当連載の第264回「万感の思いを込めて『流れ星新幹線』準備中 - 九州新幹線の10年」で紹介した通り、JR九州の「流れ星新幹線」は予定通り、3月14日に運行された。九州新幹線の全線開業10周年を記念し、「沿線の人々に感謝」するため、流れ星のように光り輝く列車が走った。すでに目撃動画や写真も多数投稿されている。当日の様子をJR九州に聞いた。

  • 筑後船小屋駅付近の筑後広域公園多目的広場で開催された「流れ星新幹線」ビューイングイベント。花火と競演してフィナーレとなった(画像提供 : JR九州)

九州新幹線800系の車体に描かれた大きな流れ星。その周囲に、応募された「願いごと」が描き込まれた。「願いごと」の応募総数は8,350点。九州内からの応募は全体の67%、九州外からの応募は33%で、47都道府県のすべてから集まったという。年齢層も10歳未満から90代まで幅広い。年代別の応募数は10代が19.8%と最も多く、次いで40代の19.2%だった。すべての「願いごと」は公式サイトで公開されており、応募者のニックネームで「●●のパパ」「●●のママ」があることから、10歳未満はほとんど保護者が投稿しているようだった。

余った「願いごと」の中から、JR九州と西日本シティ銀行、LINE Fukuokaが777点を選び、車両の内外に掲出した。選択基準は、「たくさんの方が共感できるもの」「願いごとを見た方が幸せな気持ち、前向きな気持ちになれるもの」「未来への希望が詰まったもの」とのこと。車外掲出作品は132点で、1号車と6号車の両側面に掲載された。

  • 特別なラッピングを施した「流れ星新幹線」(画像提供 : JR九州)

  • 車体に大きく流れ星が描かれている(画像提供 : JR九州)

  • 流れ星の光跡のように「願いごと」も並んだ(画像提供 : JR九州)

車内掲出作品は645点で、客室およびデッキ部にポスターとして掲出しているという。さらに、「流れ星新幹線」を誕生させた「輝け! みんなの九州プロジェクト」に参加しているアイドルグループ、HKT48のメンバー49名の「願いごと」ポスターも掲出されている。

この車両は5月28日まで、ラッピング新幹線「輝け! みんなの九州」号として運転される予定。博多~熊本~鹿児島中央間で運行される「さくら」「つばめ」に使用され、公式サイトの運行カレンダーにて、毎月下旬に翌月分が発表される。3月28日現在、4月までの運行予定が掲載されており、1日あたりの本数は一定ではなく、2本の日もあれば8本の日もある。運行カレンダーの下部にインターネット予約サービスのリンクもあり、便利だ。

■運行当日、早くも願いが叶う

「流れ星新幹線」は3月14日、鹿児島中央駅を18時35分に発車した。発車合図は鹿児島中央駅長と、熊本市在住の5歳の男の子が担当した。この男の子が選ばれた理由は「これが願いごとだったから」。公開されている「願いごと集」の17ページに、「流れ星新幹線の出発進行!の合図を出したいな☆ おひさま3兄弟ママ(36)」が掲載されている。8,350点の「願いごと」の中で、「出発進行の合図を出したい」はこの1点だけだったとのことで、さっそく願いが叶えられることになった。

残り8,349点の「願いごと」を受けて列車が走り、熊本駅、新玉名駅、筑後船小屋駅、新鳥栖駅に停車して、20時54分に博多駅に到着した。プロジェクト主催のビューイベントは筑後船小屋駅付近の筑後広域公園多目的広場で開催された。

  • 鹿児島中央駅で出発式を開催(画像提供 : JR九州)

  • 「いずみマチ・テラス実行委員会」(鹿児島県出水市)により、竹灯籠が並べられ、灯りをともして列車を見送った(画像提供 : JR九州)

  • 色とりどりのランタンを準備(画像提供 : JR九州)

  • 「流れ星新幹線」の通過に合わせて打ち上げる(画像提供 : JR九州)

この他にも沿線各地の人々に見届けられ、出水駅周辺など沿線の数カ所で自主的な応援イベントも開催された。出水駅周辺の農道に約300人が集まり、竹灯篭に灯りをともしつつ、「流れ星新幹線」を見送った。熊本市の文徳学園グラウンドでは、学生など約300名と「くまモン」が集まり、「流れ星新幹線」の通過と同時に「願いごと」を書いたスカイランタンを打ち上げた。

ビューイングイベントの会場となった筑後広域公園多目的広場では、列車が到着する前の18時からプログラムが始まっていた。会場に大型のエアスクリーンを設置し、鹿児島中央駅出発場面など、各地の「流れ星新幹線」を生中継した。

10年前に放送され、大きな反響を呼んだCM「祝! 九州」も上映され、「西日本シティ銀行 HKT48劇場」での特別イベントの生中継も行われた。「流れ星新幹線」の到着前に「ドリームキャンドル」が配布され、2,105名の来場者が盛り上がっていく。

  • ビューイングイベントの会場で「流れ星新幹線」が停車(画像提供 : JR九州)

そして20時頃、いよいよ「流れ星新幹線」がやってきた。高速走行が使命の新幹線が、駅ではないところで停車する。なんと大胆なしかけだろう。ここで約10分間にわたる光と音のパフォーマンスが行われた。サプライズとして花火も打ち上げられ、列車の窓から放たれるサーチライトと競演した。

■後日、すべての「願いごと」を祈願

「流れ星新幹線」の運行から3日後の3月17日、JR九州と西日本シティ銀行、LINE Fukuokaの3社で太宰府天満宮を参拝。3,850点の「願いごと」を記載した「願いごと集」を納め、祈願した。「願いごと集」には、「叶いそうな願い」「難しそうな願い」などいろいろあり、内容としてはCOVID-19の収束など、健康と平和の願いが目立った。この時代の人々の気持ちが映し出されており、世相も含めた文化史の資料としても、すばらしい内容といえる。

  • 3日後、太宰府天満宮に参拝(画像提供 : JR九州)

  • すべての「願いごと」を祈願した(画像提供 : JR九州)

JR九州は列車を使って人々に感動を与える新たな方法を発明した。鉄道にできることは、ヒトやモノを運ぶだけではない。可能性は無限だ。鉄道事業者から沿線の人々に感謝のメッセージを伝えたい。大きな感動を提供したい。その願いを、JR九州は自ら叶えた。