テレビや雑誌で紹介されたりネットの記事でまとめられたりする銭湯は、寺社仏閣の佇まいをした昭和レトロ銭湯か女性にも入りやすいデザイナーズ銭湯がほとんどだ。感覚的な数字だが、都内で言えば20~30軒くらいの銭湯を繰り返し紹介しているような印象を受ける。東京には600軒強の銭湯があるので、実にその9割以上はメディアと無縁であるといってもいい。

「日の出湯」は東京メトロ半蔵門線「住吉」駅B1出口のそば

と言っても、豊富な湯の種類、立派な富士山のペンキ絵など、分かりやすく見栄えのいい特徴があると強いのは仕方ないし、現にこの連載でもいくつかの人気銭湯を取り上げている。しかし、今回紹介する銭湯の魅力は「湯の温度」。最も見栄えがしないものの、最も銭湯で重要な特徴だと思う。東京メトロ半蔵門線「住吉」駅B1出口上がってすぐ、江東区の「日の出湯」を紹介したい。

看板で水温を明記

駅近で四ツ目通り沿いと立地はいいのだが、入口は路地に入り込んだところにあるため外観自体よく見えず、ひっそりと知る人ぞ知る感を漂わせている。玄関には「日の出湯」と書かれた表札が吊り下がっており、左右にさくら錠の下足箱。男湯は右、女湯は左の自動ドアから中へ入る。

日の出湯は番台式銭湯。天井は高く、折上格天井になっている。ロッカーは中央と背側に。境目上にはテレビ。ドリンクケース、スツール、デジタル体重計、身長計などが設置されている。壁側は庭になっているので採光もいい。

壁には営業時間と定休日が書かれたプレートがあり、それとあわせて水温42度前後と書かれている。水温をデジタル水温計で表示させている銭湯は珍しくないが、看板に書いて宣言しているのはなかなか見ない。平日の15時半頃、先客は4~5人ほどいた。

水温+広さ+水枕=安心感

男湯のイメージ(S=シャワー)

正面に、中島絵師による富士山のペンキ絵あり。ボディソープ、リンスインシャンプーは備え付けあり。湯は浅風呂と座ジェットバスというシンプルなつくりで、浴槽横幅いっぱいにキンキンに冷えた水枕と、浅風呂奥側に少し段差がついているのが小さな特徴か。何を隠そう、こちらの湯が湯加減抜群なのである。

湯加減がいい、と言っても熱い湯が好きな人、ぬる湯好きな人とさまざまいるので難しいのだが、「延々と入ってられそうだけど、そのうちのぼせそうな気もする」くらいの水温だと思ってもらえれば……やはり分かりにくいだろうか。自宅のお風呂に湯をはった時の安心感に近くて、それでいて思い切り足を伸ばせる広さと、ほどよく頭を冷やしてくれる水枕。駅前のこんな目立たない場所にこんな極楽があったか、という気分になれる。

後日再訪した時も同じ水温だったので、やはり店内の看板通り、水温には気を遣っているのだろう。水温は銭湯の持っている癖なので、ぜひ自分に合った湯を見つけてみてほしい。

※イメージ図は筆者の調査に基づくもので正確なものではございません

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。