1987年4月1日のJRグループ発足から30周年を記念したツアーが10月17日に発表された。JR各社の車両と路線を網羅するコースだ。翌日18日の13時から申込みを受け付けたところ、なんと10分で完売したという。18日付の日本経済新聞電子版が報じていた。観光列車コースは9泊10日、1人39万~48万円という設定で、費用も時間も用意できる人でないと手が出ない。もっとも、定員は60名だ。1億人を超える日本の人口の中でこういう旅に参加できる人々はまだまだいるはずだ。

JR発足10周年のときは「JR発足10周年記念謝恩フリーきっぷ」が発売された。3日間有効で3万円。20周年のときは「JR発足20周年・青春18きっぷ」が発売された。通常は1万1,500円のきっぷを割り引く形だった。今年はJR旅客各社が個別にフリーきっぷなどを販売するだけで、グループ全体の取組みはなかった。民営化された会社、業績不振の会社では、もはや共同企画は難しいかもしれない。割引きっぷがないことも寂しいけれど、JRグループ全体の取組みがないことに、寂しい思いをした鉄道ファンも多かっただろう。

その意味で、「JR7社共同企画 スペシャルツアー」という企画は2つの意味で喜ばしい。ひとつはもちろん、旅そのものの魅力。もうひとつはJRグループ7社の協力で作られた旅であること。最近になって急増した観光列車やクルーズトレインも、「TRAN SUITE 四季島」が北海道に渡る他はJR各社の自社線内にとどまっていることが多い。日本の鉄道の分断を感じていたけれど、JR7社はひとつになれる。そう思えたことがうれしい。

スペシャルツアーの観光列車コースで乗り継ぐ列車を詳しく見ていこう。

寝台列車「カシオペア」(1~2日目)

JR東日本のE26系客車を使った臨時列車。上野~札幌間の寝台特急「カシオペア」が廃止された後、団体列車として運行されている。今回は青森までの乗車で、上野駅発車時はJR貨物所属の電気機関車EH500形が牽引する。「JR7社共同企画」だから、ここでJR貨物が参加することで体裁を整えたのだろう。ただし、途中駅でEF81形に変更されるとある。EF81形はJR貨物もJR東日本も保有しており、どちらの機関車を使うとまでは明記されていない。ハレの舞台と考えるなら、側面に形式名が大書された「レインボー塗装」の95号機、お召し列車仕様の81号機かもしれない。

北海道新幹線「はやぶさ95号」(2日目)

定期列車で新青森駅7時57分発・新函館北斗駅10時6分着。「カシオペア」は早朝に青森着。つまり「カシオペア」車内では朝食を取らず、奥羽本線に乗り換えて新青森駅へ向かう。朝食は「はやぶさ95号」の車内。通常はJR北海道所属のH5系が使われている。

「はこだてライナー」(2日目)

北海道新幹線新函館北斗駅と函館駅を連絡する列車。

特急「北斗13号」(2日目)

函館駅13時51分発・札幌駅17時41分着。特急形気動車キハ183系を使用する特急列車。午後の最も車窓が映える時間を長距離特急列車で移動する。この日の日没は16時ちょうど。車窓は白老駅あたりまで。大沼から内浦湾までの景色を楽しめる。

「ノースレインボーエクスプレス」(3日目)

日程表では「ノースレインボーエクスプレス」となっている。次の列車が「はやぶさ24号」だから、これは定期列車で普段から「ノースレインボーエクスプレス」車両を使う特急「北斗84号」と思われる。札幌駅7時44分発・函館駅12時7分着。

北海道新幹線「はやぶさ24号」(3日目)

新函館北斗駅13時35分発・盛岡駅15時44分着。こちらはおもにE5系が充当される。

「なごみ(和)」(3日目)

皇室用列車にも使われるE655系「なごみ(和)」で盛岡駅から仙台駅へ。これはかなりうらやましい。時刻は公表されていないけれど、この日の夕食はツアーに含まれていないため、18~19時頃までには仙台入りすると思われる。この日の仙台駅の日没は16時16分。松島海岸の夕日を眺められるといいな。

「現美新幹線」(4日目)

上越新幹線の臨時「とき」として運行している「現美新幹線」車両を、なんと仙台~大宮間で運転する。「現美新幹線」は10月にも旅行商品向け列車として、大宮~新潟間で運行された。改造前のE3系は秋田新幹線「こまち」としてこの区間を走っていた。久々に戻ってきたと思ったら、すっかり変わっちゃって……と、ため息をつきたくなるかも(笑)。ずっと車窓を眺めてきたツアー参加者にとっては良いアクセント。カフェ車両もあり、おもてなし要素も十分だ。

「Maxたにがわ408号」(4日目)

「現美新幹線」の東京駅乗入れは果たせず、大宮駅から東京駅まで2階建て新幹線で移動。E4系はあと1年半で全車引退とも報じられており、ツアー参加者にとっても乗車はうれしいかも。2階席なら防音壁より高く、景色を楽しめる。東京駅到着は12時ちょうど。

「のぞみ347号」(4日目)

東京駅12時40分発・名古屋駅14時21分着。「JTB時刻表」11月号によると700系を使用しているという。E4系と同じく、お別れ乗車の演出だろうか。

特急「(ワイドビュー)ひだ13号」(4日目)

名古屋駅14時48分発・下呂駅16時26分着。特急形気動車キハ85系で運行される。JR東海が発足してから最初の独自形式で、このツアーにふさわしい車両かもしれない。眺望を重視したデザインは383系にも影響を与えた。

急行「ぬくもり飛騨路号」(5日目)

急行「ぬくもり飛騨路号」は今年5月から設定されている臨時列車。キハ85系を使用する。下呂駅11時25分発・高山駅12時10分着。5日目の列車はこれだけ。

特急「花嫁のれん3号」または特急「能登かがり火5号」

午前中に雪の白川郷を訪れ、バスで金沢へ。基本プランは「能登かがり火5号」に乗車する。金沢駅15時0分発・和倉温泉駅15時57分着。「花嫁のれん3号」は希望者にオプションで用意されており、金沢駅14時15分発、和倉温泉駅15時32分着。「花嫁のれん」は加賀藩の嫁入り道具となっていた家紋いり加賀友禅ののれんだ。列車はきらびやかな花嫁のれんをイメージし、輪島塗や金箔など伝統工芸品で彩られている。こちらを選択したい。

「能登かがり火5号」「サンダーバード16号」「のぞみ23号」(7日目)

最新の北陸新幹線に乗らないツアーとなっている点が興味深い。和倉温泉駅からJR西日本の在来線特急列車を乗り継いで京都駅へ。京都観光もなく、N700系の「のぞみ23号」で岡山駅へ向かう。飛騨と北陸でのんびりした分、駆け足気味の移動になる。

特急「しおかぜ13号」(7日目)

岡山駅13時35分発「しおかぜ13号」で瀬戸大橋を渡り、松山駅16時16分着。松山駅前から伊予鉄道市内電車で宿泊地の道後温泉へ。このツアー唯一の私鉄電車だ。伊予鉄道の市内電車は「坊っちゃん列車」が有名だけど、この日の営業は終わっている。残念。

「500 TYPE EVA(エヴァンゲリオン新幹線)」(8日目)

道後温泉からバスで出発。鉄道ではなくバスに乗ってしまなみ海道を通り、瀬戸内海を渡る。列車に乗り続けるだけだと飽きてしまうからだろうか。柔軟な発想だ。鉄道の旅の再開は福山駅13時6分発の「こだま741号」から。鉄道ファン・アニメファンに人気の500系エヴァンゲリオン新幹線に乗り、博多駅15時39分着。787系の特急「かもめ33号」に乗り継ぎ、18時23分に長崎駅に到着する。

「A列車で行こう」(9日目)

午前中に軍艦島クルーズとはうらやましい。長崎駅から「A列車で行こう」で新鳥栖駅へ。「A列車で行こう」は週末などに熊本~三角間で運行されるジャズとバーの列車。長崎出発は平日ならではの特別運行といえる。ビッグバンドで演奏したハイレゾ音源とハイボールで、流れゆく車窓を楽しめるかもしれない。

「さくら564号」(9日目)

N700系の"JR西日本・JR九州バージョン"(8両編成)に乗車し、新鳥栖駅17時27分発・岡山駅19時27分着。日没を過ぎているため、車窓は期待できないけれど、日中の充実ぶりを考えると良い休憩となりそう。夕食は各自となっている。新鳥栖駅で駅弁を調達するか、岡山駅付近で飲食店に入る。

寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」(9~10日目)

「カシオペア」で北へ出発したツアーは、最終列車も寝台列車に。特急「サンライズ瀬戸・出雲」は岡山駅22時34分発。岡山駅では「サンライズ瀬戸」「サンライズ出雲」の連結場面がある。東京駅到着は翌朝7時8分。リフレッシュして朝の東京の街を楽しもう。

JRグループ横断型の企画は今後も続けてほしい

これだけ充実していれば、10分間で完売もうなずける。予約方法を見ると、予約サイトは「びゅうトラベルサービス」(JR東日本系列)だった。つまり、このツアーはJR東日本が幹事となって、各社に協力を要請した形となっているようだ。ツアーの詳細を見ると、境界を越える列車は少ない。しかし制約も多い中で、JR各社の協力ぶりがうかがえる。

既存の観光列車を乗り継ぐだけなら、大手旅行代理店でも手配できる。しかし、このツアーにはJRグループ間の連携がなければ作れない。幹事であろうJR東日本は「カシオペア」車両や「現美新幹線」「なごみ(和)」など特別なしかけを用意した。JR西日本は人気のエヴァンゲリオン新幹線「500 TYPE EVA」の座席を確保。JR九州は「A列車で行こう」の特別運行を実施している。これらの列車の特別運行だけでも大変なのに、それを1本のツアーにまとめるとはすごい。

願わくはこのツアーにとどまらず、今後も各社横断型の楽しい企画を作ってほしい。