退職すると、原則としてそれまで加入していた健康保険から脱退しなくてはいけません。とはいえ、私たちは常に何らかの公的医療保険(健康保険や国民健康保険など)への加入が義務付けられています。そしてほぼ退職と同時に、どの公的医療保険に加入するかという選択を迫られます。

退職と同時に次の就職が決まっている場合には、就職先で健康保険に加入することになりますが、当面就職する予定がない場合にはどうすべきかを確認しておきましょう。

  • 退職時の健康保険選択の落とし穴

退職時の3つの選択肢

退職して無職となった場合、3つの選択肢があります。

(1)被扶養者として家族等(被保険者)の健康保険に加入する
・同居の場合……年収が130万円(60歳以上等の場合は180万円)未満かつ家族等(被保険者)の年収の1/2未満であること
・別居の場合……年収が130万円(60歳以上等の場合は180万円)未満かつ家族等(被保険者)からの援助額より少額であること

(2)任意継続被保険者としてそれまでの健康保険へ加入する
退職までに継続して2カ月以上の被保険者期間があること
※2カ月以上同じ保険証を使っていたことが目安

(3)国民健康保険へ加入する
要件なし

保険料の違い

それぞれの選択肢における保険料は次のようになります。

(1)被扶養者となる場合
保険料負担なし。家族等(被保険者)の負担も増えない

(2)任意継続被保険者となる場合
退職前の健康保険料の倍額が目安。配偶者や子供等の被扶養者も引き続き加入することができる。

(3)国民健康保険
前年の所得により計算し、所得が多ければ保険料も高くなる仕組み。また、扶養という概念がなく加入する人ごとに保険料がかかるため、加入者が多いと高くなる。

  • 退職時の健康保険選択の落とし穴

保険料で決定…には落とし穴がある

3つの選択肢のうち、どれを選択すべきでしょうか。要件が整っているのであれば、保険料負担のない被扶養者になる、という選択肢がお勧めです。要件が整わなかったり健康保険に加入している家族がいなかったりする場合は、その他の選択となります。

決め手の1つは、今後負担していくことになる保険料でしょう。

任意継続被保険者となる場合の保険料は、会社または加入している健康保険(健康保険証に記載)に確認しましょう。任継続被保険者として退職前の健康保険に加入できるのは2年間で、原則として退職時に決定した保険料が変わらずに2年間続きます。2年経過後は、被扶養者になるか国民健康保険に加入します。

国民健康保険に加入する場合の保険料は、お住まいの市区町村のサイトに計算方法が記載されていますが、電話をして所得や家族構成を伝えると教えてくれます。この時のポイントは、「今の国民健康保険料」だけでなく、翌年以降の保険料の目安も聞くことです。

【例】2018年10月に退職し、当面就職しない場合
・2018年10~2019年3月の保険料……2017年の所得(会社員時代の所得)により計算
・2019年4~2020年3月の保険料……2018年の所得(1月から退職する10月までの所得)により計算
・2020年4~2021年3月の保険料……2019年の所得(無職のため所得なし)により計算

つまり、当面就職する予定がない場合、所得が減るにつれて保険料が下がる可能性があります。保険料の計算方法は毎年変わる可能性があるので、確実な保険料を教えてもらうことはできませんが、「現状の計算方法で算出してください」と伝えるとほとんどの市区町村で教えてもらうことができます。

  • 退職時の健康保険選択の落とし穴

3月までの「今の国民健康保険料」だけを確認し、その額と任意継続被保険者の額を比較して安い方に加入する方が多いようです。仮に任意継続被保険者の保険料の方が安くて任意継続被保険者となった場合、原則として就職して健康保険に加入する等の理由以外で脱退できません。

翌年4月以降に国民健康保険料の方が安くなり、やはり国民健康保険に加入したいと思っても、一度、任意継続被保険者を選択したら変えることはできないということです。

退職後のライフプランも含めて考えるといいでしょう。また、組合健康保険には、国民健康保険にはない給付が用意されている場合もあります。給付の内容も含めてトータルで検討しましょう。

国分さやか

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お金の教室 おさいふほんわか心もほんわか 代表
創価大学教育学部を卒業後、旧日本興業銀行の保険代理店や政府系金融機関に従事。"得をする方法を知りたい!"という一般生活者が多いものの、実は金融知識の不足から損をしている場面、しかも損をしていることにすら気付かない場面があまりに多い現実に問題意識を抱く。これを解消することを決意し、金融教育に携わる仕事を希望してFPの資格を取得。金融資産が増やすことだけでなく、幸福度数も増えることを大切にしている。現在、個人相談業務と並行して、金融の基礎知識を学ぶためのセミナーやFP資格講座、高校・大学、企業への出張講義などで活動中。


2013年
・第4回日本一のマネー講師決定戦E1グランプリにてグランプリ受賞
・第4回FP向上のための小論文コンクールにて奨励賞受賞
2014年
・三省堂より初めての出版(その後、学研出版等より計5冊の出版)
・日本FP協会電話相談員
・資格の学校TAC専任講師
2015年
・NHKラジオ「午後のまりやーじゅ」「ごごラジ!」お金のコーナー担当
2016年
・日本FP協会パーソナルファイナンスインストラクター

<保有資格>:CFP、FP技能士1級、相続アドバイザー2級、小学校教諭第一種、幼稚園教諭第一種