された身体を冬の湖にダイブして冷やすという、本場フィンランドにかなり近い温度設定と言えるのではないか。
ところで、寺島浴場の店主は一見すると強面ながら、実はとても親切であり、退店時の挨拶も爽やかである。外観・森林浴・サウナと個性づくめの銭湯ながら、一番印象に残るのは店主さんの笑顔かも知れない。
『寺島浴場』:東京都墨田区東向島6-34-18/最寄駅:東武伊勢崎線「東向島駅」から徒歩3分/平日16:00~23:00、土・日15:00~23:00(月火休)/料金:入浴550円、サウナ料金500円(※2時間制限あり)、レンタルタオルセット100円(フェイス・バス)/駐車場5台分あり(マイクロバス程度まで可)、バイク駐車・自転車駐輪スペースあり
■鐘ヶ淵も駅直近で『みまつ湯』『田中湯』の2軒を利用可
東向島駅からさらに1駅隣の鐘ヶ淵駅は、隅田川と荒川が最も近づく狭間にあり、隅田区内の駅として最北にあたる。駅周辺は大きなロータリーも商業施設もなく、幅広な踏切の向こうを東武線や東京メトロの電車が頻繁に通過していき、まさに東京の下町といった佇まい。また、駅前から直近に銭湯が2軒もあるので、それぞれを簡潔に紹介していく。
駅の東側にあるのは、ビル型銭湯の『みまつ湯』。外観やフロント部分、浴室内は綺麗に整えられており、店頭看板にも書かれているとおり、ジェットエステバス・電気風呂・薬風呂・ボディマッサージなど設備が充実。特に強烈な効き目の電気風呂やジェットエステバスの心地よさが高評価となっている。水風呂やサウナは無いので、カランのかけ水などで身体を冷やしながら、湯船をチェンジしつつ温冷交代浴をするのに向いているだろう。
『みまつ湯』:東京都墨田区墨田4-9-12/最寄駅:東武伊勢崎線「鐘ケ淵駅」から徒歩2分/15:30~21:00(土曜休)/料金:入浴550円/駐車場なし
もうひとつ、線路の反対側にあたる駅北側にあるのは、堂々とした宮造りテイストが渋い『田中湯』である。こちらでは天然地下水を使用しているほか、日替わり入浴剤・ハーブ湯・備長炭の湯など、お湯の泉質やバリエーションを重視。特に井戸水は鉄分除去装置で浄化してから薪で沸かしているという。今風のニューウェーブ銭湯から少し離れて、伝統的な空間でお湯そのものを楽しみたい人におすすめだ。
『田中湯』:東京都墨田区墨田5-46-5/最寄駅:東武伊勢崎線「鐘ケ淵駅」から徒歩3分/16:00~23:00(月曜休)/料金:入浴550円/駐車場なし
今回紹介した銭湯以外でも、京成曳舟駅から近い場所には『おかめ湯』、墨田区北側の範囲内であれば京成押上線・八広駅の近くで『三徳湯』が営業している。これら地域の下町散歩を楽しんだ後は、リフレッシュのため積極的に銭湯を利用したい。
■墨田区北側の散策ポイントは「土木」「電車」「下町」の3つ
以上、墨田区北側の比較的マイナーな地域の銭湯を、東武伊勢崎線沿いに紹介した。だが、こうした湯処を利用する際は、是非ともその周辺にも脚を運んでみてほしい。スカイツリー周辺や両国・錦糸町のような華やかさはないが、下記の3ポイントを押さえておけば、長閑な街中に隠れた個性を味わえるはずだ。
一つ目は土木建築。墨田区の北端には旧綾瀬川という細く短い川がある。隅田川と荒川という二大河川をつないで船で行き来できるようにしつつ、増水時は水量の調節をして東京を水害から守るという、地味ながら極めて重要な水路である。現在の荒川自体も1910年(明治43年)の水害後、治水対策のため1930年(昭和5年)に完成した放水路であり、あの巨大さでも実は人工の河川。鐘ヶ淵駅から西側の隅田川沿いには、地震対策の防火壁機能を備えた巨大建築『白鬚東アパート』もあるなど、実は東京の土木建築において注目点が多い街なのだ。
二つ目は鉄道関連。上述の旧綾瀬川をまたいで足立区側に入った先の堀切駅には跨線橋があり、在来線から『スペーシアX』など特急まで、多くの列車が行き交う様子をすぐ上から眺めることができる。また、鐘ヶ淵駅も路線の大きなカーブ上に位置しており、駅に入る電車を真正面から見られるとして鉄道マニアには知られた存在。ここに東向島駅の東武博物館とも合わせて、鉄道をテーマにした一日散歩プランを組んでも良いだろう。
そして三つ目は下町巡り。空襲被害や再開発の波を逃れた奇跡の街並み・曳舟は『キラキラ橘商店街』などレトロなスポットに富み、昔ながらの看板建築や長屋を有効活用した新進のショップも増えている。同様に東向島駅や鐘ヶ淵駅の周辺も、地元に馴染んだ味わいある個人経営店が数多。流行からは距離を置きつつ、自分だけの旅路をのんびり探したい人にとっては最適なエリアと言える。そうして独特な街の歴史・文化をじっくり堪能した後で、最寄りの銭湯へ行ってみてほしい。

















