“ワンコインとちょっと”で味わえる、天国みたいな時間、それが銭湯だ――この連載では、毎週末の銭湯巡りを趣味とする街歩きライター・デヤブロウ氏が、都内&近郊の選りすぐり銭湯を訪ねて、湯の特徴や整うポイント、ちょい寄りスポットまでご紹介。今回は「錦糸町の湯どころ4選」


  • 錦糸町は商業施設が多く、昼間は買い物客やビジネスマンが多い

    錦糸町は商業施設が多く、昼間は買い物客やビジネスマンが多い

東京都墨田区の錦糸町は、昼と夜とで様相を大きく変える街だ。昼の錦糸町は映画館や場外馬券場などエンタメスポットに富み、再開発で綺麗に整えられた錦糸公園など憩いの場も多い、ファミリー向けの街といえる。

一方、夜となれば駅北側の縦横に走る居酒屋街や、南側『マルイ』裏の歓楽街が多くの酔客を誘う。錦糸公園も酒の入ったカップルや若者集団が闊歩するディープエリアに様変わり。駅南側のロータリーに路上ミュージシャンが出没することもしばしばで、良くも悪くも雑多な喧騒感が街の個性である。

  • 夜の一部エリアは客引きが頻出するので要注意である

    夜の一部エリアは客引きが頻出するので要注意である

清濁明暗の様々な側面を持つ錦糸町だが、そのひとつが「銭湯カルチャーの最前線」という点である。錦糸公園から近くには近年のリノベーションや事業展開で大きな話題となった銭湯があり、そこから少し離れた場所にもモダンデザインかつ地元向けの店舗が営業中。銭湯以外でも駅直近の商業施設内にあるスーパー銭湯や、強烈な熱気の超上級者向けサウナ店がよく知られている。こうした錦糸町らしい「クセ強」な湯処を当記事では紹介していく。

■ニューウェーブ銭湯代表、最新設備に「DJブース」「クラフトビール」もある『黄金湯』

  • 錦糸公園(手前)に隣接するショッピングモール「錦糸町オリナス」(奥)

    錦糸公園(手前)に隣接するショッピングモール「錦糸町オリナス」(奥)

最初に紹介するのは、駅北側の再開発エリア『錦糸公園』からすぐ近くの場所に立つ『黄金湯』である。戦前の1932年(昭和7年)に創業したという老舗であり、1985年(昭和60年)に現在のビル型銭湯へ改築。その後のリニューアル休業やコロナ禍による工事延期を挟みつつ、2020年8月に再オープンした。

黄金湯の人気ぶりは、休日ともなれば入店前に整理券が配られて順番待ちになるほど。銭湯界隈の最新トレンドを牽引する設備やインテリア、イベント開催、さまざまな取り組みが話題を呼び、現在の銭湯業界で間違いなく第一線を走る存在だ。

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    黄金湯は入口からも独特な構造のフロント部分が見える

外観は建物の低層部分がコンクリート打ちっぱなしになっており、無機質でソリッドな印象ながら、そこへガラスの引き戸と白い暖簾が懐かしい香りを添えている。このようなグレー&ホワイトの質感でフロント・脱衣所・浴室内も統一されているのがデザイン上の特徴だが、これは狛江市の銭湯『狛江湯』リニューアルも手がけた事務所『スキーマ建築設計』によるものだ。

引き戸をくぐって入ったすぐ先にあるフロントはアイランドキッチンのような形で、まるでバーやナイトクラブのカウンターのよう。実際にDJブースまで設置されており、実際に音楽イベントもたびたび行われている。

  •  黄金湯の建物は2階部分がテラスになっている(写真右)

    黄金湯の建物は2階部分がテラスになっている(写真右)

浴室内は天井付近がグレー、壁面や床面はやや黄色みがかった白タイルとなっている。浴室内には高濃度炭酸泉、薬湯、ジェットが付いた高温風呂と水風呂があり、加えてサウナ利用者限定で利用可能な外気スペースも設けられている。炭酸泉は36℃と他店(おおむね38~39℃)よりぬるく、人間の体温(36.5℃)よりも低いので、ぬるい水に浸かっているような気分だ。熱さ・冷たさ・水圧などの負荷が全くかからない炭酸の湯船で体をほぐし、それから薬湯や高温風呂に浸かると無理なく長湯できる。

外気スペースの設備はサウナ・大水風呂・外気浴椅子の3つ。浴室内よりさらにシックな空間設計であり、「黄金湯といえばコレ」という人も多いと思われる。サウナは温度設定がやや高めで、間接照明も相まった薄暗い静謐さは瞑想向きだ。大水風呂は水温13〜15℃とかなり低めで、しかも水深が90cmもあり、熱々なサウナの後で一気にクールダウン可能。冷たすぎる場合は無理せずに浴室内の水風呂(水温20℃ほど)を使うとよい。その後は外気浴椅子でくつろぐと、墨田区の空を見上げながら最高のととのい時間を味わえるだろう。

  • 黄金湯の看板は昔のまま

    黄金湯の看板は昔のまま

また、黄金湯の物販ではドリンクやグッズのほか、なんと黄金湯オリジナルのクラフトビールも販売中。フロント横のベンチや立ち飲み形式のミニテーブルを使い、スタイリッシュな設えのなかで風呂上がりに一杯やりたくなる。浴室の外も中も全てがハイエンドで、手軽に最先端の銭湯を体験したい人におすすめだ。


『黄金湯』:東京都墨田区太平4-14-6/最寄駅:JR総武線「錦糸町」駅北口から徒歩6分/6:00~9:00、11:00~24:30(第2・第4月曜休)/料金:入浴550円、サウナ料金350円(平日女性)550円(平日男性)400円(土日祝女性)600円(土日祝男性)、レンタルタオルセット200円/駐車場なし/サウナ2時間制限あり


■墨田区で「黒湯」に入れる、貴重な和風ビル型銭湯『御谷湯』

次の銭湯は、錦糸町駅から西方向にしばらく歩き、錦糸町エリアと両国エリアのちょうど中間にある『御谷湯(みこくゆ)』だ。創業は1947年(昭和22年)で、2015年には銭湯リノベで知られる建築家・今井健太郎氏のデザインでリニューアル。現在は木の柱や梁を目立たせた和風のビル型銭湯となっており、入口横には平日の昼から利用客の自転車がたくさん。黄金湯と同様、人気の高さがうかがえる。

  • モダンな黄金湯に対して御谷湯は和テイスト

    モダンな黄金湯に対して御谷湯は和テイスト

1階のフロント部分も木質で日本家屋のような雰囲気となっているが、とりわけ充実しているのは休憩スペースだ。座面が畳敷になったベンチが複数置かれているほか、自販機にTVモニター、立派な金魚の泳ぐ水槽まで設置。入浴後にゆったりと余韻を味わうのに最適である。

  • このビル全体が銭湯である

    このビル全体が銭湯である

御谷湯は4階と5階に浴室があり、週替りで男湯と女湯が入れ替わる。5階の浴室内は天井が高く、爽やかなタイル張りで昔ながらの銭湯とモダン銭湯を折衷したようになっており、ビルの5階とは思えないほどの開放感である。側面の壁には墨田区を代表する浮世絵師・葛飾北斎の『富嶽三十六景』から、奇妙な構図の富士山で知られる『甲州三坂水面』をベースにしたペンキ絵が描かれている。浴室奥窓も大きく、昼間は照明なしでも採光が十分だ。

  • 御谷湯は一部の水回りで雨水を再利用している

    御谷湯は一部の水回りで雨水を再利用している

インテリアやデザイン以外にも、浴槽の多さも見所である。浴室奥にL字型の中温風呂、高温風呂、水風呂、座風呂・打たせ湯・ボディマッサージ・ボディジェットを併設した浴槽、さらに薬湯があり、引き戸の向こうには風呂付きの半露天スペースまで備える。しかも中温風呂・高温風呂・水風呂には、東京都に固有の黒湯温泉を使用。黒湯の銭湯は大田区などに多いが、墨田区で黒湯に入れるのは貴重である。サウナはないものの、高温風呂は44℃程と熱さはかなりのもので、温冷交代浴をすると大変に心地よい。

他にも印象的なのが、露天風呂と外気浴用の椅子が備え付けられた露天スペースだ。ここは外気への接続部が壁側と天井側の両方に取られており、外の風や光がスムーズに中まで入ってくる。薄暗い所はなく、昼間はとても穏やかな雰囲気だ。露天風呂といえば岩風呂タイプがメジャーだが、御谷湯では檜を柱・梁・天井などに使用。昼間は穏やかな陽光に、夜には暖色の灯りによって照らされ、全く違う雰囲気となる。椅子で外気浴しつつ頭上を見上げれば、雑然とした錦糸町エリアにありながら、とても静かで落ち着いた時間を満喫できるだろう。

  • 御谷湯の看板はどっしりした印象

    御谷湯の看板はどっしりした印象

ところで、御谷湯の客層は本当に様々である。4時台では地域の高齢者が多いが、5時〜6時になると若年層も増える。中には小学生のような小さな子供らが5〜6人で来ている場合もあり、年齢を問わず地域で親しまれている様子が伺える。地域の常連さんと思しき方々が1階の休憩スペースでプロ野球を観戦しているなど、コミュニティの場として定着している店舗だ。


『御谷湯』:東京都墨田区石原3-30-8/最寄駅:都営地下鉄浅草線 「本所吾妻橋」駅から徒歩12分、JR総武線「錦糸町」駅から徒歩16分/15:30~26:00、日曜のみ15:00~24:00(月曜休)/料金:入浴550円、レンタルタオルセット150円/駐車場2台分あり


■商業ビル最上階のスーパー銭湯&「最強」激熱サウナも

以上のとおり銭湯2件にも、錦糸町の湯処はまだある。スーパー銭湯やサウナなど、いずれも独特の尖った個性と長所、そして魅力を持った店舗なので、好みや用途に応じて使い分けると便利である。

『天然温泉 楽天地スパ』

  • 楽天地にはスパや映画館のほかPARCOも入っている

    楽天地にはスパや映画館のほかPARCOも入っている

街のランドマークとしてJR錦糸町駅に隣接する老舗商業ビル『楽天地』の最上階にある、男性専用・24時間営業のスーパー銭湯。地下650メートルから湧き出る天然温泉を、絶好の眺望とともに堪能できる。豊富な浴室内設備に加えて、サウナでは熱波師によるロウリュも開催。楽天地内の『TOHOシネマズ』で映画を観た後でも利用しやすいほか、Wi-Fi・スマホ充電設備・コワーキングスペースも完備しているので、レジャーとビジネスのどちらにも組み合わせられる。


『天然温泉 楽天地スパ』:東京都墨田区江東橋4-27-14 楽天地ビル9階/最寄駅:JR総武線「錦糸町」駅南口から徒歩1分/24時間営業(※日曜日のみ23:00閉店し、翌月曜10:00開店)/料金:一般コース2,850円(※土日祝日は特定日料金350円加算)、60分コース1,650円/楽天地ビルの駐車場を使用可


『スパ&カプセルイン リアルサウナ錦糸町』

  • 【写真】男湯側のドライサウナは室温120℃、都内でも最強クラスの熱さを誇る『スパ&カプセルイン リアルサウナ錦糸町』

    一流のサウナーはここに行くべし!

駅北側の居酒屋街にある、カプセルホテル併設のサウナ。男湯と女湯で設備が違うのだが、とりわけ男湯側のドライサウナは室温120℃という、都内でも最強クラスの熱さで有名である。灼熱で徹底的に汗と体力を搾られた後は、天然地下水の巨大水風呂で急速冷却しよう。女湯側は海洋深層石を使った岩盤浴が名物なほか、こちらのサウナもかなりの高温。屋上にもスカイツリーを眺めつつセルフロウリュ可能なルーフトップサウナを設けるなど、総じてサウナー「ガチ」勢向けの店舗である。


『スパ&カプセルイン リアルサウナ錦糸町』:東京都墨田区錦糸2-6-3 第一荒木ビル/最寄駅:JR総武線「錦糸町」駅北口から徒歩2分/24時間営業/料金:1時間コース1,300円、2時間コース1,600円、3時間コース(※女湯のみ)1,900円、6時間コース(※男湯のみ)2,300円、屋上サウナ2時間6,000円/駐車場なし


■黄金湯のスゴさは浴室の外にもあり

ところで、最初に紹介した黄金湯は店舗・設備そのものの魅力に加え、浴室外での多角的なアクションも大きく注目されている。黄金湯のオーナーは近隣の押上エリアで『大黒湯』『さくら湯』の2店も経営。2026年5月末には、東新宿の銭湯『金沢浴場』をリニューアルした2号店『黄金湯新宿』もオープンさせる。2022年には黄金湯の2階スペースに宿泊施設とカフェラウンジを追加した。上述のとおりフロントのDJブースでは音楽イベントも行うなど、銭湯を単なる入浴の場でなく、入浴を軸とした飲食・文化・ライフスタイルの場へと組み替えていくことに積極的である。

  •  夜の大黒湯と東京スカイツリー

    夜の大黒湯と東京スカイツリー

2023年からはさくら湯の近くでクラフトビール醸造所「BATHE YOTSUME BREWERY(ベイズヨツメブルワリー)」も展開するなど、銭湯以外での取り組みも目覚ましい。これらの試みはいずれも、銭湯を地域・産業・社会と積極的に結びつけることで、業界全体を盛り上げていくためのものだろう。

  • さくら湯の外観はかなりローカルなテイスト

    さくら湯の外観はかなりローカルなテイスト

銭湯業界は建物の老朽化や後継者不足などで今なお芳しくなく、最近では中東情勢の不安定化による燃料費高騰も直撃して、さらに厳しさを増している。そうした時だからこそ、むしろ新しい取り組みで逆風を跳ね除けるような攻めの姿勢が、銭湯には欠かせない。そのリーダー役である黄金湯と、そこから影響を受ける新時代銭湯の、今後の活躍に期待である。

  • BATHE YOTSUME BREWERYは外観からビールの醸造設備を見られる

    BATHE YOTSUME BREWERYは外観からビールの醸造設備を見られる