えちごトキめき鉄道がJR西日本から413系1編成(3両編成)を購入した。同社代表取締役社長の鳥塚亮氏が、「Yahoo! ニュース 個人」の記事で発表した。譲渡確定は3月1日、用途は新たな観光列車とするため。「最小限の設備投資で大きな需要を呼び込もう」との判断だったという。保安装置などの運行機器を整備し、春の大型連休までに運行開始する予定としている。

  • えちごトキめき鉄道に移管される前の旧北陸本線でも、413系の普通列車が運行されていた(2014年撮影)

会社としての正式発表は3月15日頃とのことで、いわば社長による「公式リーク」だ。「暗いニュースが続く毎日の中で、ローカル鉄道を応援していただいている多くのファンの皆様方に、明るい希望を持っていただこう」と鳥塚社長は記している。鳥塚社長はいすみ鉄道社長時代、国鉄形気動車を購入し、観光急行列車を実現して話題になった。同じ手法で、トキ鉄にも「昭和ノスタルジックな急行列車」が誕生しそうだ。

413系は1980年代後半、北陸本線などに投入された近郊形電車。当時、地方の幹線は急行列車が減り、役目を終えた急行形電車が普通列車に使われていた。その急行形電車も1960年代の製造とあって老朽化し、代わりに普通列車用の車両を作る必要があった。しかし赤字の国鉄には予算がない。そこで、元の急行形電車のうち、走行機器の状態が良い車両を選び、車体のみ新造した。こうして登場した形式のひとつが413系である。

  • 七尾線で活躍していた413系(2020年撮影)。新型車両による置換えにともない、運行終了となった

走行機器は直流電化区間と交流電化区間の両方に対応し、電化区間の違いを超えた長距離列車に適した仕様となっている。これはえちごトキめき鉄道にとっても都合が良い。妙高はねうまラインは直流電化区間、日本海ひすいラインは交流電化区間と直流電化区間に分かれているが、413系ならえちごトキめき鉄道の全区間を走行できる。

座席は中央部を4人掛けボックスシート、乗降扉付近をロングシートの配置とし、混雑時に動きやすくした。長距離のグループ利用と短距離の通勤・通学利用の両方を考慮した設計である。

新潟日報の3月3日付の記事「トキ鉄 JR西から413系電車購入」によると、車体のおもな改造は、「国鉄時代の急行色だった赤とクリームの2色に塗り替え」「ボックス席に仮設テーブルを設けて飲食しやすくする」など。観光列車として運行する場合はヘッドマークを取り付けて、撮影する楽しみも提供したいとのこと。

  • 413系の改造元のひとつだった475系の急行色(2013年、筆者撮影)。えちごトキめき鉄道はこの色で塗装する予定

鳥塚社長は前職のいすみ鉄道社長時代、JR西日本から旧国鉄一般形気動車キハ52形を購入し、観光急行列車として走らせた。「ここには何もないがあります」のコピーで、いすみ鉄道を「古き良き昭和の原風景」に仕立て、話題となった。その後、JR西日本から旧国鉄急行形気動車キハ28形も購入し、テーブルを設置して「レストラン・キハ」として観光列車を事業化した。えちごトキめき鉄道の413系導入は、鳥塚社長が開発したともいえる「昭和ノスタルジー列車」を新潟でも走らせようとの主旨だろう。

■高級な「雪月花」と親しみやすい「413系観光列車」の2本立てか

この構想は以前からあったようで、じつは2020年10月頃、えちごトキめき鉄道の車内に「2021年4月 急いで行かない列車Debut(デビュー)予定」という内容のポスターが掲出され、運行予定区間を「妙高高原-直江津-市振」と示していた。これはえちごトキめき鉄道の全区間にあたる。目撃者がTwitterに投稿した写真によると、メインビジュアルにはかつての急行形電車475系が使われており、引退がささやかれていた413系を買うのではないかと噂されていた。鳥塚社長の構想はこの頃から、あるいは就任当時からあったかもしれない。

ところで、えちごトキめき鉄道では先輩格のリゾート列車「えちごトキめきリゾート雪月花」も走っている。こちらは開業前から計画され、専用の車両を新造して2016年から運行開始した。気動車なので直流電化区間・交流電化区間に関係なく、同社の全区間を運行できる。約3時間の乗車、食事付きで約2万円コースという「プチ贅沢」な企画旅行を楽しめる。

  • えちごトキめき鉄道のリゾート列車「えちごトキめきリゾート 雪月花」(2016年撮影)

これに対し、413系の新しい観光列車は「低価格設定」になると筆者は予想する。その理由は2つ。「メニューの多角化」「地元の需要」だ。

メニューを多角化し、高級な「雪月花」と親しみやすい「413系観光列車」の2本立てとする。これはすでにJR九州が「ななつ星 in 九州」と「36ぷらす3」、JR西日本が「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」と「WEST EXPRESS 銀河」の組み合わせで実施している。「ハレ(非日常)とケ(普段の生活)」の2つのメニューを用意する戦略だ。

値段の差はあるものの、どちらが上でどちらが下というわけではない。人生の記念に行くレストランと、普段着で入れる食堂のように、どちらにも良さがあって使い分けられる。観光列車もそうありたい、という考え方だ。「413系観光列車」は、新車に比べて低コストで導入し、食事メニューの有無を選択できるなど、もっと親しみやすい価格帯になると予想される。

沿線地域の人々にも、気楽に乗れる観光列車の需要を開拓できる。えちごトキめき鉄道は今年2月、沿線の上越市、妙高市、糸魚川市在住者限定で、「レストラン雪月花 ~ランチコース・バルコース・スイーツコース~」を開催した。料金はランチコース5,000円、バルコース5,500円、スイーツコース3,500円。通常の「雪月花」と比べて破格の設定だった。多数の参加要望があり、追加便も設定されるほどの人気になった。おもに車で移動する地元の人々にも、えちごトキめき鉄道の観光列車は気になる存在だろう。

この実験的な取組みで、地元にも「気楽に乗れる観光列車の需要」があるとわかった。そこへ供給するために「413系観光列車」は必然といえる。もちろん地元だけでなく、「昭和の列車旅の懐かしさ」は魅力的だし、鉄道の旅を未経験の人にとっても、鉄道の旅を楽しむきっかけになるだろう。しなの鉄道や北越急行、あいの風とやま鉄道、JR信越本線に直通するコースもできるかもしれない。

山と海と雪景色のある鉄道で、新たな観光列車が生まれる。詳細は3月15日以降に明らかになるとのこと。初夏のデビューが楽しみだ。