「どうせ辞める会社だし、揉めたとしても強引に辞めてしまえ」「辞めるという時点で円満退職はない」など、退職の意志を固めた方から少々手荒いご意見を聞くことも少なくありません。

当然、今まで活躍していた職場を辞めることになれば、上司や同僚から引き留められるなど、退職にこぎつけるまで相当苦労するといったケースもあるでしょう。ただ、最後の辞め方次第では今までコツコツ積み上げてきた信頼関係が総崩れしてしまう可能性もあります。

次のキャリアにつなげるためにも円満に退職をしたいところですが、どのように進めれば晴れて円満退職となるのでしょうか。

  • 円満に退職するにはどのように進めればいい?(写真:マイナビニュース)

    円満に退職するにはどのように進めればいい?

正しい退職の手順とは

今回は、円満退職をして活躍しているBさんの事例を踏まえてみていきましょう。

以前コンサルティング会社に勤めていたBさんは、10年勤めた会社を円満退職した後、独立起業しました。独立してからも辞めた会社とはOBとして交流が続いており、案件によっては仕事を紹介してもらうなど良好な関係が続いています。また前職の了解のもと、在籍時の顧客から知り合いの会社を紹介してもらうなど、独立してからも着実に顧客を増やしています。

それでは、Bさんが退職までにたどった手順をご紹介します。

1. 就業規則の確認

「退職して独立する」。そう決めていたBさんは、事前に独立準備をしており、おおよその退職日を決めていました。ただし、いつまでに届け出をしなければならいかがわからなかったため、まずは会社のルールである「就業規則」を確認したのです。

「退職する場合には1カ月前までに退職届を所属長まで届け出なければならない」

上述の通り、この会社を退職するには少なくとも1カ月前に退職届を届け出ることが必要なことがわかります。ただし、会社によって届け出る際のルールや届け出るまで期間は異なるので注意が必要です。みなさんももし退職したいと思ったら、まず「就業規則」に記載されているルールをあらかじめ確認しておくようにしましょう。

退職届を何日前に出すかは、会社側が引き継ぎなどに最低限必要な時間を考えて定めています。民法では「退職の意思を伝えてから2週間で退職することができる」と定められていますが、これをそのまま強行してしまうことで十分な引き継ぎを行うことができず、信頼関係を損ねてしまうことにもつながります。

よほどの事情がない限りは、少なくとも就業規則に記載されている期間は「最低限の必要な期間」と認識して退職の準備を進めることが、円満退職の大前提です。

2. 直属の上司への相談

就業規則を確認したBさんは、1カ月前に退職届を出せばよいことを確認しました。しかし、担当するクライアントのプロジェクトが進行中で、プロジェクトが完了するにはあと2カ月程度かかります。また、プロジェクト終了の翌月には会社の営業イベントである展示会も控えていたのです。

こういった事情もありながら、事務所を仮押さえするなど自身の起業後の準備も進めてしまっていることもあったため、直属の上司のスケジュールを確認し、相談の時間を設けてもらうことにしました。

Bさんは退職の相談をするにあたり、独立起業する意思を上司にはっきり伝え、準備も進めていることを話しました。その上で、一番気がかりであるプロジェクトや展示会に向けて、どう引き継ぐべきかを相談しました。すると上司からも、「可能であれば現在のプロジェクトまで業務を行ってもらい、展示会に関しては後任の人にお願いするように調整する」と言われ、おおよその目途をたてることができたのです。

円満に退職するには - 退職意思の伝え方や時期などを社労士が解説

引き継ぎについてもしっかりと相談しておこう

円満に退職するには、「もう辞める会社だから」や「就業規則通りだから」と言って、一方的に自身の都合のみを考えたスケジュールを主張するのではなく、繁忙期を避けるなど現在の会社の都合も考慮すると「責任感がある」と好感が持たれます。またBさんのように、残された人のことも考えて区切りのよいところまで業務を行うなど、退職までのスケジュールに余裕を持つことも円満に退職するためのポイントとなるでしょう。

なお、「最後に年休をまとめて消化したい」といったような場合も、それを踏まえてスケジュールの相談をすることもポイントです。

3. 退職意思の伝え方

退職が進まない理由に、「退職の意思がはっきり伝えられない」や「会社に本気で辞める気持ちが伝わっていない」ということが挙げられます。

たとえば、意志を伝える際に「転職を考えているのですが……」「仕事がきつくて辞めようと思っています」など、「考えている」や「思っている」などの言葉が出てきた場合、本気で辞めようと思っているのではなく、「相談」だと捉えられることが多々あります。その逆で「相談のつもりが退職する話になってしまった」というケースもありますので、相談か退職かをきちんと伝えることも、円滑に退職交渉を進めるには重要です。

また円満に退職するには、なるべく現職のネガティブな理由は伝えないことも重要なポイントです。

「給料が見合わないから」「残業が多くて帰れないため」など、職場環境の改善を促す意図であればいいのですが、たとえ会社のことを思ってであっても、快く受け取ってもらえないケースもあります。「正直に言う」かどうかは、上司との関係性も踏まえて検討する必要があるでしょう。

仮に口頭では正直に伝えたとしても、退職届に「上司との人間関係がうまくいかないため」などと具体的に記載する必要はありません。もしかしたら上司の評価に影響することもあり、関係性が悪化することも考えられます。何より、退職する側が「うまくコミュニケーションが取れない人」というレッテルを貼られてしまうことにもつながりかねません。

最後に退職届の書き方ですが、会社ごとに所定の様式が決まっている場合もありますが、任意の様式の場合は、名前、退職日、退職理由(さまざまな理由はあれど「一身上の都合により」とだけ記載)を記載して届け出るようにしましょう。

転職活動中、転職サイトなどに退職の理由や状況を具体的に書き込む場合についてですが、内容やタイミングによって個人を特定できてしまう場合もあります。会社によっては、そのようなサイトをチェックしている場合もあるため、転職サイトに書き込む場合は、そういった事情も考慮した上で、十分に注意する必要があるでしょう。

筆者プロフィール: 土井 裕介(どい ゆうすけ)

特定社会保険労務士/大槻経営労務管理事務所所属
数名規模から数千人規模の事業規模、業種ともさまざまなクライアントを担当し、サテライト勤務や在宅勤務をはじめとしたテレワークを生かした働き方のアドバイスを得意とする。また、M&Aの案件も数多く担当し、クライアントのニーズに応えたサービスを提供する。