ワンコインで得られる幸せが暖簾(のれん)の先にある。ちょっと熱い湯につかりながら、"裸の社交場"として交流を楽しむもよし、絵師の見事なペンキ絵を眺めるもよし。雨が降っても晴れても、今日は銭湯に行くのにちょうどいい"銭湯日和"。さて、今日の湯は……。

「天狗湯」へは世田谷駅から徒歩1分

今回の銭湯は、世田谷区世田谷にある「天狗湯」。東急世田谷線「世田谷」駅から歩いて1分の銭湯だ。区外から向かう場合、渋谷駅から東急田園都市線で三軒茶屋駅まで行って乗り換える。これだと少し面倒なので、渋谷駅からはバスを使うのがオススメだ。いくつかの系統のバスが、まっすぐ、目の前まで連れて行ってくれる(停留所は「世田谷駅前」)。

徹底された清掃で都内屈指の美しさ

雨が降った時の配慮だろう、玄関の手前には広く庇が取り付けられている。こちらにはベンチや灰皿があって、一服できるスペースに。中に入ると分かるが、ゆっくりくつろぐようなロビースペースは中にはないので、外にあるというわけだ。

短い暖簾をくぐって、中へ。板鍵の下足箱を通って、フロントへ。こちらにはドリンクケースがあるほか、壁の棚には壺や天狗のお面、置物などが飾られており、テレビもここに嵌っている。男湯は左、女湯は右へ進む。

天狗湯は、圧倒的に清潔できれいな銭湯だ。これは、どんな建築様式やどんな充実設備を持っていることよりも大切なことで、まさに一点の曇りもないほど徹底された清掃は、スーパー銭湯を含めても都内で5本の指に入ると思う。それはもう、脱衣所に入った瞬間に感じるほどなのだから、間違いない。

ロッカーは壁側に。上段・中段・下段とあって、下段は大きな荷物が入れられる縦長タイプ。サウナキーのようなスライド回転式鍵バンドを採用。中央に腰掛け、境目に鏡と洗面台、埋め込まれたテレビ。ほか、メガネ洗浄機、血圧計、身長計、デジタル体重計など。天井扇もゆったり回っている。

銭湯では珍しい足湯も設置

男湯のイメージ(S=シャワー)

平日開店すぐの時間で、相客はなんと20人近く。つまり、カランが足りていない状態だ。洗面器を持ちながらしばらくまごまごしていると、70代くらいのおじさんが手招き、入れ替わりで場所を譲ってくれた。

浴室の正面には金富士のペンキ絵。中島絵師が好む題材なので、一見そうかと思うが、実はこちらは田中みずき絵師の作とのこと。湯は42度くらいで適温。主浴槽は浅風呂とバイブラバス、右手側が一段深くなっていて2種のマッサージバスがある。左側壁奥には足湯。銭湯ではほとんど見かけられない珍しい設備だ。その手前には入浴剤を使った薬湯。こちらはややぬるめで41度くらいか。

もちろん浴室内も清潔に保たれている。高い天井に至る、壁に塗られたペンキまで美しい。明るくてきれいな銭湯はそれだけで人を呼ぶ。その後も客足は途絶えることはなかった。

※記事中の情報は2016年6月時点のもの。イメージ図は筆者の調査に基づくもので正確なものではございません

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。